Chapter3:はじめてのおかいもの
■Chapter3:はじめてのおかいもの
[4月下旬、夕方、家の居間。]
全く……金曜日は憂鬱ね……
だってあなたと私、授業の時間が全然違って、日中はほとんど一緒にいられないんだもの。
手を繋ぎ合ってから今日まで、ほとんどずっと一緒にいたから、こんなに長く離れ離れだと寂しいわ……
この部屋に越してきてからもう2週間かぁ……
学校も今週から始まって、いよいよ大学生だなって実感が湧いてきたわね。
あなたは……もうこの生活には慣れたかしら?
私?ん……私はそれなりに。
もともと送ってもらうよう手配していた食器だったり家電のおかげで生活に不便を覚えることはないし、
学校の方も、まだ授業も始まったばかりでオリエンテーションばかりだけど、なんとかやっていけそう。
お友達になった子に、「いつも笑顔だね」って言われちゃったぁ。
そうね、あなたと出会ってから、私は前よりもずっと笑顔でいられるようになったと思う。
「わかる」?えへへ……
それもこれも、あなたのおかげよ。
あなたのことが大好きだから、多少の辛いことや悩みなんかは気にならないの。
あなたが側にいない間だって、あなたのことを想うだけで私は幸せになれちゃう。
ちょっと単純かしら。
でも、幸せってそういう一面もあると思うのよ?
近くに……物質的な距離だけじゃなくて、心がすぐ側にあるっていう安心感。
会えない時間も、それで乗り越えられるのかなって……思ったんだけど……
でも今日は、朝から夕方まであえなくて……寂しいって思ってた。
きっと寝食ともにしていく中で、更に心が強くつながっている分、
心と体の距離にギャップが出てしまうと、それがストレスになってしまってるのよね。
だから……ね?
ん……ちゅ、ぅふ、ん、ちゅぷ……
えへへ、これで心も体もいつもの距離。
まるで磁石のように、ピタッと……
(主人公にくっつく朱音)
やっぱりこの距離、安心するわ。
こうやってくっついていることで、一人じゃ支えられない重さにも、一人じゃ倒せないような強敵にも向かっていける気がするの。
もう私は一人じゃないんだって、気持ちを強く持てるの。
愛してるわ……んちゅ……
……うーん
……でも、これから毎週金曜日がこんな感じだとダメだよね……
こういう面でも、少しずつ慣れていく必要があるように思うわ。
あ、ん……撫でないでよ……
「それはこれからゆっくり、少しずつでいい」?
……ふふ、それもそうね。
せっかく手に入れたこの距離、十分に味わわないうちから無下にするのも勿体無いわ。
……とか言って……あなたもただこうやってくっついていたいだけなんじゃないの?
(主「一緒でしょ?」)
うん、そう。
あなたも、私もよ。
にひひ……
………………
ねえ、あなた?
私、提案があるのだけど、いいかしら?
うん、確かにガスも寝具もなかった最初の日よりかは随分と暮らしやすくはなったけれど、
まだまだこの部屋、色んな物が足りてないと思うの。
だから明日、よかったら一緒に家具とか、見に行きましょ?
なんでもそこの駅から3つくらい行った所に、最近出来た大型の家具屋さんがあるらしいの。
新しいものが気になるってわけじゃないのだけど……
せっかくだし、行ってみたいなって。
[IKEA的なお店へ]
わぁ!すごーい!
こんなに大きな家具屋さん、私初めて!
モデルルームっていうのかしら?なんだかお部屋がたくさんあるみたいで面白い売り場ね。
あ、ほら、あなた。こっちこっち!
ここのお部屋、とっても素敵……
こんなかわいいベッド……私、ちょっと憧れちゃう……
(主「これが欲しいの?」)
あ、いや、別におねだりしてるわけじゃないのよ?
それにこんな大きなベッド、あの部屋には似合わないと思うわ。
そうね……いつか、私達がもっと大きな家に住めるようになった時に……
その時にまだ私がこのベッドのことを覚えていたら、その時はおねだり、しちゃおうかな……
な~んてvうふふv
あなた……こっちに来て?
うん……隣に……
(ころんとベッドに横になる朱音と、引っ張られて一緒に倒れる主人公)
【右側至近距離】
やっぱり……二人で横になるとちょうどいい……
(意味を察して赤くなる主人公)
うふふ……何を赤くなっているの?
だって、その頃には私達、夫婦になっているのよ?
だったらこんな風に一つのベッドで眠ることだって、何も恥ずかしいことじゃないわ。
(主「キミだって赤くなってるじゃないか」)
え、私の顔も赤い?
えへ、えへへ……
だって、その……想像しちゃう……じゃない?
あなたと私、一緒のベッドで…………ね?
……やだ……何言ってるんだろ……
んむ~~……私のほうが恥ずかしくなってきちゃった……
(きゅっと朱音の手を握る主人公)
あ…………
んもう、あなた……こんなとこで手を握られると、本当にドキドキしてしまうから……だめ。
………………
えへへ……
じゃ、他のところも見に行きましょうか。
(ベッドから起き上がるふたり、目をそらす数人の客)
……って、もしかして私達、見られてたのかしら……?(ヒソヒソと)
うう……なんだか恥ずかしいわ……
ほら、早く行きましょう?
[別の部屋に移動]
ねえ、あなた。
この部屋なんてどうかしら。間取りやサイズなんかが、あの部屋にそっくりだと思わない?。
うーん……でも、こうやっていろんな家具がおいてあると、少し狭く感じるかしら。
「私達くらいにはちょうどいい」?うふ、それもそうね。
落ち着いた温かな色彩に、心地のよい間接照明。
この中にあなたと一緒にいると、まるでここにずっと一緒にいたみたいにしっくりくるの。
なんだか時が止まってるようにも感じるわ。
そんな気が……しないかしら?
ちょうど二人がけの白いソファ、ほら、隣りに座って。
こんなふうに寄り添いながら、夜のニュースを見ながら、今日あったことや、明日の予定を語らって……
そして……ちゅ。(頬にキス)
こんな風にキスをするの。
(周りの目を気にする主人公)
もう、あなたったら。そんなに挙動不審にならなくても。
ここ、ちょうど死角になってるみたいよ?
だからさっきみたいに、他のお客さんに覗かれることは無い……と思うわよ?
もしかしたらどこかに防犯カメラがあるのかもしれないけれど、別にやましいことをしてるわけじゃないもの。
だって、このお店は欧州のお店をモデルにしてるのでしょう?
だったら、キスくらい咎められることはないはずよ。
だから、ね?……ん……(目を瞑ってキスを誘う)
ん……ちゅ、ちゅむ……(啄むような軽いキス)
えへへ……ありがと。
ね、あなた。よかったら、このソファを買わない?
実際に座ってみてとても気にいったし、きっとあの部屋にピッタリだと思うの。
(主「色はこれでいいの?」)
色……?
ああ……なるほど……
確かに、この色だと……こぼれたときなんかに目立ってしまうわね。
……あなた、そういう所には鋭いわね。
また……想像しちゃってたかしら?
(主「そりゃあ、ね」)
えへへ……嬉しい。
ちゃんと私との愛の営み……というと、少しいかがわしいかしら?
私とあなたの生活の中に、ちゃんと私のための時間を用意してくれてるの、とっても嬉しいわ。
えと……これの色違いってあるのかしら。
あ、カラーバリエーションありますって書いてあるわね。
えっと……ふーん……
ねえねえ、だったらこの赤い色のソファにしてみない?
ちょっとあのお部屋に置くには派手な色かもしれないけれど……
でも、これだったら多少あなたの血がこぼれてしまっても、あまり気にならないと思うの。
それに、こんな鮮やかな色が部屋の中にあったら、毎日元気になれる気がするわ。
赤い色ってそういう効果もあるのよ?
ね?いい考えだと思わない?
うふふふ……
……えっと、この家具の番号を控えておけばいい……のよね?
うん、ここに「番号を控えておいて、セルフサービスエリアでピックアップしてください」って書いてあるの。
つまり、あとからどこかでこのソファが入った箱を見つけて持っていけばいい、ということみたい。
きっと進んでいけばわかると思うわ。
この紙にぃ……メモメモ……っと。
よし、これでOK。
(正面近距離)
じゃあ次、行きましょうか。
このお店、結構広いみたいだけれどちゃんと一本道になってるから、このまま道なりに進んでいけば全部を見ていけるはずよ。
ほらほら、座ってないで早く早くぅ。
[子供部屋コーナーに移動]
ここは……子供部屋のコーナーかしら?
ベッドも机も、ちいさくてかわいいわね……
………………(じっと主人公を見つめる朱音)
……ねぇ、あなた?
あなたは、子供って……好き?
あ、いや、別に変な意味じゃなくって…………ってわけでもないんだけど……
うぅ……
だって、ほら。私達にもいつか子供ができる……でしょ?
だから……えっと……(少しばつが悪そうに(前作のチャプター19の吸血鬼の血族の話))
そ、そう。だからあなたがこども好きな人だったら嬉しいなって、そう思ったの。
(頷く主人公)
そう、だったらよかったわ。
……あなたと私で、素敵な家族を築いていけたら幸せだなって、そう思う。
だからあなたも、ちゃんと協力してよね?
うふふ、まだこんなお話をするのは早かったかしら?
ふぇ!?あなた、どうしたの……(朱音の肩を抱き寄せる主人公)
ぁ……んむ……(キスで口をふさがれる朱音)
……ぷぁ…………
んもぅ……またそうやって……
今のは肯定って……ことでいいの……よね?
うん……ありがと。
私も……私も、あなたと一緒の未来を歩むために、頑張るわ。
んふ……幸せ。
こんな風に少し先のお話ができるのって、とっても幸せなことだなぁって思うの。
私の信頼にあなたが応えてくれるから、こんなこと考えられるのよ?
大好きだって言ったら大好きだよって返してくれる、そんな関係だからこそ、ね。
それで私は、あなたの隣が自分の居場所なんだなって、感じることができるの。
エコーロケーションって言葉知ってるかしら?
コウモリやイルカなんかが自分から音波を発して、その跳ね返りで自分の居場所や目の前になにがあるかっていうのを探る方法なのだけれど、それと一緒。
私の投げかけた言葉や好きって気持ちがあなたからしっかりと返ってくるから、私はここにいるってわかる。
あなたも、少しは分かってくれるかしら?
(朱音の耳元で「大好き」と囁く主人公)
ん…………そんな耳元で「大好き」だなんて……もう……
私も……
私も好き。……大好き。だ、い、す、き。(囁き声)
えへ……あなた、今ピクってした。
そんな反応でも、私は嬉しいわ。
……ふぇ?私もなってたの?
んむぅ……そんな風に言われると、なんだか恥ずかしいわ……
……ふふ。私達、子供部屋でイチャイチャしちゃって、なんだかちょっと背徳的ね。
それとも、子供の頃に戻った気分?
どちらにせよ、今のこの時間がとっても幸せに満ちてるということには変わりないわね。
幸せ……幸せよ、あなた。
…………あ、さっきのお話。別に吸血鬼とコウモリをかけたダジャレじゃないからね?
偶然そうなってしまってたけれど、勘違いしてもらっちゃ嫌だわ。
あなたへの想い……素直に受け取ってよね?
え?「洒落になってることに気付かなかった」?
んむぅ……墓穴をほってしまったわね……
ほ、ほら、早く先に行きましょう!(取り繕うように)
[帰りの電車の中、隣同士に座るふたり]
えへへ、楽しかったわね、あなた。
近所にこんなに面白いお店があるのだし、こっちに来て良かったって思えること、また一つ見つけたわ。
……年甲斐もなくはしゃいじゃった……かしら?
(主「別にそんなことは」)
うん、そうよね。私達、まだ法的には子供だもの。
あと2年もたてば、もう立派なオトナになっていることなんだろうけれど……
でも、なんだか想像できないわ。
だって急に「今日から君たちは大人だよ」って言われたとしても、その瞬間に私達が別の誰かになってしまうわけじゃないもの。
あなたと私はずっと「あなたと私」のままなのだし、別にオトナになって今日みたいにはしゃいじゃっても、たまには……ね?
(主「そうだね」)
うふふ、あなたのそういうところ、私、大好きよ。
ずっと一緒に歩いて行くっていうことが、どんどん怖くなくなっていくわ。
(主「怖い?」)
うーん……「怖い」っていうか、不安っていうか……
だって、一生一緒に居るっていうことは、今まで生きてきた以上の時間をあなたと私で紡いでいくのよ?
こんな言い方あまりしたくはないのだけれど、言ってみれば1年以上前は私達、赤の他人だったんだもの。
その期間で考えると何十倍ものあなたとの時間がこれから先に待ってるの。
そこでどんな諍いやすれ違いがあるかなんて、誰にもわからないでしょう?
だからこうやって、物事に対する価値観や見え方があなたと同じなんだなぁって感じるたびに、そんな未来の不安の種が1つずつ消えていくような気がして。
私はそれを「怖くなくなっていく」って言ったのだけれど。
(主人公、理解したと頷く)
えへ、よかった。わかってもらえた。
これでまた1つ、って感じかしら?
それにしても、あのソファが届くのが今から楽しみね。
だってあなたと一緒に選んだ、初めての家具なんだもの。
これからそういったものがどんどん増えていくのかもしれないけれど、今日買ったソファはその第1号。
私達が作る私達の「生活」、その第一歩だと思うの!
「気負いすぎ」?いいえ、そんなことはないわ。
言ったかもしれないけれど、私にとってあなたとの「初めて」は、どれもが全て大切なモノなの。
他にもいっぱい大切なものはあるのだけれど、やっぱり「一番最初」は一番記憶に残っちゃうから……
あなたとの初めてのショッピングで、あなたと一緒に初めて選んだっていうだけで、初めてが2つも重なってるのよ?
そんなに素敵なことなんだもの。嬉しくなってしまうのは当然だと思うの。
あ、でも、無理にあなたに「覚えてて」って言ってるわけじゃないわ。
これは私が勝手に言ってるだけだから……
もし記憶に無いことを私が楽しそうに話してても、「あ、また朱音が初めての思い出を語ってるぞ」って思ってくれるくらいでいいから。
それで、ほんのちょっとでも思いだしてくれたのなら、それで充分だから、ね?
(主「そういえば、初めてキスした時のことは覚えてる?」)
「初めてのキスを覚えてるか」?
えへへ……そんなの、当然だわ。
あの日、いつもより寒い日の放課後に、あなたは私を体育館裏に呼び出して、そして、私に告白を……
んぅ……今思い出しても恥ずかしいわ……顔がにやけちゃう……v
あの時の事……私、びっくりしちゃって、興奮しちゃって……実のところあまり明確には覚えてないのだけれど……
でも、強く強く、あなたとキスしたいって思ったのだけは、しっかりと覚えてる。
だって、ずっとずっとあなたのことが大好きだったのに、何ヶ月もお預けされていたのよ?
けして長い期間ではなかったけれど、でも、あなたへの「好き」の濃さはどんな誰の恋心よりも強かった。
私はそう、胸を張って誓えるわ。
あの時のキスの味……甘くて、幸せで、とっても良かった……
ん……思い出すとドキドキしてきたわ……もう……
あ……んぅ……ちゅ……(主人公、朱音にキスをする)
……私にあの時のことを思い出させた上で唇を奪うなんて……なんだかずるいわよ……
それにこんな所でだなんて……
(主「何を今更」)
「今更」って……まあ、私だってお外であなたにキスを迫ることもあるけれど……
でも、あんまり人目のつく所ではねだらなかったはずよ?
(主「今は殆ど人がいない時間だから」)
確かに人はあんまり乗ってないし、ここはボックス席だから見られちゃうことはないかもしれないけれど……もう、あなたってば……
……いいけど、あんまり激しいキスはダメよ?
さすがに電車の中でそんな音がしてたら、私達変な目で見られちゃう……
(主「あまり声を出さないようにね」)
ふぇ!?声……?
「声を出さないように」って、私、いつもキスしてる時に声……出てる?
(主「声っていうか吐息っていうか」)
……そうなの?へぇ……自分では気づいてなかった……
でも、そんなの仕方無いわ。だってキスしてる時って、普通に呼吸ができるわけないんだもの。
(主「なんで?」)
「なんで」って……だって……あなたに鼻息がかかっちゃうの、恥ずかしいわ……
(主人公、無言で頭を撫でる)
あぅ……もう、頭撫でないで……
(主「そんなことを気にしてるところがかわいい」)
もう、そうやってすぐかわいいとか言う……
うぅ~……、ずるい…………
だいたいなんで吐息くらいで……それくらいだったら別に変に思われたりしないと思うのだけど……
(主「だって、キミの可愛い声を知らない人に聞かれるのはなんか嫌だから」)
「私のかわいい声を聞かれたくない」?
またそうやって……本当に仕方のない人……
いいわ……じゃあ私、息を止めてるから。
私が苦しくなる前に、満足……して?
ほら……ん…………(目を閉じる朱音)
……んちゅ…………ちぅ……(最小限の呼吸でのキス)
…………ん……っふ……
れる…………んちゅ…………
…………ちぅ……ちぅ……
……んゅ…………ぁぷ……
ん………………ぷぁ…………
ぷは……ぁ……ちょっと、ちょっと待って…………
はぁ……はぁ…………は……ぁぅ……
(息切れしながら)
あれ、おかしいわ……私、もうすこし肺活量はある方だと思ったのだけれど……
うう……きっとあなたとキスしてたせいだわ……
あなたが妙な指示をするから……いつもより余計にドキドキしてた……
ほら、今だって……こんなに体、震えてる……
本当に……もう……恥ずかしいわ……
(主「ごめん……」)
ふんだ。謝ったって許してあげないから。
……ちゃんと帰ってから、続きをしてくれたら……
その時は、許してあげるわ。
(主人公、手首を差し出すジェスチャー)
もう、そんなジェスチャーしないでよ……
でも、ありがと。
あなたがくれるって言うなら、私は喜んでいただくわ。
あなたの血も……もちろん、あなただって。
うふふ。