Track 3

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5・頑張ってお姉さんぶれ、夏美さん! 「あ、お帰り-。うん、時間は大体聞いてた通りだね。偉い偉い。ご褒美にぎゅー、してあげるよー」 「あはは、遠慮するなー、ほれほれ、ぎゅー……うわ、汗臭いよ? だから止めたのにって? あはは、うん。ごめんごめん、判っててやったんだな、これが」 「ん、家の中、綺麗でしょ? おばさんに頼まれてるからね。洗い物とか掃除とか、おばさん達が居ない間、ちゃんとするってば。夜ご飯も準備出来てるけど、まずはお風呂だね、それじゃ」 「んー? 君のお部屋? 勿論、掃除しましたよぉ? それが何かイケナイ事かなぁ、んー?」 「お布団? ああ、それは勿論……部活で頑張ってる君の為にね、帰ってきたらふかふか、お日様の匂いの布団で寝られるように、頑張りましたとも!」 「えー、あたしぃ、何言ってるかわからなーい。布団の下ぁ? んー、何の事だろー」 「そんなに気になるなら、自分で確認すると良いよ-? 基本的な物は動かしてないし、大丈夫じゃない、たぶん、きっと、恐らくは」 「うん、そうだねー、机の上に本があるねー? なんかねー、布団の下に色々と本があったから、整理しておいた。あたし、偉い?」 「……ぷ、あははは! もう、そんなに本気で凹まないでよ。お約束でしょ、おーやーくーそーく。それに君だってお年頃って奴なんだから、ああいうの持ってるのは変じゃないと思うよ、これが」 「でも、お姉さん……ちょっと過激すると思うなぁ、あんな内容、信じちゃ駄目だよ? 女の子って言うのはね、もっと繊細な生き物なんだから、優しくしてあげないと……」 「……朝の方がもっと凄かったって? それは……ぅ、まぁ、その……そうかも、だけどさ」 「う、うっさいの! 顔赤くなんてしてない!! かわいいとかゆーなー! 年下のくせに生意気だぞ、それは!」 「うう、もう……きーにーすーるーなー! にやにやするな! ていうか、なんか勝ち誇った顔するのやーめーろーっ」 「他に何か? し、してないってば、それは、うん。やだなぁ、する訳ないじゃない? もう、変な事言うのやめなさいって」 「……むー、なんか面白くなーい……うっさい、顔見るな……(赤くなってるところ見られるの、恥ずかしいんだってば)」 「だから、きーくーな! もう……ほら、良いからお風呂入りなさいってば……そうそう。本当に汗の匂い、凄いんだから。あ、シャツとか部活で使った服は洗濯機に入れておいて。1回水洗いで汚れ落とさないと無理でしょ、それは」 「よーし、良い子。うん、そうそう。あたしの言う事、ちゃんと聞いてなさいってば。あたしはお姉さんなんだからね? 良し、それじゃお風呂に行ってらっしゃい、ゴーゴーゴー!」 ;バタン、と扉の音 「……ふぅ……良かった。気づかれてない……よね? うん、痕跡なんて残してないはずだもん、大丈夫なはずだって、これは」 「……でも、やり返されたなぁ……うーん、こんなに一緒に居るの、本当に久しぶりだから……あの子、朝は緊張してただけ?」 「……あれ、もしかしてむしろあたしピンチ? やり込められちゃう? そのまま手籠めにされたりする? あの漫画みたいに……?」 「……ま、まぁ、それはそれで……別に良いけどさ……って、しっかりしろ、あたし!? もうちょっと冷静になれ、っていうか初志貫徹しないとでしょ、これは!」 ;ガチャ、と扉の音 「……ふぇ!? な、なんでもないって!! 別に変になったとかじゃないってば!! 良いから、お風呂入ってきなさいって! ほら、ゴーゴーゴーゴー!」 ;もう一度ガチャ、と扉の音 「……うう、いけない。地金が出てきちゃってる……が、頑張れ、大丈夫、あたしならできるってば……まずは夜ご飯の準備。餌付けで主導権を握る……ふふ、あたしの手料理に舌鼓を打つが良いわ……ふふ、ふふふふふ……」 ***** 6・もうちょっと頑張れ、夏美さん! 「はい、お粗末様でしたー……ふふ、美味しかった? ……そっかそっか、良かった良かった」 「ふふん、家事手伝い・花嫁修業ってのは伊達じゃないんだって、これが。君の舌を満足させる料理くらい、ちゃーんと作れるのよ?」 「……(まぁ、事前におばさんに好きな料理とか味付けとか聞いてたから、っていうのもあるんだけどね)」 「ふふ、何でもないって。良いからほら、あたしは片付けするから君はお茶でも飲んでゆっくりしてなさいな。食べ過ぎたんでしょ? すぐに動くと横っ腹が痛くなっちゃうよ?」 「……あ、そうそう。そういえばちゃんと言ってなかったかもだから改めて言うけど、今日からあたし、ここにお泊りだから」 「いや、そんなに驚かなくても。朝、ちゃんと言ったでしょ? 君が学校に真面目に行ったり、夜更かしさせない為に、ってさぁ……ふふん、勝手知ったるとはよく言った物よねぇ♪」 「あはは、やっぱりゲームとか徹夜でする気だったんだ? おばさん、結構厳しいもんねぇ……でも、だーめ。日付が変わるくらいにはちゃんと寝かせるんだから、覚悟しておきなさいな」 「甘えた声だしてもだーめ。ま、寝るまでは色々と付き合ってるあげるからさ、退屈させないわよ、これが」 「? 顔真っ赤にして、どしたの? ……朝みたいな事、またするのかって? ははーん……すけべー」 「君は……シたい? ……そこで慌てて首を振られるとこっちとしては何だかイラっとするわねぇ、これは」 「んー、朝なんであんな事したのかって? ……えっと……誰かを気持ち良くするのに理由が居るかい? ……ごめん、うん。要るわよね、うん。変な事言ったわ、本当、申し訳ないと思ってます」 「……別に誰でも、って訳じゃないって。察しなさいよ、それは」 「ええい、良いから! とにかく、あたしは片付け、君はお茶飲んで休憩! 話はその後ね、オッケー? 良し、頷いたわね、それじゃ、そういうわけだから!」 『(……うわーん、もう! 今、良い流れだったじゃない! 何で意地張るの、あたしは!! っていうか、凄く恥ずかしくて逃げただけ!? どっちにしてもダメダメじゃないの、あたし!)』 『(どうしよう、勘違いされてないかな……うう、だ、大丈夫だよね……挽回できるって、これは……多分、きっと……うう、頑張らないと……)』