Track 4

部屋でもくっつきたい

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 04.部屋でもくっつきたい ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ //最初は正面 //【9】※っていうかドア越し //SEノックの音 【茅里】 「茅里です。  入っても大丈夫?」 //ドア越し 【茅里】 「うん、入るね」 //ドア越し //SEドアを開けて入って閉める音 //【1~9】 【茅里】 「えっと……素直に言うと、  もうくっつきたいの」 【茅里】 「あ、そのままベッドに座ってて」 //【7】 【茅里】 「それじゃあ……ぴとっ」 【茅里】 「すごいね。座っていてもおんぶだよこの体勢」 【茅里】 「お風呂ですごく染みただけ。  今は大丈夫」 【茅里】 「いい匂いする?  コンディショナーの匂いじゃないかな」 【茅里】 「お母さんと同じの使ってる。  お母さんの髪、さらっさらだから」 【茅里】 「私もそう?  髪にはかなり気を遣ってるからね」 【茅里】 「こうやって、毛先で……くしゅくしゅ」 【茅里】 「くすっ、くすぐったい?」 【茅里】 「あれ……こういうのダメかな?」 【茅里】 「くすっ、従妹がじゃれてきて困るんだよなぁって顔」 【茅里】 「困ってるの?  本当に?」 【茅里】 「……くすっ。  そうだよね。嘘だよね」 【茅里】 「『離れろ』って、一言もいわないし」 【茅里】 「離れろって言われたら、私は離れるよ?」 【茅里】 「……どうなの?」 【茅里】 「ど・う・な・の?」 //まああざとく 【茅里】 「言わないなら離れない。  こうしてる」 【茅里】 「この体勢だと、体育すわりで前に詰めただけだから、  重くはないよね?」 【茅里】 「私より背の高い子とほとんど変わらないけど……」 【茅里】 「自分で言ってへこみそう。  身長の低さと胸の栄養とでチャラなんて……」 【茅里】 「でもだからほら、従兄とのスキンシップで、  まったりなひとときを過ごせるってことだし」 【茅里】 「くすっ、私もまったりしてるし。  んん~」 //ほおずりの感じ 【茅里】 「この時間だと、いつもは家で何してるの?」 【茅里】 「普通に見たり聴いたりってドラマとかアニメとか?」 【茅里】 「アニメは私も観るよ。  チャンネル少ないからこっちで放送しないのもあるけど」 【茅里】 「学校の友達も同じ状況だから、  話題に困る事はないかな」 【茅里】 「でも、彼氏の話とかされると困ってた。  混ざりづらくて」 【茅里】 「彼氏いないから、私」 【茅里】 「うん。  いないからこうして兄さんにくっついてる」 【茅里】 「自由の身。  って、兄さんは違う?」 【茅里】 「あ、やっぱり聞かなくていい。  そういうのは無しで」 【茅里】 「田舎での休暇を満喫すればいいの」 【茅里】 「静かでしょ?  線路もすごく遠いから、何も聞こえない」 【茅里】 「たまに車の音がするだけ。  あとはかえるの交響楽」 【茅里】 「いい表現でしょ?  でもこれ、お父さんがよく言ってる表現」 【茅里】 「私は……」 //ここから右耳へ //【3】 【茅里】 「かえるみたいにへばりついてる」 【茅里】 「えっ、交響楽がない?  実は、どういうのかよく知らないの」 【茅里】 「クラシックなのだけはわかる」 【茅里】 「そういうのも聴くの?」 【茅里】 「聴かないよね普通は」 【茅里】 「でも静かなBGMだったら、  今は聞いていてもいいかなって思う」 【茅里】 「まったり、まったり……な時間だから」 【茅里】 「そうだ、お家のお風呂どうだった?」 【茅里】 「お父さんが足の伸ばせない風呂は嫌だって言って、  去年大きくしたの」 【茅里】 「古い家なのにお風呂だけピカピカのユニットバス」 【茅里】 「私はもちろん大歓迎だったよ。  広いお風呂が嫌なわけないでしょ?」 【茅里】 「くつろげた?」 【茅里】 「あー、人の家のお風呂だから落ち着かないのは、  あるかもしれないね」 【茅里】 「でも、結構長く入ってなかった?」 【茅里】 「だよね。  足伸ばすと、湯船に長く浸かっちゃう」 【茅里】 「私は兄さんの後に入ったよ」 【茅里】 「え、浮いてなかったって何が?」 【茅里】 「なんでもないって、なんでもなくないの」 【茅里】 「なにが浮いてたのかな?」 【茅里】 「ふぅ~っ」 //耳に息を吹きかけます 【茅里】 「くすっ、慌てる兄さんが好き」 【茅里】 「いつも落ち着いてる感じだから、なんか新鮮なの」 【茅里】 「いたずらするんじゃなく……なに?」 【茅里】 「……じっとしがみついてほしいの?  ただぎゅっと?」 【茅里】 「……うん」 【茅里】 「こうで……いい……?」 【茅里】 「兄さん……温かいね……」 【茅里】 「背中、広いよね……。  すごく落ち着く……」 【茅里】 「私の心臓の音、響いてくるの?」 【茅里】 「ほんとはね、ドキドキしてる……」 【茅里】 「でも今は、私が兄さんを癒す番なの。  だから、頑張ってしがみついてるの……」 【茅里】 「うん、いたずらしたい。  でも我慢してる」 【茅里】 「生活とか、やっぱり大変なの?」 【茅里】 「……じゃあ、ここで疲れと愚痴を消していく」 【茅里】 「私がしがみついていたら、消える?」 【茅里】 「ほんとに?」 【茅里】 「たまに遊びに来られる距離ならいいのにね。  それなら、いつでも癒してあげるのに」 【茅里】 「……うん。  今はその真っ最中」 【茅里】 「私もね……すっごい癒されてるの。  こうしてくっついてるの、すごく幸せ」 【茅里】 「きれいな水とおいしい空気、そして――」 【茅里】 「――ここには私もいるの」 【茅里】 「なんて、ちょっと恥ずかしいこと言ってみた」 【茅里】 「そんな優しく『そうだな』なんて言われたら、  どうしていいかわからなくなる」 【茅里】 「ううん、離れない。  このまま」 【茅里】 「こーのーまーまー。  くすっ……うん、このままー」 【茅里】 「あー、今兄さんの心臓の音、  ちょっと伝わったよ」 【茅里】 「結構速かった。  どうしてどうして?」 【茅里】 「女の子に背中からくっつかれて、  胸の感触伝わっちゃってるからね」 【茅里】 「その通り、って潔いね」 【茅里】 「あー、今もしかしてあくびこらえた?」 【茅里】 「って、そうだよね。  私をおんぶして、あれだけ歩いたし」 【茅里】 「……ごめんなさい。  気が利かなくって……」 【茅里】 「うん、これくらいにする」 【茅里】 「えっ、もっとこうしていたいの?」 【茅里】 「そんなこと言ったら、  もっとこうしていたくなっちゃうよ」 【茅里】 「でも、兄さんは寝ないと。  明日帰っちゃうんだし、また長旅だよ?」 【茅里】 「あっ……」 【茅里】 「……兄さんさえよかったら、だけど……。  一緒に寝るのはどう……?」 【茅里】 「ここにも私の部屋に、親は入ってこないし……」 【茅里】 「ばれても『久しぶりだから』で通じると思う」 【茅里】 「だって実際本当のことでしょ?  久しぶりなんだし」 【茅里】 「兄さんも私もお風呂に入って、  あとは寝るだけだから」 【茅里】 「ここのベッド、広いから大丈夫だよね」 【茅里】 「……だめ?」 【茅里】 「ねえ……だめなの?」 【茅里】 「くすっ、オッケーもらえた。  じゃあ、電気消すね」 //トラック04 おわり