左耳を綿棒でお掃除
;7
「え? 『逆に』って――
お客さん、もう逆になってるべさ」
;7(顔寄せささやき)
「んふふっ――(ふーーーーっ)――
ほぉら、ね?」
;7
「ん? 『じゃなくて』? あー。あーあー!
なるほどねー。そういう、逆に、かぁ」
「いいよ。したっけ今度はパロポロがお話ししてあげる。
パロポロが、この茂伸にきた理由――
もちろん、へへっ――(指でマイクをかるぅくつっつく)」
「お耳掃除をしながらだけど――それでいい?
へへっ――そっか。まら、また始めるべさ。
まずは、クリームぬりから、ね?」
「ん……<クリーム指ですくう>――
最初は耳の外側と――<塗り伸>――
それから、耳たぶ――<塗り伸>」
「で……耳の内側の浅いとこ――(呼吸音)……
んっ――<塗り伸>――っと。
したっけ、へへへっ、綿棒ちゃんの出番だね~」
「ん……<耳かき音>――あ、こっちでもおんなじだねぇ。
ちゃあんととれる」
「(ふーーーーっ)――ん――<耳かき音>――
で、ええと――<耳かき音>――
パロポロはね? お友達にさそわれて――ん
……<耳かき音>――茂伸に、こしてきたの」
「……(呼吸音)――津軽……青森の津軽のね?――
たぬき――<耳かき音>――すなまきだぬきっていうこに、さそわれて――<耳かき音>」
「んと、ね――(呼吸音)――あやかしってさ――<耳かき音>――
あやかし同士で、しりあっててもダメなのよ――
ん……<耳かき音>――人間、がね? ――(呼吸音)」
「人間が、ん……<耳かき音>――あやかしのこと、忘れちゃったら――あやかし、ぽこん、って消えちゃうの。
そしたらもうね――(呼吸音)――どうしたって、もとに戻せなくなっちゃうの」
「すなまきだぬき、ね?……<耳かき音>――津軽で、ほとんど、そういうあやかし――(呼吸音)……
忘れ去られかけたあやかしに――<耳かき音>――
あ、ちょべっとまって――これ、なまらおっきいの」
「ん……(呼吸音)――ふっ――ん――<耳かき音>――
んんっ――<耳かき音>――あ、うん。くっついた――
(呼吸音)――そうっと、そうっと――あ」
「んん~……おちついて、もっかいやるべさ――(呼吸音)――あせらず、いそがず、おちついて~――<耳かき音>――よ――<耳かき音>――ん――<耳かき音>――あと、すこ……しっ――<耳かき音>――
うん! えへへ~、とーれた、っと」
「あ、それでね? <耳かき音>――すなまきだぬき――
忘れされてたら消えちゃうから……<耳かき音>
もんじゃぶね? っていうお船……(呼吸音)――」
「船の、あやかしに、乗せてもらってさ――<耳かき音>――
どんぶらこって――<耳かき音>――わたってきたの。
北海道に――<耳かき音>」
「したっけ、ねぇ……(呼吸音)――コロポックルのことだって、昔ほどには北海道でも、人間が語らなくなってきてるもの――<耳かき音>――ん……」
「ぽっとわたってきたすなまきだぬきが――<耳かき音>
どれだけ砂を撒いたたって、話題にもしてもらえないべさ――<耳かき音>――
けど、それでもさ――<耳かき音>――
あやかしの間でだったら、ちょべっと話題になったから――(呼吸音)」
「パロポロ、さみしかったから――<耳かき音>――
すなまきだぬきも、きっとさみしがってるべさって思って――(呼吸音)――
それで、会いに行って、ともだちになったの――<耳かき音>」
「ん……そしたら、ね? ――<耳かき音>――
茂伸のこと、すまきだぬきが教えてくれたのさ――<耳かき音>」
「遠く四国に、人とあやかしがともにくらせる土地がある、って――<耳かき音>――
そこでなら、人があやかしを知って、覚えてくれるから――(呼吸音)――
きっとこの先も――<耳かき音>――ずっと、消えないでいられる、って」
「それで、パロポロ。船ののってどこかにいった、ミチとハポ――<耳かき音>――お父さんとおかあさんも……
(呼吸音)――もしかして、ものべのにいるのかもって、思ったのさ――<耳かき音>」
「すなまきだぬきも、いっぴきじゃ四国までとてもたどりつけないけど――ん……<耳かき音>――
一緒だったら――きっといけるって――(呼吸音)――
さそって、くれて」
「そうして、パロポロは茂伸にきたの――(呼吸音)――
したっけ――来てみたら、さ――<耳かき音>――
ミチとハポは、みつからないし……(呼吸音)――
すなまきだぬきはすぐに狸の仲間みつけて――<耳かき音>――そっちの群れにいっちゃったから――」
「だから、パロポロ、来る前より――<耳かき音>――
ちょべっとだけ、ね? ちょべっとの間だけ、なまら寂しくなっちゃったのさ――<耳かき音>――。
したっけ、ね?――<耳かき音>」
「そのあとすぐに、パロポロ――<耳かき音>――
ん……この、お店、つくってもらえて――
すなまきだぬきもなんだかんだで――<耳かき音>――けっこー遊びにきてくれるし……(呼吸音)――」
「おとなりにも、さ――<耳かき音>――
ゆきさん、いるべさ?――<耳かき音>。
したっけパロポロ、すぐにちょべっともさみしくなくなって――ひゃっ!?」
;1 密着
「ど、どうしたべさ、お客さん。
急に――(呼吸音)――急に、おきあがって、
ぎゅーってしたり、して」
「え? いや――じゃ、ない……べさ。
いやじゃない、けど……あったかいけど……(呼吸音)――」
「だけど……ちょっべっと……(呼吸音)――
ちょべっと、びっくりして――ドキドキ、して――て――(呼吸音)」
「あ……(呼吸音)――『さみしかったら、甘えていい』……って――
したっけ、お客さんは、お客さん、だし……(呼吸音)――」
「パロポロ、は……いやしどころの、あるじ、だし――(呼吸音)――え?」
「あ……うん。――うん。
うん。あるじとお客さんであるよりまえに――
うん――(呼吸音)――」
「うん――。だねぇ。
パロポロ、まだまだちびっこいもんね。
甘やかしてくれる人がいたら――
えへへ……甘えちゃったって……(呼吸音)――悪く、ない――よね?」
;ピリカ・オッカイ=「良い若者」
「えへっ――えへへへっ――
ありがと、おきゃくさ――ううんっ、ピリカ・オッカイ」
「え? 意味? 意味はね、えへへ――
ナイショだよ~――へへっ」
「ね? オッカイ。したっけ、ね?
パロポロ、もーちょっと甘えてもいーい?
耳かきのほかにね? ずっとずうっと、
してみたかったこと、ひとつあるの」
「いーい? わぁい! そしたら、ちょべっとだけまっててね!」
;SE 石油ストーブ消す(バチョンっ)