Track 3

ファーストなんとか

[翌朝未明] (家から出る準備を済ませ、主人公の寝顔を覗き込む月) (起こしちゃまずいので終始小声で) えへ……本当に、綺麗な(体の)まま朝を迎えられました。 お兄さん、まだ寝てますね。まだ朝の5時だし、当然ですか。 ……本当に、優しかったです。 男の人は狼だって言うので、かっこつけてるだけで寝てる間にされちゃうんじゃないかなって…… お兄さんは信用してくれたのに、肝心の私が最後までできてなくて、ごめんなさいね。 でも私はそういう覚悟で……昨日、お兄さんに声をかけたので……えへ。 「初めては好きな人と」なんて…… ご飯と寝床とお金のために近づいた相手にそんな説教されるなんて、思っても見ませんでしたよ。 (寝てる主人公に近づきキスをする) ん……んちゅ…… えへ……ファーストキス、あげちゃいました。 でも、お兄さん寝てるからノーカン、かな。 ……あーあ。これから金と欲望に満ちた世界で、滅茶苦茶な人生を送るんだろうなって思ったのに、こんな気持ちにされるなんて…… お兄さん、私を救ってくれて、ありがとうございました。 人生、まだまだ捨てたもんじゃないなって、こんなタイミングで気付けるなんて……えへ…… 私って、本当は運が良かったのかな……それとも、ここで全部使っちゃったかな。 でも、お兄さん?信じるにしても、ちょっと無用心ですよ? 知らない女の子を家に泊めて、お財布もソファの上に置きっぱなしだったし。 お金……返しておきました。私にはあんなにもらう資格はありませんので。 あ……でも、千円だけ頂いておきますね。(交通費として) これは……昨日の、お耳にしてあげた分の代金ということで…… ……私、そろそろ行きます。 ずっとここにいるわけにもいきませんし、このままだとお兄さんに迷惑かけてしまうと思いますので。 ……やっぱりもう一回だけ…… ん……(再びキスをする) また、会えるといいですね。 私、もう一度だけ勇気、出してみるので…… お兄さんも、うまく行くよう、祈ってくださると嬉しいです。 バイバイ、お兄さん。 (静かに部屋を去っていく月)