お耳をふきふき
(正位置・通常)
それでは早速、耳かきをしましょうね。
あ、道具は用意してます。
じゃ~ん。
卒塔婆で作った、耳かき棒です。
(右・通常)
ん?
家主さん、どうかしましたか?
(正位置・通常)
大丈夫ですよ。
確かにこの耳かき棒はハンドメイドですが、ここのお部屋で地縛ってる間、何本も何本も作ったのでほぼプロ級の出来上がりです。
だから、安心して下さいね。
じゃあ、耳かきしますけど、耳かきといえば、その・・・。
(左・通常)
膝枕・・・、ですよね。
あ、あの・・・。
私、男性と触れあったことがないので、その・・・、き、緊張します。
(正位置・通常)
ちょ、ちょっと待って下さい。
深呼吸しますから。
すーはー、すーはー。
はい。
いいです。
心の準備はできました。
どうぞ。
頭を乗せて下さい。
あ、大丈夫ですよ。
家主さんとは波長が合うので、触れることができるはずです。
(SE:膝枕する音・右耳が上)
(右・通常)
あ、そうじゃなくて。
ええと、私の太ももと太ももの間に頭を乗せるような感じで。
(SE:寝返り・ごそごそ)
あ、そうです。
それで、まずはお顔が上になるようにお願いします。
(SE:寝返り・後頭部が太もも側)
(正位置・通常)
はい、ありがとうございます。
うふ、やっぱり大丈夫でしたね。
家主さんが、この部屋に内見に来た時から思ってたんです。
『あ、この人、取り憑きやすそうだ』って。
内見に来た時に感じませんでしたか?
ぞくっとした感じ。
あれ、私です。
えへ。
え~と。
それでは、まずはお耳を拭きましょうか。
着物の袂(たもと)に、手ぬぐいがありますので、それで。
(SE:ごそごそ)
あった。
うふ、この白い手ぬぐい、私が死んだ時に額に付けてた三角の布で作ったんですよ♪
いや~、驚きました。
まさか本当に三角のアレを付けるとか、ギャグかと思いました。
幽霊になって自分のお葬式を見ながら、笑いを堪えるのに必死でした。
だって、ププッ、三角の、ぷ、ホントに付けるんですよ。
プププ、クスクス。
あ、ご、ごめんなさい。
思い出し笑いしちゃって。
それでは、まずはお耳を拭かせて頂きます。
(右・通常)
まずは右耳から・・・。
(SE:右耳をタオルで拭く音)
(右・通常)
・・・うふ、人と触れ合うの、久しぶりだから・・・、嬉しいです・・・。
(右・接近)
す~は~、す~は~、す~は~、す~は~。
(右・通常)
え?
息遣いが怖いですか?
ご、ごめんなさい。
幽霊なので、どうしても怖い感じになっちゃうんです。
気をつけますね。
(間:耳拭き中)
(正位置・通常)
はい、こちらのお耳はいいですよ。
(左・通常)
では、反対のお耳です。
(SE:左耳をタオルで拭く音)
(左・通常)
・・・あの。
や、家主さんは女性に触れたことは無いんですよね。
つまり、その、ドーテーさん・・・、ですよね。
あ~、良かった。
私、女性に慣れてる感じの男の人って苦手で。
あ。
ってことはですよ。
私が生前好きだった人はイケメンだったから、耳かきとか緊張しすぎて、私、無理だったかも。
ですよね、ですよね。
じゃあ、初めての耳かきの相手が家主さんみたいなドーテー人間で、ちょうど良かったような気がします。
あ~、家主さんが非モテのドーテー人間で良かった~。
(間:お耳拭き中)
あれ?
どうかしました?
なんというか、お顔から表情が消えてますよ?
お耳をフキフキされるの、気持ち良くないですか?
(正位置・通常)
(手を止めて)
その、私、こうやって誰かと会話をするの、本当に久しぶりなので、一方的な会話になってしまって、ごめんなさい。
今までこのお部屋に住んでいた方とは波長が合わなくて、会話できなかったんです。
だから、嬉しくて、つい余計なことばかり言ってしまって。
家主さん、許して・・・、くれますか?
私、許してもらえないと・・・。
(右・接近)
家主さんに、一生取り憑いちゃいますからね。
(正位置・通常)
あは、許してくれるんですね。
良かった。
家主さんって、本当に優しい人なんですね。
んっと、では仕上げに、両方同時にお耳をフキフキします。
(SE:両耳をタオルで拭く音)
家主さん、いかがですか?
お耳、気持ちいいですか?
金縛りと、どっちがお好きですか?
あ、もしかして。
家主さんは金縛りの方がお好きなんじゃないですか?
だって、その、いつもそういう縛る感じのエッチなの見てるじゃないですか。
え、あ、だ、だって、一緒に住んでるんですから、家主さんが見てるDVDとか本とか目に入っちゃうんですよ。
仕方ないじゃないですか。
私だって、見たくて見てるわけではないんですよ。
地縛霊だから他の場所に行けないんだから、仕方ないでしょ。
んもう。
(SE:両耳をタオルで拭く音)
はい、お耳フキフキは終わりです。
あ、なんですか、その目は。
私はエッチな女の子じゃないんですよ。
ご、誤解しないで下さい。
んもう~。