Track 2

背負われる乙女心

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 02.背負われる乙女心 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ //おんぶして歩くシーンです。 //最初は左肩に顔を乗せているので【7】で 【瑠奈々】 「……ね、ねぇ」 【瑠奈々】 「私を背負って普通に歩いているけれど、  大丈夫なの……?」 【瑠奈々】 「だって……重いでしょ?  貴方、体鍛えてるの?」 【瑠奈々】 「そう……男の人なら普通なのね……」 【瑠奈々】 「はははって……余裕あるのね。  私の弱みを握ったからかしら」 【瑠奈々】 「別にツンケンしてるわけじゃないわ」 【瑠奈々】 「ただ、私が嫌われてるのはわかってるもの……」 【瑠奈々】 「みんなよ、みんな。  こんな口うるさい上司なんか、誰からも好かれないわ」 【瑠奈々】 「……な、なによ」 【瑠奈々】 「みんなのため……?  ……な、なんでそんなふうに思うのよ」 【瑠奈々】 「……ええ。  厳しくしてるのは、別に意地悪をしてるわけじゃないわ」 【瑠奈々】 「私の上司は厳しいどころじゃないの。  すぐにクビにしろって始まるのよ」 【瑠奈々】 「みんな、仕事は頑張っているわ。  今の部署に、さぼりグセのある人なんかいないもの」 【瑠奈々】 「ただ、失敗をしないと覚えない人もいる。  真面目ではあるけど不器用な人もいる」 【瑠奈々】 「それでも頑張ってる仲間でしょ?  ならば、全力でサポートしたいのよ」 【瑠奈々】 「……みんなが頑張れるのなら、  私一人嫌われても構わないわ」 【瑠奈々】 「な、なによ知ってたって」 【瑠奈々】 「愛なんて大袈裟に言わないでちょうだい。  私はただ合理的に考えて――」 【瑠奈々】 「貴方は……嫌っていなかったの?  私を」 【瑠奈々】 「いい上司だなんて、お世辞を言っても無駄よ?」 【瑠奈々】 「ええ、さっきも言ったとおりよ。  仲間と思っているわ」 【瑠奈々】 「今は頼ってくれたって……。  それは貴方しか連絡手段がなくって――」 【瑠奈々】 「……ええ。  まだ会社に人がいる可能性はあるけれど……」 【瑠奈々】 「……あ、貴方はその……真面目に見えていたし、  信じられる人だとは思っていたし……」 【瑠奈々】 「あ、ありがとうなんて言わないで。  お礼を言いたいのは私のほうよ」 【瑠奈々】 「今だって、重さに耐えてこうしてくれているのに」 【瑠奈々】 「意外と軽いって、女性に失礼よ? それ」 【瑠奈々】 「気を遣ってくれているのはわかるけれど……」 【瑠奈々】 「理解して当たり前でしょ?  部下を理解しない上司なんて、上司失格だわ」 【瑠奈々】 「この状況を理解したから?  それは――それは感謝するわ……」 【瑠奈々】 「ね、ねぇ……ちょっと体勢変えてもいいかしら」 【瑠奈々】 「ごめんなさい。ありがとう」 //右肩へ【3】 【瑠奈々】 「貴方は大丈夫?」 【瑠奈々】 「無理はしないで欲しいわ。  わがままを言ったのは私だから」 【瑠奈々】 「途中、休憩が欲しければいつでも言って。  降りるから」 【瑠奈々】 「ノンストップって、  やっぱり急がないときついんでしょ?」 【瑠奈々】 「えっ。  恥ずかしい姿を少しでも見られないようにしたい?」 【瑠奈々】 「……ぁ、ありがとぅ」 【瑠奈々】 「――あっ」 【瑠奈々】 「待って。私、胸を、貴方に――」 【瑠奈々】 「きっ、気にするわよっ!  やだ、待って、降ろして!」 【瑠奈々】 「だめって、こんなセクハラだわ」 【瑠奈々】 「仕事の時間外でも、こんな――」 【瑠奈々】 「……え、ええ……私は、歩けない、けれど……」 【瑠奈々】 「手当してくれるのは、嬉しいの。  ただ、そこまでこのままは……」 【瑠奈々】 「家へ着いたら全て忘れてちょうだい」 【瑠奈々】 「何をって、その……感触とか、  と、とにかくそういう諸々全部よっ!」 【瑠奈々】 「ぅ……。  そんな清々しく『はい』なんて言われたら……」 【瑠奈々】 「……誠実なのね」 【瑠奈々】 「……わかったわ。  黙っておんぶされているわ」 【瑠奈々】 「なによ、今度は笑うわけ?」 【瑠奈々】 「私の口からおんぶって、  そんなの、おんぶはおんぶでしょ?」 【瑠奈々】 「まるで子どもみたいだわ。  恥ずかしい」 【瑠奈々】 「……ええ、父にいつもおんぶされていたわね。  遊園地の帰りとかは、背中で眠っていたわ」 【瑠奈々】 「大きな背中で、とても安心できたの」 【瑠奈々】 「今はって……そんなの……」 【瑠奈々】 「……心強いわ」 //優しく自分にも語り掛ける様に囁いてください 【瑠奈々】 「あの、甘えついでに一ついいかしら」 【瑠奈々】 「この時間、店は閉まっていると思うの。  だから……」 【瑠奈々】 「貴方の服を、何か借りられないかしら……」 【瑠奈々】 「そもそも、今は無一文だから買うわけにもいかないし……」 【瑠奈々】 「なにより、宿をお借りしなければいけないのだし……」 【瑠奈々】 「ほんと、なにからなにまで迷惑をかけてしまって、  頭が上がらないわ」 【瑠奈々】 「えっ? 私そんな口数多かったかしら?」 【瑠奈々】 「だ、だってこんな状況なのよ?  黙っていたら気がおかしくなりそうなのよ」 【瑠奈々】 「なんでって、そんなの、  私は女で貴方は男で……」 【瑠奈々】 「いい年した大人がおんぶされてて……」 【瑠奈々】 「貴方、気遣いとかもしてくれて……」 【瑠奈々】 「こんなの……ほら……」 【瑠奈々】 「うぅ……」 【瑠奈々】 「も、もぉっ!  からかわないでよ!」 【瑠奈々】 「知らないわ。  黙ればいいんでしょ?」 【瑠奈々】 「…………」 //なんか悶々としてください。 【瑠奈々】 「……だめ。  間がもたないわよ」 【瑠奈々】 「黙ってると、恥ずかしさで死にそうになるの」 【瑠奈々】 「私、こんなに優しくされたことないし……」 【瑠奈々】 「ねぎらい? ……そ、そうね。  ねぎらってもらってると思えば……」 【瑠奈々】 「それでもやっぱり恥ずかしぃ……」 【瑠奈々】 「なんなの私。こんな姿人に見せて、  もぉ、自分で自分が嫌になるわ」 【瑠奈々】 「……どうして黙っているの?  笑っていいのよ? こんな無様な姿」 【瑠奈々】 「なによ」 【瑠奈々】 「それは……私だって、貴方がこの状況を笑う人だなんて、  思ってなんかいないけれど……」 【瑠奈々】 「……ほんと自分が嫌だわ、もぉ」 【瑠奈々】 「あっ、ごめんなさい。  また少し体勢変えてもいいかしら」 【瑠奈々】 「緊張で強張ってるのよ。  だからお願い」 【瑠奈々】 「じゃあ……」 //左肩に顔を乗せる体勢に戻ります。【7】 【瑠奈々】 「ふぅ……」 【瑠奈々】 「あっ、ごめんなさいっ。  息を吹きかけるつもりはなかったの」 【瑠奈々】 「ちょっとため息が出ただけ。  本当にごめんなさい」 【瑠奈々】 「そ、そんないたずらするわけないでしょ?  恋人同士でもあるまいし、そんなじゃれ方……」 【瑠奈々】 「は……ぅ……」 【瑠奈々】 「……ねえ、教えて欲しいことがあるの」 【瑠奈々】 「私って、きついと感じる……?」 【瑠奈々】 「事務的……か。  適切な表現かもしれないわね」 【瑠奈々】 「愛想を振りまいているわけでもないから、  結果きつく感じられるのはわかりきっていること」 【瑠奈々】 「でも……ね。  時々、寂しくなるの」 【瑠奈々】 「必要なことが全て、みんながみんな、  受け入れられるわけでもないだろうし……」 【瑠奈々】 「……たまに、部署の責任者として、  自分が嫌いになる事があるの」 【瑠奈々】 「けれどほら……私はこのとおりだから、  会社で相談できる相手もいなければ……」 【瑠奈々】 「仕事一筋で友達作りをしてこなかったから、  愚痴をこぼせる友達もいないし……」 【瑠奈々】 「えっ? ええ、実家には両親がいるわよ?  兄と妹もいるわ」 【瑠奈々】 「でもみんな、私は大丈夫だと思ってる。  だから余計、情けない話はできないのよ」 【瑠奈々】 「……立候補ってなによ」 【瑠奈々】 「友達? 私と貴方が?  ふっ、ふふふふふっ」 【瑠奈々】 「ああっ、またごめんなさいっ。  わざとじゃないのよ、わざとじゃ」 【瑠奈々】 「そもそも、貴方が面白いことを言うから」 【瑠奈々】 「貴方は部下。私は上司。  その関係がある以上、友達は無理じゃないかしら」 【瑠奈々】 「私なら両立できる……?  どういう意味かしら」 【瑠奈々】 「ええ、メリハリはつけているわ。  オンとオフはしっかり線引きしておかないと」 【瑠奈々】 「あっ……けれど今は……オフ、よね」 【瑠奈々】 「ふぅん……」 //何かを考えてる感じです 【瑠奈々】 「……えっ?  ああ、もうすぐ着くのね」 【瑠奈々】 「あの……今更だけれど、  私がお邪魔してもいいのかしら……?」 【瑠奈々】 「確かに、家に来ないかって提案したのは貴方ね。  ……ごめんなさい、お邪魔するわ」 【瑠奈々】 「あっ、痛みは大丈夫よ。  というか、忘れていたわ」 【瑠奈々】 「……ええ、頼らせてもらうわね」 //トラック02 終わり