家までの道
//駅前です。夜なのでわりと賑やか
//↓【9】
【珠理奈】
「お疲れ様です」
//嬉しそうに
【珠理奈】
「ふふっ、私も今日はお疲れました。
全部レポート終わらせてきたんです」
【珠理奈】
「だから今日明日は自由の身ですよ」
【珠理奈】
「おうちへ遊びに行く約束してからずっと、
頑張ったんですから」
【珠理奈】
「あれ、私は楽しみにしていたんですけど、
そうでもないんです……?」
【珠理奈】
「何もないって言っても、
何かあるのを楽しみにしていたわけじゃないです」
【珠理奈】
「その……一緒に時間を過ごせるなら……みたいな」
【珠理奈】
「――あっ、そっ、そういう系とかじゃなくって――!」
【珠理奈】
「別に何も言ってない?
……ですよね、あはは」
【珠理奈】
「私は……どこに行くにしても、一緒なら楽しいので」
【珠理奈】
「って、疲れてるのに立ち話もなんですよね。
行きましょうか」
【珠理奈】
「私は、ついていきますから」
//歩き出す
//横にならぶ
//↓【15】
【珠理奈】
「実習場所の最寄り駅があそこで、
何度も利用してはいるんですけど……」
【珠理奈】
「こっち側にはほとんどこないですね。
うん、新鮮」
【珠理奈】
「最初は、実習が地獄過ぎて、
道をよく間違えてました」
【珠理奈】
「ほとんどの場合は友達と一緒だから、
迷うことはなかったんですけど」
【珠理奈】
「たまたま一人で行ったときがあって、
その時はもうやばかったんです」
【珠理奈】
「なにも気にすることなく友達について行ってたから、
道なんか全然憶えてなくって」
【珠理奈】
「15分でつくはずが1時間近くうろうろ」
【珠理奈】
「笑われた……」
【珠理奈】
「緊張の毎日だったんです。
そんな簡単に憶えられないですよ」
【珠理奈】
「半べそで友達に電話したときも、
『珠理奈らしい』って笑われましたし」
【珠理奈】
「でも今日は気楽ですね。
憶える必要ないですから」
【珠理奈】
「だって、一緒に歩いてくれるんですよね?」
【珠理奈】
「あー、でも帰りは一人だから憶えないとだめか」
【珠理奈】
「い、いいですよ。
送ってもらわなくても」
【珠理奈】
「別に送ることがかっこいいわけじゃないですよ?
どっちかっていうと優しさだと思うし」
【珠理奈】
「……最初は一人で帰らせてください。
迷ったら連絡します」
【珠理奈】
「たぶん、連絡する破目になると思いますけど……」
【珠理奈】
「頑張ります。
できる女を目指してるんですから」
【珠理奈】
「だから、応援してください。
それなら私、もっと頑張れます」
【珠理奈】
「あ……一人で帰るのを応援するってのも変ですね」
【珠理奈】
「また変なこと言っちゃった……」
【珠理奈】
「その「面白いね」の意味が不満」
【珠理奈】
「私だって、何度も通れば憶えますよ?
だから……ふふっ、何度も遊びに行きます」
【珠理奈】
「……いいですよね?」
【珠理奈】
「じゃあ解決」
【珠理奈】
「解決なんですっ。くすっ」
【珠理奈】
「質問」
【珠理奈】
「歩幅……合わせてくれてます?」
【珠理奈】
「私、歩くのすごく遅いんです。
でも、ついていけていけてるっていうか」
【珠理奈】
「いつものペースで歩けてるので、
合わせてくれてるのかなと」
【珠理奈】
「やっぱりそうですよね。
さすが、無言ハンカチの人」
【珠理奈】
「気遣いは見習わないといけないな、私……」
【珠理奈】
「病棟はおじいちゃんおばあちゃんばっかりなので、
なおのこと気遣いは気を付けないと」
【珠理奈】
「して欲しいことを素直に言ってくれる人なら、
すぐに応えられるんですけど」
【珠理奈】
「お話しが好きな人とか、
お話しが上手な人ばかりじゃないので」
【珠理奈】
「私からしっかり気づいてあげられるようになりたいんです」
【珠理奈】
「なれるよって……そんな簡単には無理ですよ」
【珠理奈】
「はい、頑張ってますけど……」
【珠理奈】
「……そこまで言われたら、意地でもなってみせます。
ちゃんと見ててくださいね」
【珠理奈】
「あ……傍で、ですよ?」
【珠理奈】
「ふふっ、約束ですからね」
【珠理奈】
「あー、でも、もし私にしてほしいことがあったら、
それはちゃんと言ってくださいね」
【珠理奈】
「あなたは言える人なんですから」
【珠理奈】
「口下手ってどの口が言ってますか。
さっきから嬉しくなることばっかり言ってると思いますけど」
【珠理奈】
「そもそも、無言でも嬉しくさせられましたし」
【珠理奈】
「最初のとき、家に帰ってから、
ずっとミニタオル見つめてました」
【珠理奈】
「この優しさを忘れずに、私は頑張ろうって思ったんです」
【珠理奈】
「あのときは、本当に励まされました」
【珠理奈】
「それからは凹むことが少なくなったんです。
なにくそ、って」
【珠理奈】
「できる女に、少し近づけた気がします」
【珠理奈】
「もちろんこだわりますよ。
理想像なんですから」
【珠理奈】
「珠理奈さん、かっこいいね――とか、
頼りになるね、とか」
【珠理奈】
「そう言われる人になりたいです」
【珠理奈】
「い、いえ、可愛いはちょっと違うんです。
……まあ、言ってもらえるのは、嬉しいですけど」
【珠理奈】
「可愛いは妹に任せたいかな、って」
【珠理奈】
「もう嫉妬するくらい可愛いですよ。
身内を褒めるのも変ですけど」
【珠理奈】
「だから余計に、姉としてしっかりしたいんです」
【珠理奈】
「くすっ、頑張ってみせますよ。
だって、彼氏からの応援がありますから」
【珠理奈】
「……彼氏って、いいものなんですね。
あらためて実感が湧いてきました」
【珠理奈】
「恋に疎かったから、しょうがないじゃないですか」
【珠理奈】
「前にも話しましたけど、
環境がすでに彼氏とは無縁だったし」
【珠理奈】
「うん、気を引き締めないと」
【珠理奈】
「……なんで笑うんです?」
【珠理奈】
「あ……これは癖っていうか、
自分で自分に言い聞かせることばっかりだったから」
【珠理奈】
「それがつい……。
……変ですか?」
【珠理奈】
「私っぽいって言われても、
それが良いのか悪いのかがわからないですよ」
【珠理奈】
「このままでいいです……?」
【珠理奈】
「あなたがそう言うなら、じゃあこのままで」
【珠理奈】
「はい? 言い聞かせの独り言、気に入ってるんですか?
さっき笑ったのに?」
【珠理奈】
「可愛いなって思っただけって……。
むー、絶対いつかかっこいいって言わせてみせます」
【珠理奈】
「うん、頑張る。
…………あっ」
【珠理奈】
「また笑われた……」
【珠理奈】
「こうなんですよ私、いっつも」
【珠理奈】
「……頑張るもん」
【珠理奈】
「……あの、一つお願いいいですか?」
【珠理奈】
「名前、呼び捨てで呼んでもらいたいなと」
【珠理奈】
「そのほうがなんか、恋人っぽいので」
【珠理奈】
「私は――
……私は、追々で」
【珠理奈】
「恥ずかしいんです。
だから、追々で、です」
【珠理奈】
「できるならそうしたいんです。
でも、やっぱりまだ慣れてないので」
【珠理奈】
「自然体で呼べるようになったらでいいです?」
【珠理奈】
「じゃあそれで」
【珠理奈】
「はい? あなたからも一個って、なんです?」
【珠理奈】
「腕……?」
【珠理奈】
「……それは、おっけーです」
【珠理奈】
「手を繋ぐほうが恥ずかしいかなって。
腕なら掴まってるって感じもしますから」
【珠理奈】
「では……失礼します」
//↓近めの【15】か【7】
【珠理奈】
「……くすっ」
【珠理奈】
「い、いえっ、変な笑いとかじゃなくて、
なんか……なんかいいなって思ったんです」
【珠理奈】
「でもこんなふうに歩いてると、
邪魔だったりしません?」
【珠理奈】
「真似されました。
でも、なんかいいなって思いますよね」
【珠理奈】
「恋人らしさが増しました」
【珠理奈】
「そういえば、病棟のおじいちゃんから、
彼氏はいるのかって聞かれたんです」
【珠理奈】
「そのときはまだだったので、
いませんって答えたんですけど」
【珠理奈】
「そのおじいちゃんから、
男なんか腕組んで、『あててんのよ』って言えばいちころだ、って」
【珠理奈】
「意味わかります?」
【珠理奈】
「なんです? 教えてください」
【珠理奈】
「私が『あててんのよ』って言ったらドキドキします?」
【珠理奈】
「するんですか!?
……意味がわからないのが悔しい」
【珠理奈】
「なんで教えてくれないんですか。
いじわるしないで教えてください」
【珠理奈】
「……今がそう?
なにがそうなんですか?」
【珠理奈】
「教えてくれないと、腕ひっぱりますよ?
ほらほらこうやって――」
【珠理奈】
「もっとそうなるって、だから何がですかっ」
【珠理奈】
「今度っていつですか」
【珠理奈】
「私の友達とかは知ってることだったりします?」
【珠理奈】
「ええ、みんなネットは見てますね」
【珠理奈】
「私もそれなりに見てますけど、知らないですよ?」
【珠理奈】
「もう、もったいぶらずに教えてください」
【珠理奈】
「えっ…………胸……?」
【珠理奈】
「あ…………」
【珠理奈】
「……ぁ、あててんのよ」
【珠理奈】
「……言ってみました。
いちころしてくれました……?」
【珠理奈】
「私だって恥ずかしいんです。
……ですけど、腕は組んでいたいんです」
【珠理奈】
「だ、だから……あててんのよ……です……」
【珠理奈】
「……気にしない優しさを、お願いします」
【珠理奈】
「その、私の場合は、栄養がここに集まっちゃったので、
それなりにすくすくと育ってしまったわけで……」
【珠理奈】
「主の私としても、もうどうしようもないので……」
//あるじ、読みです
【珠理奈】
「大きいのは嫌いじゃない……?」
【珠理奈】
「ぃ、ぃぇ、私は、ぉ、おとなの女、ですから、
ご披露するのは、ゃ、ゃぶさかではなぃといいますか」
【珠理奈】
「たっ、ただ、ただですよ?
そういうのは、もう少し後だと……」
【珠理奈】
「大変ありがたいなと、ぉ、思っておりまして……」
【珠理奈】
「今は、腕を組んでいるという段階で、
満足していただければ、と……」
【珠理奈】
「だからその、今は、あててんのよで、
納得していただきたく……」
【珠理奈】
「どうして笑うんですかぁ」
【珠理奈】
「ますます好きになったって、
素直に喜べないですよ」
【珠理奈】
「あたふたしてる私を見て言われても……」
【珠理奈】
「はい? ……ええ、海外ドラマは好きですけど」
【珠理奈】
「あっ、ゾンビとか怖いのでなければ」
【珠理奈】
「あー、そのタイトルは前から気になってました。
DVDあるんですか?」
【珠理奈】
「観ながらゆっくり……くすっ、楽しみです」
【珠理奈】
「もう少しで着くんですよね?」
【珠理奈】
「……歩くペース、少しだけ遅くしてもいいです?」
【珠理奈】
「その……もう少し、腕を組んでいたいので……」
【珠理奈】
「ありがとう。ふふっ」