家主と答え合わせ
[次の日の夜]
(Zパッドを眺めながら)
えっとですね、家主。
あのあと調べたんですが、甘酒は原料と製法によって、含有するアルコール量が違ってくるらしいんです。
きっとあの時頂いた甘酒は、僕が飲んだことある米麹のものではなく、酒麹から作ったもの……
すごく甘く感じたのも、酒麹から作られた甘酒には砂糖がたっぷり使われてるからだというのなら、合点(がてん)がいきます。
家主……もしかして知っててわざと僕にあの甘酒を飲ませたんじゃないですか?
(主「まあ、結果オーライだよ」)
え?それってどういう……
(主「だって、たくさん好きって言ってもらえたし」)
…………!?家主の事、好きって……言ってましたか?
えっと……あ……んむぅ……
そう、ですね……確かに、こうやって一緒に生活したり、触れ合って、唇を重ねて……
一般の座敷わらしの活動としては逸脱した行為だというのは、お互いにわかってると思います。
ですが、まあ……僕の成績と、家主から頂いている幸せの提出で、もしバレても多少は大目に見てもらえるのかなって……えへへ……
でも、こういう事、本当は良くないので……
なので、僕の気持ち……表向きには、まだ内緒です。
きっと、今言葉にすると、戻ってこれないような気がするので……
昨日の事は……僕が言った事は、ひとまず心の金庫にしまって置いて頂けると、よいかと思います。
もちろん、家主も一緒ですよ?
前にも言った通り、僕を好きになってはいけませんので……えっと……
……ここからはただの独り言です。別に家主に言ってるわけではないので、聞いてはダメですよ?
(独白調、でもちゃんと聞かせてるつもりのある語り口で)
……僕はずっと憧れてました。幸せになることに。
座敷わらしになる前……まだ家主のような存在(=生前)だった頃から、ずっと。
置かれてる環境上、絶対に手に入るはずもないものを求めて、追っかけて……
幸運にもここ(座敷わらし協会)でやり直せることになって、奇しくも、ずっと追ってきた「幸せ」を集める仕事をもらって……
家主と一緒に暮らして、少しずつ、僕自身の幸せにも気付けるようになって……
僕の心は、家主と一緒にいて初めて満たされるんだなって……
ですが、それは協会員としてはあってはならないこと。
同じ世界に生きていないもの同士が繋がる事は、禁忌なんです。
僕がどんなに家主の事をお慕いしていても、それで縛ってしまえば、人にとっては呪いになります。
今は良くても、いずれ必ず不幸になる……それは僕も望んでいません。
なので……秘密にしなくてはダメなんです。
(/独白調、でもちゃんと聞かせてるつもりのある語り口で)
……独り言、終わりです。
僕は、家主の事を拒みません。
抱擁だって、口づけだって、それが家主の幸せなのであれば、いくらだって……
ですが同時に、もっと外の世界にも目を向けてくださいね?
この家も、僕も……家主の生活の、ほんの一部でしかないんです。
世界には、もっとたくさんの素敵があるんですよ?
僕にはもう、それを手にする事はできませんが……家主にはまだ十分チャンスがあるじゃないですか。
「僕の分まで」とは言えませんが、僕と一緒にいる事で生まれる幸せよりも、もっと大きな幸せを、家主には手に入れて欲しいんです。
(辛そうなチカの話を聞いて少し気分が落ち込んでるが、同時にチカの想いを感じ取って嬉しい、複雑な信条の主人公)
……家主、すこし寂しい気持ちになってますね。
寂しくて、でも暖かくて……幸せのはずなのに、すこし苦いような……そんな感じです。
……変な気分にさせてしまいましたね。ごめんなさい、家主。
もう遅いですし、明日からまた学校ですよね?
今日はもう、お休みになりませんか?
(主「一緒に眠ってくれるなら」)
(少し呆れ、同時に嬉しいチカ)
ん……家主、さっきの話、聞いてましたか?
(主「独り言って言ってたし、表向きには聞いてないよ」)
んむぅ……家主は本当にずるいです……
まあ、でも……良い眠りは幸せにもつながりますし、明日1日が家主にとって良い日になる、そのお手伝いができるなら……えへへ……