Track 2

お耳をふきふき

(正位置・通常) それでは早速、耳かきをしましょうね。 あ、道具は用意してます。 じゃ~ん。 卒塔婆で作った、耳かき棒です。 (右・通常) ん? 家主さん、どうかしましたか? (正位置・通常) 大丈夫ですよ。 確かにこの耳かき棒はハンドメイドですが、ここのお部屋で地縛ってる間、何本も何本も作ったのでほぼプロ級の出来上がりです。 だから、安心して下さいね。 じゃあ、耳かきしますけど、耳かきといえば、その・・・。 (左・通常) 膝枕・・・、ですよね。 あ、あの・・・。 私、男性と触れあったことがないので、その・・・、き、緊張します。 (正位置・通常) ちょ、ちょっと待って下さい。 深呼吸しますから。 すーはー、すーはー。 はい。 いいです。 心の準備はできました。 どうぞ。 頭を乗せて下さい。 あ、大丈夫ですよ。 家主さんとは波長が合うので、触れることができるはずです。 (SE:膝枕する音・右耳が上) (右・通常) あ、そうじゃなくて。 ええと、私の太ももと太ももの間に頭を乗せるような感じで。 (SE:寝返り・ごそごそ) あ、そうです。 それで、まずはお顔が上になるようにお願いします。 (SE:寝返り・後頭部が太もも側) (正位置・通常) はい、ありがとうございます。 うふ、やっぱり大丈夫でしたね。 家主さんが、この部屋に内見に来た時から思ってたんです。 『あ、この人、取り憑きやすそうだ』って。 内見に来た時に感じませんでしたか? ぞくっとした感じ。 あれ、私です。 えへ。 え~と。 それでは、まずはお耳を拭きましょうか。 着物の袂(たもと)に、手ぬぐいがありますので、それで。 (SE:ごそごそ) あった。 うふ、この白い手ぬぐい、私が死んだ時に額に付けてた三角の布で作ったんですよ♪ いや~、驚きました。 まさか本当に三角のアレを付けるとか、ギャグかと思いました。 幽霊になって自分のお葬式を見ながら、笑いを堪えるのに必死でした。 だって、ププッ、三角の、ぷ、ホントに付けるんですよ。 プププ、クスクス。 あ、ご、ごめんなさい。 思い出し笑いしちゃって。 それでは、まずはお耳を拭かせて頂きます。 (右・通常) まずは右耳から・・・。 (SE:右耳をタオルで拭く音) (右・通常) ・・・うふ、人と触れ合うの、久しぶりだから・・・、嬉しいです・・・。 (右・接近) す~は~、す~は~、す~は~、す~は~。 (右・通常) え? 息遣いが怖いですか? ご、ごめんなさい。 幽霊なので、どうしても怖い感じになっちゃうんです。 気をつけますね。 (間:耳拭き中) (正位置・通常) はい、こちらのお耳はいいですよ。 (左・通常) では、反対のお耳です。 (SE:左耳をタオルで拭く音) (左・通常) ・・・あの。 や、家主さんは女性に触れたことは無いんですよね。 つまり、その、ドーテーさん・・・、ですよね。 あ~、良かった。 私、女性に慣れてる感じの男の人って苦手で。 あ。 ってことはですよ。 私が生前好きだった人はイケメンだったから、耳かきとか緊張しすぎて、私、無理だったかも。 ですよね、ですよね。 じゃあ、初めての耳かきの相手が家主さんみたいなドーテー人間で、ちょうど良かったような気がします。 あ~、家主さんが非モテのドーテー人間で良かった~。 (間:お耳拭き中) あれ? どうかしました? なんというか、お顔から表情が消えてますよ? お耳をフキフキされるの、気持ち良くないですか? (正位置・通常) (手を止めて) その、私、こうやって誰かと会話をするの、本当に久しぶりなので、一方的な会話になってしまって、ごめんなさい。 今までこのお部屋に住んでいた方とは波長が合わなくて、会話できなかったんです。 だから、嬉しくて、つい余計なことばかり言ってしまって。 家主さん、許して・・・、くれますか? 私、許してもらえないと・・・。 (右・接近) 家主さんに、一生取り憑いちゃいますからね。 (正位置・通常) あは、許してくれるんですね。 良かった。 家主さんって、本当に優しい人なんですね。 んっと、では仕上げに、両方同時にお耳をフキフキします。 (SE:両耳をタオルで拭く音) 家主さん、いかがですか? お耳、気持ちいいですか? 金縛りと、どっちがお好きですか? あ、もしかして。 家主さんは金縛りの方がお好きなんじゃないですか? だって、その、いつもそういう縛る感じのエッチなの見てるじゃないですか。 え、あ、だ、だって、一緒に住んでるんですから、家主さんが見てるDVDとか本とか目に入っちゃうんですよ。 仕方ないじゃないですか。 私だって、見たくて見てるわけではないんですよ。 地縛霊だから他の場所に行けないんだから、仕方ないでしょ。 んもう。 (SE:両耳をタオルで拭く音) はい、お耳フキフキは終わりです。 あ、なんですか、その目は。 私はエッチな女の子じゃないんですよ。 ご、誤解しないで下さい。 んもう~。