Track 2

散歩しながら会話

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 02.散歩しながら会話 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ //左隣を歩いています。 //手は繋いでいないので、7か7~15の間くらいで 【茅里】 「どう?  いやというほどおいしい空気でしょ?」 【茅里】 「田舎の特権って、お母さんがよく言ってる」 【茅里】 「うーん……私としては代わり映えの無い景色も、  何もない田舎も、意外とつまらなくないよ」 【茅里】 「なにより……今日と明日は兄さんがいるから」 【茅里】 「騒がしいだなんて、そんなふうには思ってないよ」 【茅里】 「むしろまったりな会話で、  私は満足してるし助かってるの」 【茅里】 「ほら。あまり騒がしいのが好きじゃないから、  だから田舎も、これはこれで気に入ってる」 【茅里】 「……なんか、恥ずかしいこと言っちゃったかな、私」 【茅里】 「さっきも言ったよ。  嫌じゃないって」 【茅里】 「ただ、今まではあまり話したことなかったから、  実は緊張してる」 【茅里】 「話したかったんだよ、本当は」 【茅里】 「でもね……なんか話しかけられなかった。  子どもだったのかな……」 【茅里】 「うん、もう大人。  不満なのは身長だけ」 【茅里】 「伸びるかな……。  バスケ部に入ったのに、伸びる気配なし」 【茅里】 「えっ、ジャンプして伸びても着地で縮むの?  あ……そっかぁ……」 【茅里】 「……うそってひどい。  一瞬信じちゃったよ、もう……」 【茅里】 「私は、かなり真剣に悩んでるんだからね」 【茅里】 「可愛いよりは綺麗って言われたいの。  だから、スタイルが良くないと」 【茅里】 「もちろん気にするよ。  しないほうがおかしいってば」 【茅里】 「なんでって言われても……」 【茅里】 「好きな人なんかいないよ。  あ……気になる人は……いるけど……」 【茅里】 「ううん、その人の好みとかは知らないけど、  そういうの関係なく、綺麗だなって思われたい」 【茅里】 「どっちかっていうと、他の女の人に負けないように、  って感じじゃないかな」 【茅里】 「確かに勝ち負けじゃないけど……」 【茅里】 「あ………………あの……あの、ね」 【茅里】 「……ちなみに、ね。  ほんと、ちなみに、なんだけど……」 【茅里】 「綺麗と可愛いだったら、どっちがいいの……?」 【茅里】 「ええっ、違いがわからないの?」 【茅里】 「んーっと………………」 【茅里】 「意外と難しいね。  言葉で説明するの」 【茅里】 「えっと、乱暴な言い方になっちゃうんだけど……」 【茅里】 「可愛いって、上から下に見下ろして言う感じなの。  でも綺麗って、下から上を見上げて言ってる感じかな」 【茅里】 「でもね、別に可愛いって言われたからって、  見くだされてるって思うわけじゃなくて……」 【茅里】 「なんだろう……好きな人とは、  イコールでいたいなって……」 【茅里】 「……そんなふうに思うの」 【茅里】 「伝わってくれたの?  それなら良かった」 【茅里】 「そういうことだから、スタイルが良くなって、  綺麗だねって言われるようになりたい」 【茅里】 「顔は……お母さんに似てるって言われるから、  それなりかなって思ってる」 【茅里】 「お母さん、娘の私が言うのもなんだけど、  すごい美人だと思うから」 【茅里】 「やっぱり似てる?  どのへん?」 【茅里】 「全部……?  ふふっ」 【茅里】 「嬉しそうだねって、それはもちろん嬉しいよ。  お母さん綺麗だし、スタイルもいいし」 【茅里】 「でも顔だけじゃなく、身長も似て欲しかった……」 【茅里】 「身長は完ぺきにお父さん似だもの」 【茅里】 「お母さんのほうが4センチも背が高いの」 【茅里】 「でも似ちゃったものはしょうがないから」 【茅里】 「茅里ちゃんは茅里ちゃんっていわれても、  ピンとこないよ」 【茅里】 「あっ……いっこお願いがあるんだけど……」 【茅里】 「もう少し、ゆっくり歩いてもいい?」 【茅里】 「ううん、速いとかじゃなくて、  その……せっかくの散歩だから」 【茅里】 「何もないけど、楽しみたいな…って」 【茅里】 「あ……あと……できればもういっこ」 【茅里】 「……手、繋いでもいい?」 【茅里】 「兄さんが前に来た時は普通にそうしてたなぁって、  ふと思い出したから」 【茅里】 「……それとも、恥ずかしい?」 【茅里】 「じゃあ……えっと、失礼します」 【茅里】 「……あはっ。昔を思い出すね」 【茅里】 「そんなにもって……だって、2年ぶりだよ?  2年って、昔じゃない?」 【茅里】 「兄さんには大したことなくても、私には大昔に感じるの」 【茅里】 「あれ……大昔って言い方、変?」 【茅里】 「おばちゃんぽいって酷い」 【茅里】 「手、握りつぶしちゃうよ?」 【茅里】 「これでも握力は強いほうなんだから。  ぎゅーって」 【茅里】 「どう?」 【茅里】 「顔が笑ってる……。  なんか悔しい」 【茅里】 「くぅっ――  これならどう?」 【茅里】 「えっ、まだ全然?  むぅ……諦める」 【茅里】 「だって、いじめるために手を繋いでるわけじゃないもの」 【茅里】 「じゃあどういう意味って言われても……」 【茅里】 「……大昔を懐かしむため。  で、いい?」 【茅里】 「懐かしいどころか新鮮って、どうして?」 【茅里】 「……私、そんなにはしゃいでる?」 【茅里】 「それ、いつも言われる。  見た目はおとなしそうなのにって」 【茅里】 「中身を知ってる友達からしか言われないけど」 【茅里】 「うん、そう。  絶対からかわれてる」 【茅里】 「でもそんなにうるさくないでしょ?」 【茅里】 「そうでしょ? 普通でしょ?」 【茅里】 「打ち解けるまでは少し時間がかかるけど、  そこまで人との会話が嫌いとかじゃないから」 【茅里】 「なにより、兄さんとだから、  全然話せるっていうか、話したいっていうか」 【茅里】 「……できれば、早くこれくらい話せるようになりたいって、  小さい頃からずっと思ってたくらい」 【茅里】 「だってほら、うちはお母さんとお父さんとじいちゃんばあちゃん、  そして私でしょ?」 【茅里】 「周りがみんな、友達っていう感じと違う歳の人ばかりで……」 【茅里】 「あっ、兄さんはその、従兄って絶妙な距離感だし」 【茅里】 「親戚っていうとおかたい感じがするけど、  従兄って、より気軽な近さに感じない?」 【茅里】 「あ……これは…………いいの。  従兄でも別に、手を繋ぐのは普通なの」 【茅里】 「普通……じゃない?」 【茅里】 「じゃあ……私と兄さんは普通ってことでいいの」 【茅里】 「な、なに?  急に名前呼ばれるとドキッとするよ」 【茅里】 「どうかしたってなにが?  何もしてないけど……」 【茅里】 「ほんとになにもしてない」 【茅里】 「歩き方おかしいって……」 【茅里】 「……うん、履きなれてない靴だったから、  ちょっと靴擦れしちゃったみたいで……」 【茅里】 「……ごめんなさい」 【茅里】 「でも、せっかくの散歩なのに、  私のせいで切り上げたら悪いから」 【茅里】 「……おめかししたかったの」 【茅里】 「何もない田舎でも、おめかしはしたいものだから」 【茅里】 「……なに?」 【茅里】 「昔やったことって……なに?」 【茅里】 「そんな、おんぶなんて恥ずかしいよ」 【茅里】 「誰ともすれ違ってないけど……」 【茅里】 「そんな迷惑かけちゃうから――」 【茅里】 「……心配、してくれてるんだ」 【茅里】 「……うん、わかった。  ごめんなさい」 //トラック02終わり