並んで歩く道
//駅前。軽い雑踏
//後ろから
【舞結】
「お帰りなさい」
//振り返って舞結と正対。距離1mほど
【舞結】
「私もさっきついたばっかりだから……」
【舞結】
「えっ、なにが?
具合悪いどころか、とっても元気だけど?」
【舞結】
「ああ……実はかなり緊張してる。
ほら、やっぱり意識しちゃうから……えへへ……」
【舞結】
「この前会ったときと、全然違うの。
心臓が全力出してる感じ」
【舞結】
「む、胸元は見ないで。
言葉だけで察してよぉ」
【舞結】
「……うん、ありがとう。
そういうのはほら……まだ先……でしょ?」
【舞結】
「(それなりのスキンシップはしたいけど……)」
//小声です。
【舞結】
「あ……それでね。
ちょっと提案って言うか、わがままって言うか……」
【舞結】
「お兄ちゃんの家に行ったりするのはまずい……?」
【舞結】
「……大丈夫? ほんとに?」
【舞結】
「晩御飯はね、実は作ってきたの。
お弁当だけど」
【舞結】
「学校終わってからダッシュで帰って、
必死に頑張ってみた」
【舞結】
「ほら、うちはお父さんと私だけだから、
料理は結構するんだよ」
【舞結】
「だからきっと……たぶん……味は悪くないはず」
【舞結】
「……喜んでくれるのは嬉しいけど、
そんなに力入れて喜ぶほどかな」
【舞結】
「食べたら感想よろしくね」
【舞結】
「うん、ついていくね……」
【舞結】
「……いい人だね。
お兄ちゃん」
【舞結】
「突然じゃないよ。
前もそうだった」
【舞結】
「お母さんのこと聞かないでしょ?」
【舞結】
「……あのね、3年前に天国に行っちゃったの」
【舞結】
「で、一緒に写ってる写真があって、
それをお財布に入れてるの」
【舞結】
「だから、お財布を落とした時は、
もうね、死んじゃいそうだった」
【舞結】
「……ほんと、ありがとうね」
【舞結】
「えへっ、じゃあついていく」
【舞結】
「ごめんね。
予定変更なうえに急に家に行きたいなんて言って」
【舞結】
「うん、そうしたいって思ったからちゃんと言ったの」
【舞結】
「そういう約束だもんね。
ってことで、案内お願いしま~す」
//コンビニの中
//後ろ1mくらいの距離
【舞結】
「お茶にしようかな。
それとも炭酸にしようかな」
【舞結】
「お兄ちゃんは何にする?」
//左側50cmくらいに移動
【舞結】
「最近新しく出る飲み物って、透明なやつ多いよね」
【舞結】
「試しに買ってはみるんだけど、
なんか味が薄いから結局ちゃんとしたの買い直しちゃう」
【舞結】
「透明なのに紅茶って、もうなんか間違ってるよね」
【舞結】
「うん、やっぱりお茶系にする」
//左から右へ移動。距離50cmくらい
【舞結】
「ウーロン茶とか緑茶とか言うけど、
ジャスミンだけジャスミンティーだよね」
【舞結】
「えー、ジャスミン茶って言う?」
【舞結】
「いうのかぁ……。
世間は広いね、うん」
【舞結】
「あはっ、じゃあジャスミン茶にする。
お兄ちゃんは?」
【舞結】
「一緒でいいの?」
【舞結】
「……その言い直しずるい。
一緒がいいって」
【舞結】
「うっかり間違って私のを飲んじゃう作戦?」
【舞結】
「あはっ、必死に否定するの可愛い」
【舞結】
「……そういうとこ、やっぱり好き。
えへっ」
【舞結】
「あっ……さ、さてさて、あとはおやつかなー」
//照れ隠しを力押しでごまかす感じで
//主人公の前1mくらいのところ
【舞結】
「ねえねえ、お兄ちゃんはあまいもの好き?」
【舞結】
「和系? 洋系?」
//わけい、ようけい、造語です
【舞結】
「へぇ~、そうなんだ。
私はなんだと思う?」
【舞結】
「当たりっ!
そう、どっちも!」
【舞結】
「って勝ち誇られてる~」
//左側距離50cmへ
【舞結】
「大人のなになにって名前のも多いよね。
つい買っちゃう」
【舞結】
「何が大人なのかわからないけど。
ビターが大人って意味なら、なおさらわからない」
【舞結】
「なるほぉ、値段が高いのもあるのかぁ」
【舞結】
「そういう名前つけて、大人からお金とるのかな」
【舞結】
「あー……言われてみれば確かに、
普通のより高い分、美味しいのも多いね」
【舞結】
「さすが、大人だからわかるんだね」
【舞結】
「で、どれにする?」
【舞結】
「私? ……私は……なめらかプリンかな」
【舞結】
「えっ、これも一緒でいいの?
また間違って私のを食べる作戦?」
【舞結】
「……おやつはお兄ちゃんのと、
別なのを選んでもいい?」
【舞結】
「あっ、一緒は嫌だとかそういうわけじゃないからねっ!」
【舞結】
「(一緒ってのはすごく嬉しいし)」
//つぶやきです
【舞結】
「じゃあこの、ブルーベリーレアチーズケーキで」
【舞結】
「あとはいいかな。
お兄ちゃんはなにか他に買う?」
【舞結】
「じゃあ終わりで」
//前に移動
【舞結】
「えっ、出してくれるの?
いいよこれくらい」
【舞結】
「うー……ありがとう」
【舞結】
「あっ、持つのは私っ。
それくらいはするのっ」
【舞結】
「うん、大丈夫だから。
ペットボトル2本でへなへなになんかならないもん」
【舞結】
「ささ、いこっ」
//帰り道(車の通りはたまにあるくらい)
//左側1m弱(並んで歩く)くらいの距離
【舞結】
「あのね、お兄ちゃん」
【舞結】
「友達にさっそく話しちゃった。
彼氏っぽいのができたって」
【舞結】
「ああ、ぽいっていうのはほら、
まだ恋人未満だからの話ね」
【舞結】
「そしたらね、みんな『見せて会わせて』ってすごいの」
【舞結】
「ん? 今度ねっては言ったけど、
それはお兄ちゃん次第かな」
【舞結】
「だって、勝手に会わせるとか言えないし」
【舞結】
「そういう場に呼ばれたらどうする?」
【舞結】
「……やっぱそうだよね。
緊張しちゃうよね」
【舞結】
「私一人だけならまだいいけど、
わいわい騒ぐ年下がいっぱいいるわけで」
【舞結】
「え、興味あるの?
じゃあ今度みんなとカラオケ行ったときに呼ぶ?」
【舞結】
「あはは、うそうそ。
お兄ちゃん忙しそうだし」
【舞結】
「あはっ……私との時間は特別なんだ。
……嬉しい」
【舞結】
「ちなみに、お父さんにも実は話した」
【舞結】
「なんで驚くの?」
【舞結】
「ふふっ、大丈夫だよ。
お父さん、とっても理解あるから」
【舞結】
「えっとね……ちゃんと話すくらいだから、
よく考えたことだろうし何も言わないって」
【舞結】
「あ、でもいっこ伝えて欲しいって言われた」
【舞結】
「自由恋愛とはいえ、諸所の判断は、
良識を持ってお願いしたいって」
【舞結】
「一字一句違わないよ、これ」
【舞結】
「……あはっ、今の『わかった』って言い方、
なんかかっこよかった」
【舞結】
「でもこれで安心した?
公認だよ?」
【舞結】
「なんで緊張するの?」
【舞結】
「あはっ、ほんと真面目だよね。
しっかりしなきゃって言ったとき、真顔だった」
【舞結】
「そして……それも、お兄ちゃんのいいところ」
【舞結】
「いっぱいみつけてく。
……だって私、一応彼女だし」
【舞結】
「私のも見つけてくの? いいとこ?
うーん……あるかなぁ……」
【舞結】
「可愛いとこって、嬉しくなっちゃう」
【舞結】
「……うん、素直に喜ぶ」
【舞結】
「あはっ……なんかあらためて実感してる。
恋人……恋人、ふふっ」
【舞結】
「私だけだったんだよ?
彼氏いなかったの」
【舞結】
「ほんと、みんなどこで見つけてくるんだか」
【舞結】
「うーん、お兄ちゃんと同じかなぁ。
出会いがない」
【舞結】
「紹介とか嫌なんだよね。
そうしてまで欲しくないっていうか」
【舞結】
「……ふと思ったけど、
私は年上が好きなのかも」
【舞結】
「お父さんの影響?
あー、あるかもしれない」
【舞結】
「お父さん、仕事熱心だし、
それでいて、私のことも気にかけてくれてるし」
【舞結】
「そういうの見て育ったからかな」
【舞結】
「だからほら、お兄ちゃんって呼ぶの、
私は抵抗がなかったっていうか」
【舞結】
「欲しかったのはあるね。
もちろん恋人も欲しかったし」
【舞結】
「そして今、ある意味どっちもゲットできた!
私ラッキーだよね」
【舞結】
「うぅ、お財布落としたのはアンラッキーだけど」
【舞結】
「でもでも、だからこうして会えたわけだしっ」
【舞結】
「結果オーライなのです!
うんっ」
【舞結】
「……お兄ちゃんは違うの?」
【舞結】
「超ラッキーなんだ。
超なんだ」
【舞結】
「……うん、実感してる。
ほんと超ラッキーだったと思うよ……私も」
//帰り道(ときどき車が通る程度)
//主人公の左側1m弱(並んで歩く程度)の距離
【舞結】
「……家までって、あとどれくらいだったりする?」
【舞結】
「まだちょっとあるんだ」
【舞結】
「ううん、疲れてなんかいないよ。
これでもまだぴっちぴちだし!」
【舞結】
「……そうじゃなくって、その……」
【舞結】
「……ただ並んで歩くのかなぁって」
【舞結】
「あ、それでも全然平気なんだけど――あっ」
//手を繋ぎます。距離は若干変わるのかな?
【舞結】
「……あはっ、恋人繋ぎだ」
【舞結】
「本当はね。
最初からこうしたかったんだけど……」
【舞結】
「うん……わかってる。
真面目に考えてくれていたんだよね」
【舞結】
「でもねでもね。
これくらいは普通だし、大丈夫だと思う」
【舞結】
「って、これくらいでもやっぱり心臓バクバクだけどね。
あはは……」
【舞結】
「でも……普通のスキンシップなら全然オッケーだよ」
【舞結】
「海外ではハグとかもあるし。
それとほっぺに……あぅ」
【舞結】
「そっ、そういうのが、ふ、普通に――」
【舞結】
「……うん、そうだよね。
段階だよね」
【舞結】
「今の『一段飛ばしはしないよ』って言い方、
やさしかったしカッコよかった」
【舞結】
「あ、ちょっと手をほどいていい?」
【舞結】
「……ぎゅっ」
【舞結】
「今手を繋いだから、次の段階は腕を組むこと。
一段飛ばしじゃないよね?」
【舞結】
「……えへっ、こっちのほうがいいかな。
しがみついてる感じがする」
【舞結】
「不思議だよね。
手を繋ぐより腕を組むほうが年下っぽい」
【舞結】
「段階は一段上なのにね」
【舞結】
「……あは、なんか『こいびと~』って感じ」
【舞結】
「このままお兄ちゃんの家までい~い?」
【舞結】
「あはっ、じゃあこのまま~」