Track 3

蚤の市

《ざわざわ……カラカラカラ》 へぇぇ……すごい人がいっぱい、これが蚤の市かぁ~。 座って品物を広げてる人とか、歩き回ってみてる人とか、交渉してる人とか、色々いてちょっとしたお祭りみたいね? あっ、見て見て! あの服可愛い! へー……娘さんのお古を仕立て直したんだぁ……、ほら! ここの所とかフリフリしてて可愛くない? あっ、ねぇあれ! あっちのティーポット、黒猫の形してる! あはは、尻尾の先が注ぎ口になってるかーわいー♪ わぁ……カップもお揃いのがあるんだ。ふふ、並べてみると何だか子猫と親猫みたいね♪ 【リィンと蚤の市に来たあなたは、賑やかな雑踏の中に飲み込まれていた。 右や左にと、楽しそうな笑い声や交渉の声が絶えなく聞こえてくる。 こういった場所はお互いに初めてだったようで、リィンも興味がありそうなものを見つけては目を輝かせている】 カーテンとかタンスなんかも売ってるのねー。 あのカーテンとか部屋に似合いそうじゃない? って、まぁ借りてる部屋だし付けてもしょうがないんだけどさ。 ……でも、いいわねこういうの。 いつかもっと稼げるようになって、拠点を手に入れたらそこに家具とか買ってさ。 色々と2人で内装とか考えたり出来たら、素敵じゃない? ふふ……お互いの趣味が分かれてるのが分かったりして、どっちにするかで喧嘩とかしちゃったりしてね? ふふふふ♪ 【いつか、冒険者として成長した未来。 未だに……彼女が悪夢に魘(うな)される事があるのをあなたは知っている。 魘される彼女を抱きしめて明かした夜は、両手両足の指の数を超える。 表だって言ってくる事はないが、幼馴染の死や”しろねこ”として経験してきた事が、彼女を未だ蝕んでいるのであろう。 だからこそ彼女にとって後悔と懺悔(ざんげ)……現実を見ないよう縋りつくものになっていた未来が。 きっと、かつて思い描いたであろう。希望に満ちたもの少しずつ変わっていってくれているのは、純粋に嬉しいと思えるのであった】 そういえば、あなたは何を探しに来たの? 賑やかで楽しいけど、日用品ばかりで冒険に使うようなものは殆ど置いてないみたいだけど……。 足りないものは特になかったと思うわよ? え? 何か、私が欲しいものはないかって……。 えぇ!? いや私は良いわよ! ……そりゃ可愛いものは多かったけど、まだそこまでお金に余裕ある訳じゃないし! あぁいう生活関係ものは、もうちょっと余裕出てからで良いと思うの。 ……あぁでも、古着は安かったわね。 本格的に寒くなる前に何着か買っておいていいかも? 【どうやら彼女はパーティーの財政面を握っているだけあって、中々趣味のものや好きな物を買うという考えには至っていないようだ。 今後の予定を考え始めてしまったリィンに、さてどうやってプレゼントを渡したらいいかと考えていると、ふとアクセサリーを取り扱っている店が目に入ってきた。 聞いた所、南の暖かい国からやってきたらしい店主はあちらの国の民芸品を扱っているようで、その中の一つ……。 透き通ったほんのりと桃色に染まった貝殻に揺れる、空を写し取ったような綺麗な青色の透き通った飾りをあしらった髪飾りが、あなたの目を引いた】 店主 「おー、そちらにご興味がありますかな? 私の国でよく作られる髪飾りなのですが、子供たちが拾ってきた貝とスカイアイという魚のモンスターの素材で作られてましてな。 ガラスのように透き通ってますが、よくいるモンスターなのでお値段もお安くご案内出来るんですよ! そちらのお嬢さんの髪に添えれば、ぐっとお嬢さんの魅力を引き立てると思いますぞ?」 【にこやかな店主の売り文句を聞きながら、リィンの髪と髪飾りを交互に見やる。 この辺ではあまり見ないタイプの髪飾りだし、確かに彼女に似合いそうだとあなたは思った。】 さっきの店に戻って古着だけでも買っておこうかしら? んー、でもまだ先があるし一度奥まできちんと見てから……値段も聞いてそれから戻ってもいいわよね? 【今後の予定に集中している様子の少女から隠れるように、こっそりと店主に代金を払う。 少し高かったが、確かにガラスを使う品よりはかなり安い値段で買えた。 笑顔を浮かべる店主に、指で静かにしておくように伝え……あなたはゆっくりとリィンに近づき、彼女の髪にそっと髪飾りを刺した】 よっし、決めた! ぐるっと回って値段を見比べた後、一番暖かそうなのを他の店との値段と合わせて交渉させてもら……きゃっ!? ちょ、ちょっとまた急に悪戯して!? 今日、あなたちょっと変……よ? え、何これ? 髪飾り……? これ貝? ……青い飾り、私の目と同じ色の……。 【珍しい南の国のものだっていうから買っちゃった、とわざとおどけて、あなたはリィンに告げた。 貴方の想定以上に驚かせてしまったようで、目を見開いたまま固まってしまった少女の様子に、あなたは慌てて次の言葉を告げた。 この辺じゃ中々見ないっていうし、今買っておかないとって思って!ちゃんと自分のお金で買ったから大丈夫、2人のお金には手を付けてないから、っと。 リィンはあなたの言葉に答えず、黙ったまま何度も髪飾りを触り……それから、ゆっくり口を開いた】 珍しく蚤の市に行こうなんていうから、何かと思ってたんだけど。 ……あなた、今日の目的ってこれだったんじゃないでしょうね? 【リィンは髪飾りを触りながら、俯くように顔を伏せる。……そのせいで貴方からは彼女の表情が良く見えない。 怒らせたのかもしれないと思い、あなたは慌てて謝罪の言葉を少女に伝えた】 【相談しなかったのはごめん、ただ今までプレゼントらしいものをあげた事がなかったから。 少し落ち着いてきた今だからこそ、これまでの感謝を籠めて受け取って欲しいんだ……、と】 ……っ! ……ばか、ばか……場所を考えなさいよっ! こんな、人通りの多い所で……サプライズしようだなんて、何考えて……他の人に迷惑じゃないっ。 ほんと、もう、ほんと……勝手で、優しくて、バカで、どうしようもないんだから……っ!! こんなの、別に望んでなかったのに……そりゃ、もうちょっと先のいつかとか、余裕が出来た頃なら少しはって思ってたけど……ぐすっ。 ばかぁっ……! 貰わない訳ないじゃない!ばかっ!! こんな人込みで、泣かせないでよぉ……もぉ、ぐすっ……ふふ……ふふふ♪ 【ぽろぽろと目から幾つも涙を零し笑うリィンの姿に、喜んで貰えたのという安堵の気持ちが湧いてくる。 ただ……周りの人たちがあなたたちを、微笑まし気に冷やかす野次馬の群れに変わってしまったのは、かなり恥ずかしいものではあったが。 リィンが泣き止むまで、この暖かい祝福の羞恥を一身に受ける事になった点に関してだけは、たあなたの作戦は失敗だったのかもしれない】 ぐすっ、何……恥ずかしい? ふふ……それぐらい、甘んじて受けなさい♪ 女の子を泣かせた、ぐすっ、色男なんでしょ……あなた♪ ふふふっ♪ 【その後、古着を値引きして貰ったり、彼女の個人的な買い物をしながら帰る間中(あいだじゅう)……リィンの笑顔が止むことはなかった】 《がやがや……》