Track 2

変容

「ふふ、それでは早速始めますね。貴方の心を素直にして開放する、私の催眠術。 まずは、今座っているソファに仰向けになって下さい。目は開けていて構いませんよ。 最初は深呼吸をして、リラックスしていきましょう。 まずは騙されたと思って、私の言う通りにしてみて下さいね。 それでは、穏やかなペースで、眠る時のように 吸ってー… 吐いてー… 吸ってー… 吐いてー… そのまま、続けて下さい。 段々と身体がリラックスして、落ち着いた気分になっていくと思いますよ。 ソファに体重を預けながら 吸ってー… 吐いてー… 吸ってー… 吐いてー… それでは、そのまま耳に意識を向けてみましょう。 ゆっくりと、目を閉じてみて下さい。どうぞ。 目が閉じて意識が耳に集中すると、私の声やこの部屋の音を さっきより敏感に捉えられるようになりますよ。 ほら、カチ、カチと聞こえてきますよね。この部屋の時計の音。 壁に掛けられた、小さな振り子付の時計なんです。 その音を感じながら、そのままぼーっとしていてください。 しばらく続けていると、頭の中に何か、 時計の音から連想されるイメージが浮かんでくるかもしれません。 例えば…時計の音と同時に、振り子が規則正しく動いて左右に揺れる様子、とか。 カチ、カチと音が鳴るたびに、頭の中でゆら、ゆらと振り子のイメージが揺れる。 時計の針が時を刻むのに合わせて、 カチ、カチと音は鳴り続け、振り子もゆら、ゆらと動き続ける。 それが今まで何度も何度も続いてきたし、これからもずっと続いていくんです。 ずっと、ずーっと。 ふふ、そんな途方もないイメージが浮かんでくると、 ちょっと疲れてきてしまいそうですよね。 もしかすると意識も少しずつぼーっとしてきて、 ゆらゆらと揺れる振り子で頭がいっぱいになっていくかもしれないし、 それを続けていったら、頭や意識がさらにゆらゆらしてきてしまうかもしれません。 でも意識の中に普段とは違う『ゆらぎ』が生まれると、 それに伴って貴方は催眠状態へと少しずつ近付いていくんです。 あえて例えるならば、貴方が今寝転んでいる柔らかなソファに包まれて、 ゆらゆらと揺れながら沈んていくような不思議な感覚、 それでいて揺り籠で赤ちゃんがすやすや眠っているかのような安心感。 普段貴方をコントロールしている意識を手放して、 身体も心も緊張がほどけた、その時に初めて得られる開放感。 このまま私の声を聴いていれば、それらを全て手に入れ、 心地よい世界に浸る事が出来るのです。 ふふ、こうしている間にも時計がカチカチ、 頭の中で振り子がゆらゆら、ゆらゆらして、意識がぼんやりしてきていると思います。 ですから、難しい言葉は無理に理解しようとしなくてもいいですよ。 それよりも力を抜いて、身体をもっと楽にしていきましょうね。 呼吸も…いつの間にか、さっきよりも穏やかで楽な呼吸になっていますね? それで構いませんよ、その方がより意識を手放して心地よい気分に浸れますから。 もしかして、もっとこの感覚を味わうにはどうすればいいのか とか、 そんな欲張りな考えが頭の中に芽生えてきていませんか? ふふ、貴方はそんな事考えなくていいのですよ。 今から私が、教えてあげますから。 だから何も考えずに、ゆらゆらしたまま、私の声、聴いていて下さいね。 では、今から貴方の身体をさらに脱力させて、ちょっとした変化を与えていきます。 何だかさっきよりも眠そうですけれど、もう少し我慢して下さい。 一度、目をふわっと開けてみましょう。ほら、どうぞ。 …ふふ、かなりリラックスされているようですね。 もしかしたら途中で身体がぴくって動いたりするかもしれないですけれど、 それもちゃんとリラックスできて、私の言葉が届いている証拠ですからね。 それでは私の言葉に続いて、やってみましょう。 息を吸いながらぐーーっと大きな伸びをして 息を止めて 目を閉じて、息を吐きながら『すーーっ』と元の姿勢に戻る 息が抜けていくと同時に力も抜けていくし、 頭の中で意識が『ふわーーっ』と発散して、霧のようにおぼろげになっていく そうなると、私の言葉が意識という名の壁を越えて、貴方の内側に届くようになっていく 何度でも呼吸をする度に、息を吐く度に力が抜けて、リラックスが深まって、 身体はソファに預けられていく…そう、吐息とともに余計な力と意識が抜けていく、 ソファに沈み込んでいく、ゆらゆらと『沈む』、『沈む』 『沈む』という言葉を聴くたびに全身の力が抜けて、私の声にさらに没頭できますよ さっきお話しましたよね?柔らかなソファに沈み込むような、心地よさを味わえるって まるで体重という概念をふかふかのソファに奪われて、 ふわふわ、ゆっくりと『沈む』かのような錯覚を覚える でも、身体はむやみに動いたりしないし、心も慌てたりしない それはつまり、この状態がいつも通りに、いいえ、いつも以上に安心できる、という事 安心できるから、もっと楽にして身体を預けたくなる、身体が『沈む』、意識も『沈む』 『沈む』と言われるとまた力が抜けて、代わりに私の優しい声で満たされていく その声が気持ちいいからもっと聞きたいと感じる、 気持ちいいから私の言葉に対して素直になる そう、私の言葉に対して素直になるという事は、 私の声が貴方の心まで届いてはたらきかけ、貴方がより良く変化していくという事 それは日頃押さえつけられている感情が私の声にほぐされて開放された、 とても気持ちの良い状態 だから私の声を聞いて、さらに『沈む』『沈む』『沈む』 この『沈む』感覚がどれだけ心地よい気分なのか、 ほら、貴方自身の心に自分で教えてあげて?」 自分の内側に、おぼろげな意識が向いていく。 背中から広がってくる、とても暖かくて優しい、包み込むような感覚。 自分の身体を受け止めてもらいながら、その中にゆらゆらと沈み込んでいく。 この人の声を聴いて言う通りにしているだけで、 その優しい感覚をゆったりと感じられる。安心できる。素直になれる。 身も心もこの気持ちよさに預けて、もっと沈んでしまいたい。 彼女の声以外が聞こえない位に深い所まで沈んでいけば、 もっと安心して素直になった心に彼女の声が響き、 彼女を感じる事が出来るに違いない。 ふわふわ沈む、より深い所へ。 どんどん沈む、より安心できる所へ。 彼女の声が自分の心に直接届く位まで深い所に沈んだら、 その声だけを感じられるようになる。 そうすれば、もっと心地よい感覚を与えてもらえる。 もう、自分の意思では動けない。動きたいと、思わない。 このまま何も考えず、彼女の声を聴いてどこまでも深く、深く堕とされていきたい… そのまましばらくこの不思議な感覚の中を漂い、意識は深く、深く沈んでいく。 (20秒程度空白) 「ふふ、私の声、聞こえています? すっかり表情も意識も緩んで、 起きているのか眠っているのか分からない位の、素敵なお顔になりましたね。 今なら普段は表に出てこない貴方の心の奥に、直接私の声を届ける事が出来る。 何故ならそれは、貴方が自分自身にはたらきかけ、暗示をかけたことで、 自ら心地よい催眠状態に深く、深く嵌っていったから。良かったですね。 それでは、大事なお願いをしますから、そのままよく聞いて下さい。 突然なんですけれども実は私…ペットを飼いたいって思っていたんです… 主人もほとんど戻らず、一人だと心細くて。 でもここって、動物は飼っちゃいけない決まりじゃないですか。 だから、貴方には今から私のペットになってほしいんです。 ふふ、どう思いました? 貴方の心、とーっても素直になったから、本当の気持ちがよく分かりますよ。 『私と一緒にいたい、遊んでもらいたい』っていう気持ちが。 本当はずっと、ずーっと前から、私のような女性のペットになりたかったんですよね? 大体、先程初めてお会いしたとき… あんなに私の事をいやらしい、うっとりしたような目で見ていたじゃないですか。 それに初対面だというのに、こうやって私の家に押しかけたりして… ほら、否定できませんよね? こんな事、ご近所さんに言いふらされたくないでしょう? おまわりさんに怒られたくないでしょう? ねぇ、私の事、嫌いですか?そんな事ありませんよね? 貴方の心を気持ちよくしてあげられる私の事、好きですよね? だから、言う事を聞ける、お利口さんになりましょうね。 そうすればもっともっと良い事、してあげるから。分かった? ふふ、返事は『アン』でしょ?ワンちゃん。 そう、私の問いかけに、貴方は貴方の意思に関係なくいやらしい鳴き声を返してしまう。 だってそうすると心がゾクゾクして気持ちいいから。 そして可愛く鳴けば鳴くほど、貴方は心の底から犬に生まれ変わっていくの。 分かった?ワンちゃん?ふふ。またいやらしい声が出ちゃったね。 『お手』と言われれば前足を差し出す。 『待て』と言われればそのまま時間が止まったかのように動かなくなるし、 その後に『よし』と言われれば動き出す。 私の命令には何でも従う、お利口な犬。 そして、私の言う通りにする事に最高の悦びを感じるの。 だってそれがペットである貴方の一番の幸せだから。そうだよね? ほら、もっと『アン』『アン』って鳴いてごらん? 貴方のご主人様は私。ご主人様にもっと可愛がって欲しい。 もっと愛されたい。そうだよね? ほら、もう頭の中は私に命令される妄想でいっぱい。 それでいいの。貴方は私の可愛いペットだもんね? 今日からいーっぱい躾けて、可愛がってあげる。とっても楽しみでしょう? だって素直になった貴方の心は、本当は私に支配される事を望んでいるのだから。 ペットになって支配されれば、何の責任も持たなくていい。 ご主人様の言う事を聞ければ沢山褒めてもらえる。喜んでもらえる。 とても素敵な毎日を過ごせる。 普段、理性が働いている状態では、 そんな願いは押し込められて忘れられてしまうけれど、 今日は私の催眠術で貴方の心を素直にして、秘められた願いを叶えてあげたの。 良かったね?『ワンちゃん』? ふふ、今の呼びかけで貴方の心は支配され、 私に愛されたいという願望がとくん、とくんと脈動を始めた… だって貴方はもう、私の犬なのだから。 さあ、その心の高鳴りをたっぷり感じて、大切に育てましょうね。 それでは、一度元の姿に戻りましょうか。 どうしたの?大丈夫ですよ。貴方の心に、暗示を残してあげますから。 貴方はこの後目を覚ましても、私のペットでいたい、 命令されたいという気持ちを心の奥で、無意識に、大切に持ち続けるの。 だから私に『おすわり』と言われると、 たちまち力が抜けて私だけのワンちゃんに戻ってしまう。 『やめ』と言われるまで、元の貴方には戻らない。 そう、『おすわり』という一言だけで、 この気持ちいい感覚と、従順なペットである事を思い出す事ができる。 分かった? ふふ、それでは3つ数えて手を叩くと、貴方は目を覚まします。 目を閉じていた間の記憶は、おぼろげになってしまうかもしれません。 でも今の暗示は貴方の心に大切にしまったまま、絶対に忘れない。ね? それでは目覚めましょう、ひとつ ふたつ みっつ」(ぱんっ)