Track 3

戯れ

彼女に呼ばれたような気がして、目が開く。 いつの間にか眠ってしまったのだろうか、頭が働かない。ぼーっとする。 「あら、お目覚めになりましたね。私の催眠術は、いかがでしたか?」 あまりはっきりとは覚えていない。 ただ、何となく心地よい感覚に包まれていた覚えがある。 「すみません、少しお疲れだったみたいですね。 お飲み物を持って来ますから、しばらくそうされていて下さい」 彼女は台所の方へ向かっていった。柔らかいソファに寝転がったまま、ぼーっとする。 どうやら、結構な時間が経ってしまったらしい。 名残惜しいが、そろそろ家に戻らなければ。 彼女は温かそうなミルクを持って戻ってきた。長い時間お邪魔してしまったことを詫び、 もうそろそろ帰ります、とゆっくりソファから起き上がる。 「あら、もうお帰りになってしまうのですか? もう少しお話したいと思っていたのですが…そうですか…じゃあ…『おすわり』」 その言葉を聴いた途端に思考がストップし、 全身の力が、まるでその場に座り込んでしまうかのように抜けていく。 脳から身体へ優しい快感がぴゅるぴゅると広がっていく。 彼女が、その汚れのない手のひらを自分の前に差し出す。 「『お手』」 全身にゾクンとした感覚が広がり、言われた通りに前足が動いて、彼女の手に触れる。 彼女が自分のご主人様であるという事を思い出し、嬉しさで頭がいっぱいになる。 ご主人様がその手を優しく握ると、体温が伝わってくる。 とても温かい。幸せでとろける。 ご主人様のいう事を聞くだけで、優しい幸福感が溢れてくる。 ご主人様に心を支配されていく。 「ふふ、ちゃんと賢いワンちゃんに戻って来られたね。気分はどう?」 甘い鳴き声を返す。嬉しい、気持ちいい、そんな感情が溢れてくる。 ご主人様が上から自分を見下ろす。その視線は愛情と、 人間である事を捨てた自分への憐れみと、 一匹のペットを支配しているという優越感に満ち溢れていた。 その状況さえも自身の脈動を高まらせ、快感をどくん、どくんと生み出していく。 「ほら、お腹すいたでしょ?」 持ってきたミルクが、床に置かれた平らなお皿に注がれていく。目が釘付けになる。 「早く飲みたいね、お腹すいたもんね。 うふふ、でも、貴方は私の命令で動けなくなっちゃうの。ふふ、『待て』」 ご主人様の命令で、そのまま時が止まったかのように身体が固まってしまう。 胸が苦しい。切ない。 でも、ご主人様の言う通りになってしまう。それが自分の幸せだから。 「すっかり言う事を聞けるようになったね、 じゃあ硬直を解いてあげる。ほら、『よし』」 彼女の言葉で身体の硬直が解かれ、ふらふらと動き出す。 ミルクに口を付け、ぺろぺろと舌が動き出す。 ご主人様が用意してくれたミルク。美味しい。 「ふふふふ、可愛い。じゃあ私の命令で、 催眠誘導を受ける前の、元の姿に戻りましょうね。ほら、『やめ』」 その言葉と同時に、頭にすーっと理性が戻り、我に返る。 自らの異様な光景に、戦慄が走る。 出会ったばかりの女性の前で、自分は何をやっているのだろうか。 あまりの恥ずかしさと情けなさで、胸が張り裂けそうになる。 「ふふふ、いかがですか?私の催眠術。すごいですよね? もしかして、恥ずかしいですか?悔しいですか?そう思う必要は全くないのですよ。 だって貴方は、自分の気持ちに正直になっただけなのだから。 ほら、今度はもっとすごい事してあげる。 気持ちよすぎて、もう元に戻れなくなっちゃうかもしれないよ? だって私に命令されると、言われた通りになっちゃうんだもんね?ほら、『おすわり』」 ご主人様の命令で一瞬で意識が真っ白になって、へたり込んでしまう位に力が奪われる。頭が考える事を放棄する。 ご主人様が、汚れた口を拭いてくれる。頭を優しく撫でてくれる。 ペットにとって、これ以上の幸福があるだろうか。 「ふふ、嬉しい?幸せ?」 とろけきった鳴き声を返し、今自分がいかに幸せであるかをご主人様に伝える。 「良かったねぇ。幸せだね。 じゃあご主人様である私の事、絶対忘れられないようにしてあげる。 あのね、ワンちゃんはお鼻が利くから、 この部屋の匂いをより敏感に感じ取る事ができるの。 ほら、くんくんって、嗅いでごらん? 貴方の神経を刺激し、幸福をもたらす『私の匂い』。 ほら、たっぷり嗅いで、ちゃんと覚えようね」 言われた通りに、くんくんと匂いを嗅ぎ続ける。 鼻で感知した匂いの一つ一つが脳に敏感な刺激を与える。 何だか頭の中に、ご主人様の甘い匂いが広がっていく気がする。 頭に染み付いた芳香で意識がくらくらして、何も考えられない。 ご主人様のいやらしい匂いを教え込まれることで、 自分がただのペットではない、奴隷としての犬になっていくのを感じる。 でも自分がご主人様に言われた通りになれば、それでいい。 それがご主人様の幸せであり、自分の幸せだから。 「段々、息が荒くなってきてるわよ。よだれまで垂らしそうになって… くんくん、ってにおいを嗅ぐ行為自体が気持ちよくなってるんじゃないの? 変な人…ううん、もうワンちゃんなんだっけ? ほぉら、くんくん、くんくん…ふふふ♪ まるでご主人様に発情しちゃったいけないワンちゃんみたい♪ ほら、もう匂いは嗅がなくていいよ… ふふふ、それとも興奮しすぎて止まらなくなっちゃったのかしら」 ご主人様が自分のはしたない姿を見て、喜んでくれている。 そう思うと、もう止まらない。 自らさらに興奮を高め、発情していく。盛りの付いた雄犬のように。 「あらあら、すごいことになってる。お洋服で全然隠せてないわよ。 ねえ、貴方のお股、私にももっとよく見せて?ほら、『ちんちん』」 頭の中で命令がばちばちと弾け、 身体がご主人様の言う通りにする快感を求めて動き出す。 その場で仰向けになり、恥ずかしさに震えながら ご主人様に自らの膨らんだ股間を見せつける。 軽蔑と興奮が入り混じったご主人様の視線が突き刺さり、 それが快感となってさらに固さと大きさを増していく。 「ふふ、とっても恥ずかしい姿。それは私には逆らえないという、降伏の証。 だからご主人様の言う事は何でも聞いちゃうもんね」 ご主人様の言葉が耳に入るだけで、この上なく幸せな気分になる。 今までになく興奮と充実感が高まっていくのを感じる。 「じゃあそのまま、私の前でオナニーしなさい。ほら……」 ご主人様がこちらにお尻を向け、清楚なタイトスカートと、 そこからは全く想像できないような紫の、卑猥な下着をゆっくりと見せつける。 「ふふ、でもすぐに飛びついちゃダメよ。ほら、『待て』」 そのまま目が釘付けになり、動けなくなってしまう。 同時に思考がストップし、ご主人様の卑猥な姿だけが頭の中に広がっていく。 「ワンちゃん、今日はどんな風にオナニーしたいの? 仰向けのままおちんちん出して、私の目の前でその器用な前足を使って、 おちんちんも心もぐちゃぐちゃになるまで扱きたい? それとも……うつ伏せで私の身体に覆いかぶさって、 こすり付けて、セックスしてるつもりで私にマーキングしたい? 好きな方を選ばせてあげるから、自分で準備しなさい?ほら、『よし』」 身体の硬直が解け、興奮で熱を帯びた身体がゆっくりと動いて、 自らを慰める準備を始めていく。 「ワンちゃんは仰向けでおちんちん取り出してもいいし、 私に覆いかぶさってこすり付けてもいいの。 ちゃんとできたら、ご褒美あげるからね。 ふふ、そろそろ準備できた? じゃあとっても気持ちいい、ワンちゃんオナニー始めましょうね。 ほら『ちんちん』ぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅ♪」 ご主人様の卑猥な命令で頭の中がとろけ、 訳の分からないまま、言われるがままにご主人様の目の前で自らを慰め始める。 ご主人様に喜んでもらう為なら、何でもする。 あまりにも異様な状況の中で恥ずかしさと興奮がどろどろと入り混じりながら、 感度を滅茶苦茶に高めていく。息がさらに荒くなる。 「アンアンって鳴いても良いよ?ほら、もっともっと『ちんちん』ぐちゅ、ぐちゅ。 貴方は私のペットなんだから、私の言う通りにするの。分かった?」 情けない鳴き声を何度も上げ、ご主人様を想いながら乱暴に扱き続ける。 まるで獣の本能が呼び覚まされたかのように、腰を打ちつける。 「あんっ♪すっごい♪うふふ、私もえっちな声で応援してあげるから、 さらに激しくしましょ? ほら、私の声もっと聞いて?『ちんちん』ぐちゅぐちゅぐちゅ♪」 ご主人様の言葉で頭の中が染まり、その通りにするだけで、 どうしようもない位に快感と幸せが溢れ出す。 性器がこすれる度に目は焦点が合わなくなり、口はだらしなく開いたまま快感を貪る。 全身が不自然に震え、快楽で完全に狂った一匹の哀れな獣に成り下がる。 「ふふ、気持ちよすぎてもうおかしくなっちゃいそうなのに、 腰が止まらないんだ。すごいね?幸せだね? でもご主人様である私の言いつけなんだから、 言う事を聞き続けるのも当然、気持ちよくなるのも当然。 だからワンちゃんの事、壊してあげる」 ご主人様が突然腰を不規則に振り乱し、しなやかな体をくねらせる。 そのあまりにも妖艶な姿に興奮と快感が止まらなくなり、声が抑えられない。 身も心もゾクゾクと震え、強制的に絶頂へのスイッチが入る。 「ほら、ぐちゅぐちゅ、アン、アン♪ぐちゅぐちゅ、アン、アン♪ ふふ、すごい顔してる。オナニー、そんなに私に見せたかったの? じゃあ、『ちんちん』ぐちゅぐちゅしたまま命令聞いて? 私が10からゆっくりカウントダウンするから、 ゼロになったらワンちゃんは白いおしっこそのまま出して、 私にマーキングしちゃうの。分かった?」 ご主人様の命令に支配される幸福感がさらに溢れ、また理性が吹き飛びそうになる。 ご主人様が何か言葉をかけてくれるだけで甘い鳴き声を上げ、 息が荒くなり、心がご主人様を求めて高まっていく。 「ほら、カウントダウン。 『じゅう』数字が減れば減るほど絶頂に向かって、 ペニスがどんどん敏感になっていくよ。 数字がゼロになって私に命令されると、貴方はイっちゃうの。 『きゅう』気持ちいいんでしょ? よだれダラダラ垂らしちゃっても大丈夫だよ、貴方はワンちゃんだから。 『はち』でも、休んじゃダメ。もっともっと激しく、狂っちゃうまで! 『なな』もっと私に見せつけて。そう、ご主人様にイく所を見せなさい。 『ろく』あは、また大きくなった。本当に仕方のないケダモノ。 『ごー』でも私みたいな飼い主が見つかって、良かったね? 『よん』こんなにご主人様に遊んでもらえて嬉しいね、幸せだね? 『さん』…あら、もう我慢できなさそうね。 ご主人様に発情してすぐ射精しちゃうダメな子は、ちゃんと躾けてあげなきゃ。 ほら、イくのは『おあずけ』」 身体の動きが止まる。全身が行き場を失った快感に震え、ビクン、ビクンと跳ねる。 「あら、腰は止めちゃダメよ。 もちろん、どんなに気持ちよくても私が許可するまで射精は許されないけれどね。 ほら腰を動かして、ほら!『ちんちん』ぐちゅぐちゅ♪アン♪アン♪」 ご主人様の言う通りに腰がへこへこと動く。 物事を判断する基準などもう自分の中にはなく、全てはご主人様に言われるがまま。 でもどれだけこすり付けても、絶頂を迎えることができない。 あと一つだけ、ご主人様の最後の命令だけが足りない。欲しい。欲しい。欲しい。 「ふふ、良い事教えてあげる。 ワンちゃんは良い子だから、何回も『お手』をするのと同じ感覚で、 『イけ』って命令された分だけ何回でもイく事ができるの。 精液が空っぽになっても、 絶頂の感覚だけが何度も何度も押し寄せておかしくなっちゃうんだよ。 だって、貴方は私の可愛いペットだから。何でも言うことを聞けるの。 分かった、ワンちゃん?」 腰だけでなく全身がガクガクと震えて、 ご主人様の言い付けを理解しましたと、精一杯伝える。 「ふふふ、良い顔になってきたわね。 そんな表情を見せられたら、私も興奮してきちゃう。 もうイきたい?この場で情けなくびちゃびちゃと精液をぶちまけて、 身も心も私に飼い殺されてしまいたい?ねぇ、ワンちゃん? そうよね、ここまでいっぱい言う事聞いて頑張ってきたもんね、偉いね。 じゃあもう、貴方の恥ずかしさもプライドも捨てて射精してしまいましょうか。 私も早く見たくて、我慢できないの。 だからカウントダウンの続きと私の命令で、ゼロになって『イけ』って言われたら、 溜まった欲望をぜーんぶ吐き出しちゃおうね」 ご主人様は優しく微笑みながら、至福の瞬間が近づいて来る事を告げる。 「『さん』後の事なんて何も気にしなくて良いのよ。 『にー』貴方は私のペットなんだから、全部お世話してあげる。 『いち』だから私の目の前で射精、しましょ?ちゃんと見ててあげる。 はい、ゼロ。ほら、 『イけ』『私に全て搾り取られて』 『イけ』『壊れるまで』 『イけ』『快感に狂いながら』 『イけ』『ご主人様に感謝して、幸福に染められて』 『イけ』『何度も絶頂し続けて』 『イけ』うふふふふふ♪」 ご主人様の命令で全身が激しく震える。 一つの命としての尊厳がぶちぶちと千切れ落ちて、何も分からなくなる。 真っ白な欲望をその場で吐き出し、辺りが白く染まる。 「可愛い催眠ペットの、出来上がり♪ ね、ワンちゃん♪今、とっても幸せだね♪」 ご主人様の笑い声が耳の中に、頭の中に ぞくぞくと入り込み、埋め尽くす。とても楽しそう。嬉しそう。 ご主人様の幸せが、自分の幸せ。 そう思うとさらに快感が押し寄せて、もう止まらない。 動けなくなるまで、破滅に向かって腰を振り続け、快楽を貪り、全てを捧げる。 これからも、良い子にしていればご主人様に可愛がってもらえる。 ご主人様なしでは、もう生きていけない。 本能でそう理解し、そのままかすかに残された意識を手放す。 それは温かく、優しい闇の中へと消えていった。