兄さんからおんぶされて
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03.兄さんからおんぶされて
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//ずっとおんぶです。
//主人公の右肩に顔を乗せているので、マイク位置は右耳【3】で。
【茅里】
「ごめんなさい。
おんぶしてるうえに、靴まで持ってくれて」
【茅里】
「気にするなっていうほうが無理。
私重いし……」
【茅里】
「重くないってうそ」
【茅里】
「……本当に重くない?」
【茅里】
「信用してないわけじゃなくて――」
【茅里】
「……うん、たくましいと思う。
ごめんね……おとなしく、家までおんぶされる」
【茅里】
「足に風があたってすーすーする」
【茅里】
「痛くないよ。
なんか、ちょっとだけ熱い感じがしてそうな感じ」
【茅里】
「変な言い方になっちゃったけど、
感じがする感じなの」
【茅里】
「だって……顔の方が熱いから……」
【茅里】
「田舎で良かったって思ってる。
ほんと、誰もすれ違わないし」
【茅里】
「あー、でも……くすっ。
友達とすれ違ってみたい……かな」
【茅里】
「後で絶対聞かれるから。
『あの人誰?』って」
【茅里】
「従兄……以外に答え方ないでしょ?」
【茅里】
「あ、親戚って答えもあるね」
【茅里】
「なんて答えるつもりだと思う?」
【茅里】
「くすっ、秘密」
//ここで左肩へ。【7】
【茅里】
「ひーみーつーなーのー」
//いたずらっぽく囁く
【茅里】
「……ん? もっとしがみついてくれって?」
【茅里】
「でないとお尻を……あ、ごめんなさい」
【茅里】
「……気を遣ってくれてるんだね。
優しい」
【茅里】
「でもしがみつくと、背中に押し付けちゃうことになるから……」
【茅里】
「背は小さいけど、こっちは結構育っちゃった」
【茅里】
「言っちゃだめって、どうして?」
【茅里】
「意識しちゃうの?」
【茅里】
「くすっ。意識しちゃうんだ」
//いたずらっぽく囁き
【茅里】
「おめかしした甲斐があった……なんて言ったら、
兄さんに悪いね」
【茅里】
「だって、靴擦れしなかったら、
こんなふうにはなってなかったし」
【茅里】
「あ……でも、おんぶが好きってわけじゃないよ。
して欲しかったわけでもない」
【茅里】
「ただ……ずっとこうしていたいって気持ちが出てきた」
【茅里】
「お父さんもお母さんも忙しい人だからね。
甘えるのを躊躇ってたのが本心」
【茅里】
「子どもでも、ちゃんと見てちゃんと考えてる」
【茅里】
「うん、二人とも大好きだから、
いい子でいたいって思ってる」
【茅里】
「ただ……そのぶん我慢してたこともあって」
【茅里】
「今それを、満足させてもらってる。
兄さんのおかげ」
【茅里】
「俺も満足って、兄さんはおんぶフェチなの?」
【茅里】
「だよね。
私も初めて聞くから」
【茅里】
「もしね、もし兄さんがそういうフェチなら、
家に帰ってからもおんぶっぽくしがみつくけど」
【茅里】
「目覚めそうだって面白い。くすっ」
【茅里】
「……そうだよね。
こうやって話すこと、なかったからね」
【茅里】
「あまり話したことがないのに、
優しいって印象があったってことは――」
【茅里】
「昔から優しさがにじみ出ていたってことかな」
【茅里】
「褒めてる。
今だって、こんなに優しいし」
【茅里】
「お尻触らないように、今も気遣ってくれてる」
【茅里】
「……不可抗力だからいいよ。
私は気にしないから」
【茅里】
「女の子のほうからいいよなんて言うの、
滅多にないと思う」
【茅里】
「そう言って、ここで下すつもりないよね?」
【茅里】
「……優しいよね。
昔から」
【茅里】
「うん、痛くないよ。
平気」
【茅里】
「でも、靴履いて歩くと痛いかも」
【茅里】
「家に帰ったらもう大丈夫。
素足で歩くときは当たらない場所だし」
【茅里】
「部活、少し休める理由ができた」
【茅里】
「サボりたいわけじゃないよ。
でもケガはケガだし」
【茅里】
「無理して跡が残るのは絶対嫌だから」
【茅里】
「あと、部員のみんなにも迷惑かかるからね」
【茅里】
「治るまで、おとなしくしてる」
【茅里】
「背中、幸せ?」
【茅里】
「ねえ、幸せ?」
【茅里】
「くすっ。素直だね」
【茅里】
「いろいろ嬉しいから、
なんか意地悪なこと言いたくなる」
【茅里】
「Sなのかな、私」
【茅里】
「……たぶん違うと思うよ」
【茅里】
「今まで面倒をみてもらって、お世話になって、
今だって、おんぶしてもらってて……」
【茅里】
「だから私にも甘えて欲しいって気持ちが出てきてる」
【茅里】
「……だめ?」
【茅里】
「だめじゃないならいいよね」
【茅里】
「腕、疲れてない?
重くない? 大丈夫?」
【茅里】
「くすっ、幸せなひとときだからって言い方、
シャレの通じる人っぽくて好き」
【茅里】
「あっ……好きっていうのはその、
そういうのがいいってことだから」
【茅里】
「……深くは……気にしないで」
【茅里】
「はぁ……」
【茅里】
「あっ、ごめんなさい。
ため息ついたら、耳にかかっちゃうよね」
【茅里】
「わざとじゃないよ?
本当だよ?」
【茅里】
「あ……こういうフェチ?」
【茅里】
「嫌いじゃないって、くすっ、
こんなに面白い人だったんだね」
【茅里】
「もっと早くからいろいろ話せてればよかった」
【茅里】
「うん、明日までいるんだもんね。
もっとお話しいい?」
【茅里】
「その前に治療って、それはもちろん」
【茅里】
「薬ぬって、絆創膏貼るだけになるけど」
【茅里】
「もっとぎゅっとする?」
【茅里】
「少しずつ体が下がっちゃうから」
【茅里】
「うん、よいしょっと……」
//ここから右肩に戻る。【3】
【茅里】
「もう少しで着くね。
遠かったのに、ほんとごめんなさい」
【茅里】
「もしかして、幸せって言葉、気に入ってる?」
【茅里】
「もう一回ごめんなさいって言っておく……」
【茅里】
「私も幸せって思ってるから」
【茅里】
「だって、人に迷惑かけて幸せって言い方が――」
【茅里】
「うん、今だけだから、目一杯押し付けておくね」
【茅里】
「仕方ないよ。栄養がそういう配分だったんだし」
【茅里】
「個人的には、身長のほうに配分されて欲しかった」
【茅里】
「って、さっきから胸の話ばっかり」
【茅里】
「あ……してたの私だね。
ごめんなさい」
【茅里】
「どうしてなのかな。
兄さんとこういう話をしていてもなぜか平気なの」
【茅里】
「吊り橋効果ってこういうの?」
【茅里】
「なんだ、違うのね」
【茅里】
「ピンチなのは私だけだからかな。
兄さんは元気だし」
【茅里】
「兄さんもピンチなの……?
どうして?」
【茅里】
「秘密って、さっきの私が言った言葉」
【茅里】
「ふぅ~っ」
//耳に息を吹きかけてください
【茅里】
「くすっ。
目覚めさせようかなって、思ったの」
【茅里】
「だって……もうすぐ着いちゃうんだもん……」
【茅里】
「ねえ……兄さん」
【茅里】
「お部屋に戻ってからも、
くっついたりしてもいい?」
【茅里】
「親たちは飲み会でしょ?
私、お酒の臭いは苦手で……」
【茅里】
「うん、みんなで晩御飯を食べた後で」
【茅里】
「延長って、カラオケみたい」
【茅里】
「うん、このへんにはないね。
街まで出れば2件くらいあるよ」
【茅里】
「いつもはほら、部活があるから、
終わるころには暗くなるし」
【茅里】
「土日も部活だし、テスト前くらいかな」
【茅里】
「テスト勉強はちゃんとしてるよ。
成績もそこまで悪くないし」
【茅里】
「だって……いい子でいたいから」
【茅里】
「進学は都会にする予定。
大学は出なさいって逆に言われてる」
【茅里】
「うん、負担があるから、
そのぶんいい大学に入らないとね」
【茅里】
「あ、そろそろ降りるよ。
家はすぐそこだから」
【茅里】
「……ありがとうね」
//ここで降りる。
//【7】か【7~15】
【茅里】
「あ……手、借りてもいい?」
【茅里】
「キズが靴に当たらないようにすると、
歩き方がおかしくなるから」
【茅里】
「……ありがとう」
【茅里】
「ぎゅーっ」
【茅里】
「やっぱり痛くない?
握力もっと鍛えないとだめか……」
【茅里】
「なんで急にって、
んー……なんかしてみたくなったの」
【茅里】
「ささ、お家へ入ろ?」
//トラック03おわり