Track4 右耳のみみそうじ
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;Track4 右耳のみみそうじ
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;環境音 囲炉裏の火、F.I,
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「ほんなら今度はひだりのお耳。
ん……(呼吸音)……どやろか……(呼吸音)――」
;7 口寄せ囁き
「(ふーーーーーーっ)――うん。
あいやん、ええこ。こっちもきれいにしとるなぁ――」
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「ほんならな? えへへっ――
こっちも綿棒でゆるゆるいこな?
ん……<綿棒>――」
「え? あ――<綿棒>――
そうそう、ひよな? 呼ばれてな?――<綿棒>――
扉の向こうの――<綿棒>――
“しんさつしつ”いうとこ――<綿棒>――はいったんよ―<綿棒>」
「したらな、そこにな?――<綿棒>――
おっさんと、おばはんと――<綿棒>――おねえはんと――
三人も人間がおってな? そんで――<綿棒>――」
「みんな、な? こう――<綿棒>――
おんなじ感じするねんな――<綿棒>――
においもそうやし……<綿棒>――
あとな? ん……<綿棒>――音」
「人間もな? あやかしも――<綿棒>――
“しぐさの音”って、ありよるやんなぁ――<綿棒>――
例えば、な――あいやんが、頭をぽりぽり――<綿棒>――かくやんか――<綿棒>」
「そんときの音とな?
他の人間が頭かくときたてよる音は――<綿棒>――
全然まるきり、ちがうんよ――<綿棒>――」
「高さも、リズムも、長さも強さも――<綿棒>――
人間それぞれ、バラバラやのし――<綿棒>」
「けどな? その三人な? ――<綿棒>――
仕草の音が、よー似とるのし――<綿棒>――
ほとんどきれいに、かさなりおーて――<綿棒>――
で……(呼吸音)――」
「ふしぎにおもうて、よぉ、見てみたらな?――<綿棒>――
おばはんとおねえはんと。
おっさんとおねえはんと――<綿棒>――。
それぞれなんや、見た目も似とるとこあって――<綿棒>
――で、な?――<綿棒>」
「おっさんとおばはんも――<綿棒>――
顔も形も似てひんのにな? それでもなんや――<綿棒>――
どっか、似てるよな気がするさけ――<綿棒>――」
「(なんでやろなぁ)って考えて――<綿棒>
したらな? ひよな? ええへっ、気づいたのし」
「これ、人間の――<綿棒>――
人間の家族の、そろったとこなんだなぁって――<綿棒>――
『おとはん』と『おかはん』と『おじょうはん』な?――<綿棒>――
保育所にはたいがい……<綿棒>――
おかはんかおとはん――<綿棒>――
どっちかしか、お迎えにきぃひんさけ――<綿棒>――な」
「“そろっとるのはめずらしなぁ”って――ひよな? 思うて――<綿棒>――
したらな? おっさんがな?
『今日はどうしました?』って、聞いてくれてな?――<綿棒>――」
「ひよ、ちょうどそのこと考えとったさけ――<綿棒>――
『おっさんとおばはんとおねえはん、人間の家族のひとそろいやんなぁ』て、いうてしもたんよ――<綿棒>――
言うてしもてすぐな、”あ、まちがった”って、“おひざすりむいたこというんやった”って――<綿棒>――
ひよもな? すぐにわかってな?――<綿棒>」
「けどな? おっさんもおばはんもおねえはんも――
<綿棒>――ひよのこと、わらったりせんと――
にっこり、うなずいてくれたのし――<綿棒>――」
「『おわかりになりますか。わたしが有島診療所の院長。
有島尚武(なおたけ)です』いうて――<綿棒>――
おしえてくれてな?」
「おばさんせんせは、ありしまなほこさんで――<綿棒>
おねえさんせんせは、ありしまありすさんでな?――<綿棒>――」
「みぃんなやっぱり、『有島さん』で、家族って――<綿棒>――
えへへ、おしえてくれたのし――<綿棒>――」
「で……(呼吸音)――ひよのおひざの話になって――<<綿棒>――
『それでは治療しましょう』て――<綿棒>――
なおたけせんせ、いうてくれてな?」
「なほこせんせが、ひよにな?
『しみますから我慢してくださいね?』って、いうて――<綿棒>――
ひよ、よくわからんで、うなずいてしもーてな?――<綿棒>――」
「したらな、じゅわーって――<綿棒>――
なんや、なこほせんせ――ひよのおひざにしゃっこいのつけて――<綿棒>――
そしたらじゅーわって、まっしろな泡が、おひざからぶくぶくしてきよったんよ――<綿棒>」
「ほんでな? すぐにな? <綿棒>――
おひざもしみて、ピリピリしてきて――<綿棒>
あんな? ひよな? びっくりておとろしなって……<綿棒>――
ちとかいだけな? 『いややー、こわいー』いうて、
泣きべそ……<綿棒>――かいてしもたのし」
「そしたらな? えへへっ――ぎゅーって――<綿棒>――
ぎゅーってふうわり――<綿棒>――なほこせんせが、ひよのこと、だきしめてくれて、な?」
「ほんでな? むすめせんせ――ありすせんせが――<綿棒>――
ひよに、おしえてくれたんよ――<綿棒>――」
「『痛いのは、ひよちゃんの体をもっといじめようとするバイキンと、お薬さんが戦ってくれてるから』<綿棒>――
『おくすりさんがバイキンをやっつけたそのあとが、あわあわになって体の外にでてきてるんだよ』――って――<綿棒>」
「したらな? ひよな? えへへっ、教えてもらえたさけな? ――<綿棒>――
痛いのも、『お薬はんが、バイキンいうのを追い払おうとしとるからかー』って――<綿棒>――
『ほんなら仕方ないことやのし』って――<綿棒>――
がまん、できるようになってな?」
「あわあわも、そういうわけなら――<綿棒>――
ちとかいもこわくないやんな?――<綿棒>――
どころかどんどん、あわあわでろって――<綿棒>――
ひよからバイキンおいだしてーって、思えてな?――<綿棒>」
「ほんで あわあわ拭いてもろーて――<綿棒>――
ぺったり ばんそこ貼ってもろーて――<綿棒>――
そうしたらひよ、もうちとかいも、えへへっ、怖くも痛くものーなったんよ――<綿棒>――」
「せやさけ、ひよな?――<綿棒>
しんりょうじょは、ええとこやなーって、思ぅてな?――<綿棒>――
それとな? もひとつ――<綿棒>――
かぞくって、とっても素敵なもんなんやなー、って――<(呼吸音)――思ぅたのし」
「ひよは、ゆーたら――<綿棒>――
送り狼から人間を逃がしたるためだけに産まれてきた――<綿棒>――
おとはんもおかはんもおらん――<綿棒>――
そげな あやかしやんなぁ」
「せやさけ、家族おらんさけ――<綿棒>――
なんや、人間がうらやましいなぁ――って――え?」
「……(呼吸音)――
うん――(呼吸音)――
うん――(呼吸音)――
ん……(呼吸音)――
(呼吸音)――えっ」
「そーなん? ひよも家族つくれるん?
どげしたら、ひよ、ひよの家族をつくれるん?」
「うん……うん……(呼吸音)――うん。
大好きな相手をみつけて、
その相手にもひよのこと、大好きになってもろーて――
結婚、やらいうのしたらええのん?」
「ほんならな? ひよな? あいやんのこと大好きやのし。
せやさけ、あいやんがひよのこともし――(呼吸音)――
もしっ――(呼吸音)――もしっ――あれれっ?」
「なんや? ひよ――あれ?
おねつでてしもうたんかなぁ。
お顔がきゅうに、ぽーってあつぅて――
あぅっ――おむねも急に、きゅーってしてきて――
ドキドキ……する、のし――はうっ」
「あ……(呼吸音)――ん――そう、なん?
このドキドキの意味がそのうち――
ひよがもーちとかい大きぅなったら、
おとなになったら――わかるように、なるん?」
「うん……うん……(呼吸音)――
うん……(呼吸音)――うんっ」
「そんときに、わかったときに。
ひよがまだ、あいやんのこと大好きだったら――
あいやん、えへへっ――ひよの家族になってくれるん?」
「えへへー、そんならうれしいなー。安心やなー。
ひよ、あいやんのこと大好きやさけ、
ずーっとずーっと、気持ちかわらんと思うさけ」
「はよぉおとなになりたいなー。
どしたらおとなになれるんかなー。
このドキドキが、どないない意味かがわかるんかなーって――え?」
「『ちゃんとした大人は?』 うん……うん――(呼吸音)――あ」
「さやなぁ、ごめんなぁ。
みみかき途中でほおりだすんは、ちゃんとした大人のすることとちがうなぁ」
「そしたら……んーーー……」
;7 口寄せささやき
「(ふーーーーーーーっ)――ん。
あとちとかいだけまってな? あいやん」
;7 通常
「あともお……<綿棒>――
ここんとこ――<綿棒>――
きれいに――<綿棒>――
こそげ……って――<綿棒>――」
「ほんで、ん……<綿棒>――
よ――<綿棒>――
ん……<綿棒>――
んん……<綿棒>――」
「ん、っと――(ティッシュ)――
ん……(ティッシュ)――
んんっ――(全体ごしごし)――
ん。これで、どやろか?」
;7(口寄せ囁き)
「(ふーーーーーーっ)――ん。
上手にできたな? あいやんのお耳、ぴかぴかやんなぁ」
;SE おなかなる
「あははっ、あいやん、おなかなったー。
いうたら、おなかペコペコやねぇ。
今日もよーさん働いたもんな。
ほんなら、ばんごはんつくろなぁ」
;環境音FO