Track 2

いやしどころひやしや(イントロダクション)

:環境音 FI 川のせせらぎ :SE 鳥の声 :SE 砂利道を歩く足音、男一人 ;SE 足音止まる ;SE 木のドアノッカーを鳴らす ;SE 木戸開く ;9(低いところから) 「はーい――っと、初めてみる顔……だよね? お客さん、でいいのかな?」 「あ。やっぱりはじめましてだね。 ふふふっ、きょろきょろしなくていいよ。 下だよ、下。もっと低いとこを見て」 「そーだよ、ここここ!  へへっ、パロポロがあんまりちっちゃくっておどろいたかい?」 ;9 通常の高さ 「あ」 「……しゃがみこんで、目線をあわせてくれるだなんて。 お客さん、やさしい人間なんだね。 えへへ、パロポロ、なんだかくすぐったいけど、うれしいや」 「ええと――うん! とにかく、はじめましてだね! 『いやしどころ ひやしや』へようこそ。 このお店のあるじのパロポロだよ。 お客さんは、どうやってここにやってきたの?」 「……旅をしていて? 偶然にここにたどりついて? ふんふん…… いやしどころって見えたから、いやしてもらおうって ――なるほどねー」 「“偶然”にここ、この茂伸にやってきたなら、 それはきっと、偶然じゃないべさ。 きっと、この土地のカムイに導かれたんだよ」 「ん? あ、カムイっていうのは、カミ様のこと。 この土地、茂伸にはね、 結構な力をもってるピリカカムイ――良いカミ様がいるんだ」 「だから、こんなふうに。 お客さんとパロポロみたいに、 人間とあやかしが、仲良くお話できてるの。 他の土地では、こんなことないでしょ、絶対」 「って! 旅疲れでいやしどころに来てるお客さんに、 立ち話――しゃがみ話? させちゃっちゃ、 いやしどころのあるじ失格もいいとこだよね。 ええと、立って? それで、あがって?」 ;1 (低いところ) 「したっけ、ここに立って、目をつむって? いまね、パロポロがお客さんのこと、 いやしやすくするから」 「(深く息を吸い込む)」 ;ダミーヘッドマイクまわりぐるりまわりこみながら ;1→8でだんだん高さ、セリフの速度を上げていく。 ;8で、通常の高さ ;1 「ぽんぽん」 ;2 「ぽんぽん」 ;3 「ぽんぽん」 ;4 「ぽんぽん」 ;5 「ぽんぽん」 ;6 「ぽんぽん」 ;7 「ぽんぽん~~っ」 ;8 「ポンポンアイヌっ!」 ;SE? 魔法エフェクト系? ;1 (通常の高さ) 「(呼吸音)」 「うん、上出来でしょ! お客さん、もう目をあけていいよぉ」 「ひゃっ!?」 「もう、急にびっくりした声だすから、 パロポロまでびっくりしちゃったよ~ けど、へへへっ! 大成功だね~!」 「え? 違う違う。違うべさ! パロポロが人間サイズにおっきくなったんじゃなくって―― お客さん、まわり、ぐるーって見回してみて?」 「あははっ! そうそう、そうだよー。 お客さんの方が縮んだの。 パロポロ、この術だけは使えるからさぁ」 「え? …… あー、ちょっと説明たりなかったかー。 不安にさせちゃって、ごめんねぇ」 「けどさ、危ないことも怖いこともなーんもないから。 まずは落ち着いて――あ、そうだ」 「ね? そうしたら落ち着くために、深呼吸しよう? パロポロと一緒に、ね?」 「えへへー、ありがと。 したっけいくよー、まずはすってー (息を長く吸い込む)」 「なーがくゆっくりはいてー (息を長く吐く)」 「もういっかい、すってー (長く吸う)」 「はいてー (長く吐く)」 「(呼吸音)」 「へへっ、落ち着いたみたいだねー。 慌てさせちゃて、悪かったさぁ―― え? ……あー、うん! そこのところはもちろんだいじょぶさぁ」 「パロポロ、いつでもお客さんのこと、もとのおっきさに戻せるよ? けど、せっかくだから、いやじゃなければ 『いやしどころ ひやしさ』を、たっぷり楽しんでほしいべさ」 「うんうん。そーそー。 そーゆーこと。 ここの本当のいやしとひやしを楽しんでもらうには、 ちっちゃくなってもらってるほうが、ずーっといいのさ」 「え? ほんと! へへへっ、ありがと! したっけパロポロがんばって、 お客さんのことゆっくりたっぽり、いやしてひやしてあげるねー」 「え? 『癒やされるのが歓迎だけど、冷やされるってのがよくわからない?』 ふふーん、わからないならためしてみるべさ!」 「最初に服、ぬいでもらって平気? あはは、ならよかった。 そしたら、下着だけになってくれる?」 「……あれ? どしたの? 脱がないの?? え? 『向こう向いててほしい』って、なして?」 「よくわからないけど――うん。もちろんそうするさ。 お客さんの頼みだものね。パロポロ、むこうむくね?」 :9 マイクと反対向き えっと、これでいい? いいの? よかったー。 したっけ、脱げたらおしえてねー」 「……(呼吸音)」 「あ、脱げた? そしたら毛布の上にはらばいになって、 だらーって体の力をぬいて?」 「できた? オッケー? もう振り向いていいの? わかった!」 ;9 「あ! うんうんそうそう。その体勢。 そんなら、ちょべっとだけまっとってねー」 ;16 「よいしょ――よいしょ――ん――」 ;SE 手にクリーム伸ばす ;9 「はぁい、おまたせ。 したら、お客さんのことマッサージするけど……」 ;*しゃっこい=冷やっこい 「パロポロの手、けっこーしゃっこいからさー、 びっくりしたら、動いちゃってもいいからね? って?」 「なしてお客さん? そんなにびっくりした顔してるのさ」 ;SE クリーム伸ばし 「え? ええ? これ知らないの? 青いカンカンのクリーム」 「『知ってるけど、そんなに巨大なのは見たことがない』って―― あははっ、だから違うさー。 青いカンカンは普通のおっきさ、縮んでるのはお客さんの方だべさ」 「お客さん――自分の体……お洋服とか、身の回りのものとか見て、気づかない?」 「うん! そーそー、そのとーり。 パロポロの、『ポンポンアイヌ』の術は 人間と一緒に、その人間の身のまわりのものも縮めるの」 「したっけ、たべものとか消耗品とかは、縮めっちゃったらもったいないでしょ。 大きなままにしといたら、その分たーくさんつかえるもんね」 「だから、へへっ! この青缶も――<クリームたっぷり手に取る> こーやって両手でいっぱいすくっても――<クリーム練り伸ばす>」 「ん……(呼吸音)――こーして、ぜいたくに―― <クリーム肌につける、ぺとっ>――お客さんの肌に乗っけても――さ」 「へへっ、ちょべっとしか減らないからねー。 クリームマッサージ、いっくらでもしれあげられるべさ」 ;13 「したっけ、まずは足から……(呼吸音)―― 足の裏からいくからねー。 くすぐったくても、パロポロのこと蹴飛ばすのだけは勘弁さ」 「したっけ……ん――(呼吸音)―― んしょ――<クリーム肌に塗り伸ばす>――ん…… どーお? 気持ちいいでしょー」 「氷点下だと……<塗り伸ばし>肌の、水分も…… 凍るから……ん――(呼吸音)――こう、して―― <塗り伸ばし>――クリームで、保湿しないと、肌痛めるべさ」 「え? 『氷点下って』――えへへっ! その辺の細かいことは塗りながら説明するからさー。 まずはリラックス、リラックス」 「もういっかい深呼吸して、りきみ、ぬこーねー? パロポロと一緒に、いくよー」 「吸ってー (深呼吸)」 「吐いてー (深呼吸)―― ん、もーいっかい、吸ってー(深呼吸」 「吐いてー(深呼吸)」 「(呼吸音) ん……<肌をかるぅく指でたたく音> ――うん」 「いー感じにちからぬけたねー。 じょうずじょうず!」 「したっけ、どんどんぬってくよー」 ;SE クリーム塗る 「ん……(呼吸音)――どーお? パロポロの手――<塗り伸ばし>――しゃっこいいでしょー」 「『ひんやりとして気持ちいい?』 ……そっかー。 それなら、パロポロも――<塗り伸ばし>――ん…… 安心してどんどんぬれるさー――<塗り伸ばし>」 「ん……<塗り伸ばし>……お客さんは、疲れ―― んー(呼吸音)――筋肉の、つかれ――<塗り伸ばし> たまってるねー」 ;5 「太ももの、裏――ん――<塗り伸ばし> クリームごしでも……(呼吸音)―― パロポロの手が、カッカするもの――<塗り伸ばし>。 筋肉が、疲れで熱――<塗り伸ばし>―― もっちゃっるべさ」 「……したっけ……ん……(呼吸音)―― ここに――<塗り伸ばし>――パロポロのとこに―― 導かれたんだねー――きっと――<塗り伸ばし>」 ;5 「ん……背中にも――<塗り伸ばし>――ん…… (呼吸音)……お客さん、背中、おっきいねぇ――」 ;SE クリームたっぷり手に取る 「縮んでなきゃ――へへっ――青缶きっと―― <塗り伸ばし>――ん……<塗り伸ばし>―― ひと缶ぜぇんぶ、使いきっちゃいそう」 「ん……(呼吸音)――ふっ――<塗り伸ばし>―― ここ、肩の骨の裏もちゃあんと――<塗り伸ばし>―― あ!? へへっ、ここ、押されると気持ちいいの?」 「したっけパロポロ、ぎゅーって押してあげるべさ いっくよー(呼吸音)――んっ! <指圧音強>」 「へへっ、気持ちいいならうれしいさ。 したっけ、反対側の肩も――んんっ! (呼吸音)――<指圧音・強>」 「へへへっ、肩、軽くなったの? ならよかったさー。 あ、そのまま手、体から離してて?  うんうん、そうそう。そしたら――」 ;7 「ん……腕も――<塗り伸ばし>――パロポロのより……ふっ――(呼吸音)――ずうっと――太い、ねぇ―― ん……<塗り伸ばし>」 「あ、力こぶって――<塗り伸ばし>――あれ、出せる?……うん?――ふぅん、そうなんだー――<塗り伸ばし> ――人間の体、面白いねぇ――(呼吸音)ん――んっ――<塗り伸ばし>」 「あとは、手。ぱーってして? ぱーって。 うん、そう――そのままだよー、動かないでねー―― <塗り伸ばし>」 「ん……<塗り伸ばし>……気持ちいいねー―― パロポロも、だよ? 指と指との間、こうして―― <塗り伸ばし>――ん……(呼吸音)―― クリームで……ぬるぬるってして――<塗り伸ばし>―― んっ――こすれるのって、こそばゆい、よねー」 「へへっ! うん。よしっ! 綺麗にぬれたー。 したっけあとは~」 ;SE 足音、とたとた ;3 「右手も塗ろうね~。 ん……っと――<塗り伸ばし――>ふっ――(呼吸音) ――へへっ、指の間から塗っちゃうよー」 「ん……(呼吸音)……ふっ――<塗り伸ばし>―― んふっ――やっぱり――ぬるぬる――<塗り伸ばし> くすぐったいね~――(呼吸音)」 「手のひらの方も……たーっぷり……<塗り伸ばし> ――ん……手の甲……(呼吸音)それか、ら―― だんだん、上に――<塗り伸ばし>」 「ん……<塗り伸ばし>――よい、しょっ――<塗り伸ばし>……あ、ここ」 「肘の近くの……筋肉の、ここ――ぎゅーってすると、 少し、効くんだよ? 押す? ん、わかった―― ん――<強い指圧音>――ど?」 「気持ちいい、なら――<塗り伸ばし>――えへへっ、 マッサージ、もうちょっとは効果でてるのかも―― だね――ん――<塗り伸ばし>」 「疲れあるとさ……<塗り伸ばし>――気持ちいい、より――<塗り伸ばし>――痛いの、でてくるから…… ん――(呼吸音)<塗り伸ばし>――うんっ」 「えへへ? どうかな。 ふふっ、だよねー。いい感じでしょ」 「したっけ、今度は、またごろんして? 今度は体の前側を―― あれ? なしてごろーんてしてくれないの?」 「うん、うん……『前側は恥ずかしいから、自分でやる』……べさ? ふぅん? ぬいでもらうときもそうだったけど、 お客さん、そういうの恥ずかしいんだねー」 「いいよ。それなら、パロポロぬるの任せるよ。 けど、塗り残しあると危ないからさぁ、 丁寧にゆっくりやっといてね?――ふふっ」 ;1 「パロポロは~、その間に~、へへへっ、 お客さんの着替え用意しとくから、 ちょべっとだけ待っとってねー」 ;16 マイクと反対向き 「ん……っと <がさごそ>――あたったかい肌着と―― <がさごそ>――ぶあついくつしたと――<がさごそ> ――ズボンと、セーターと――<がさごそ>」 「あとは――へへっ! お客さんいい人間だから、 おとっときのこれ、出してあげよーっと――ん?」 ;16 マイク向き 「なして驚いた声……ああ、これ? ふふふっ、もふもふなのも当然さぁ」 「おとっときの、誰にもまだ着せたことない、 キムンエカシの毛皮だもの。 とーっても上等で、あったかいべさ」 「え? ああ、うん。 キムンエカシは、『山親爺』っていう意味」 「つまりは――ふふっ、熊の毛皮さー」 ;環境音 F.O.