Track 4

お紺の耳掃除(右耳)

;3 ;息ふきかけ 「(ふっ)」 「あ、ごめんなんさい。 こそばゆい思いをさせてしまいましたか?」 「いきなりだったから驚いただけ? それでしたら、ほっといたします」 「お耳の中は繊細ですから。 少しでも痛かったり、痒かったり、 こそばゆかったりいたしましたら、 すぐにお知らせくださいね?」 「うふふ、だいじょうぶ。 ご心配されることはありません―― だいじょうぶ、だいじょうぶですよ?」 「お紺は、なにせ洗濯狐。 綺麗綺麗にお洗濯することを性(しょう)とする、 そんなあやかしなのですから」 「では、参りますね? ん――――(呼吸音)」 「最初は……耳のふちの方……浅いところを―― こうして――綺麗にしてまいりましょう――」 「ん……ふ……(呼吸音)……<耳かき音> 「<耳かき音>(呼吸音)」 「あ――ん――(呼吸音)――よいしょ――<耳かき音>」 「(呼吸音)……どう、ですか? 痛かったり、かゆかったりはございませんか?」 「平気? でしたらなによりです。 そうしたら、もう少し奥を――え?」 「『じっとだまりこまれると、少しさみしい』 ――ですか?」 「でしたらもちろん、喜んでお話をいたします。 と、いいましても、茶摘みの話など退屈でしょうし ――」 「ん~~……<呼吸音>―― どんなお話がよろしいでしょう?」 「え? 『妖狐ってなに?』でございますか?」 「そのお話なら、もちろんできます。 ……けれど、退屈かもしれませんから、 もしも眠たくなったなら、そのままお眠りくださいね?」 「お耳もきちんと――<耳かき音>――このように、 お掃除すませておきますから」 「それで……ですね。妖狐、っていうのは―― ん……<耳かき音>―― 普通の狐が、長年生きて、知恵とあやかしの力を身に着け――<耳かき音>」 「……ん……(呼吸音)――あやかしの……狐に…… <耳かき音>――妖怪ぎつね、バケギツネになったものの、ことを言います」 「ん……あ、大きいの――少しお待ちくださいね?―― (呼吸音)――ん――<耳かき音>――あ、ん――(呼吸音)――<耳かき音><耳かき音>――あっ。うふふっ ――(接近ささやき)とれました♪」 ;戻って 「あ、それでですね? ……<耳かき音>――妖狐は――そこから――(呼吸音)――修行を重ねて、徳をつんで… …ん――<耳かき音>」 「そうして、長い長い時を経る、と……(呼吸音)―― 仙狐(せんこ)――<耳かき音>――人間で、いったら――<耳かき音>――」 「ん……(呼吸音)――仙人、とおんなじような―― <耳かき音>――カミ様に、近い、力をもった――狐に、 なれて……<耳かき音>」 「そこから、さらに――<耳かき音>―― 修行と、徳とを積み続ければ――(呼吸音)―― カミ様に、だって、近づけ……て――(呼吸音)」 「え? 『お紺さんは――』ですか? ……あ、いえいえ。カミ様になんて――<耳かき音>―― そんな大それたこと……(呼吸音)――今はとっても、思えませんけど――」 「けれど……そうですね――<耳かき音>―― もしなれるならいつの日か、仙狐の位(くらい)に…… のぼってみたくは、思います」」 「『なぜ?』って、それは――<耳かき音> あ! 少しだけ、少しだけ待ってください、旅の方」 「こんなところに……影にかくれて……<耳かき音> ん――んっ――(呼吸音)―― ああ、焦ったら、だめ。 旅の方に、少しの痛みも、決してあたえないように……(呼吸音)」 「ん……(呼吸音)決して焦らず――無理をせず―― <耳かき音>――ふ……ん――(呼吸音)―― だいじょう……このまま、そうっと――もういっかい……<耳かき音>」 「慎重に――慎重に――(ごくり)――<耳かき音> ん……(呼吸音)――――ん……あ……よしっ。 <耳かき音>―――うん、うふふふっ。とれましたよ」 「どうでしょう? これで―― (接近して息吹きかけ、ふーーーっ)」 ;戻って 「……うん」 「うふふっ、これで右のお耳はぴかぴかですね。 綺麗にお洗濯完了です」 「どうでした? 痛かったり痒かったり、 こそばゆかったりは――え? 『それより話の続き』ですか?」 「かしこまりました、旅のお方。ですけれど、ね?」 「(耳をかるぅく指先で叩く感じでマイクをとんとん)」 「うふふっ、こちらはすっかり綺麗ですから、 お体、いれかえてくださいな」 「お紺のお話の続きでしたら、今度は、ね? 左のお耳へとおとどけします」