いやしどころひやしや(イントロダクション)
:環境音 FI 川のせせらぎ
:SE 鳥の声
:SE 砂利道を歩く足音、男一人
;SE 足音止まる
;SE 木のドアノッカーを鳴らす
;SE ドアの向こう。小さな足音、駆け足で近づいてくる。
;9 (ドア越し、低いとこ)
「その足音! オッカイ! ピリカオッカイだよね!?
まってて、開ける! すぐに開けるさ」
;SE ドア開け
;9 (低いとこ)
「よかった! また来てくれるの、ずっと待ってた。
久しぶりだね~、えへへへへっ」
「あ、オッカイちょべっと痩せた?
ね? だっこしてお顔見せて」
;SE しゃがむ
;SE 立ち上がる
;1 (同じ高さ)
「えへへっ、すごーい! 高い高い! きもちいー!」
;1 マイクと横向きになって
「ふわぁ……
オッカイ、いっつもこんな遠くが見えてるんだね~。」
じゃなくてじゃなくて――お顔! 見せて?」
;1通常
「ん……(マイクに小指の先かなにかでかるぅく触れる)……オッカイ、やっぱり少し痩せた――よね?」
「大変だったの? 忙しかった?
顔、少し疲れてるみたい――ああっ!」
「っていうか、それでだ。
それでオッカイ、パロポロのところ――
“ひやしどころ いやしや”に来てくれたんだべさ」
「……うん……うん……(呼吸音)……うん」
「……そりゃあ疲れて当然でないかい。
オッカイも、いろいろたいへんなんだねぇ」
「したらさ、ちょうど――
えへへっ、ちょうど、オッカイに抱っこもしてもらってるしさ?」
;1から3方向に顔寄せてささやき
「今日は、前とは少しちがった、いやしとひやしで骨休めしてみないかい?」
;1
「えへへっ、あのね?
ここから、人間の足でなら少し歩いたところにね?
パロポロの、ひみつの場所があるの」
「……そこでなら、いまのオッカイにぴったりのひやしといやしを、パロポロ、きっと届けてあげられる気がするんだけど……(呼吸音)」
「わ! いいのっ!? オッケー!?
えへへっ! やったー! うれしいべさー!」
「したっけ、ここままつれてって?
えへへ――だっこのままで……
パロポロ、案内するからさ!」
「いい? いいの? やったー!
なら、いこ? すぐいこ!」
「まずは、バス駅。
大土地(おおとち)の駅をめざすべさ」
;SE 足音(アスファルト)
「えへへ~ 高いね~ 気持ちいいね~
空気がさ、この高さだと、いつもよりだいぶんひやっこいねー」
「ん? なにが『なるほど』なの?
うん……うん……うん――あ、そー!
硬い地面! アスファルト!」
;1 下を向いて
「アスファルト、暑い日にはものすごーく暑くなるしょ。
あれ、パロポロみたいなコロポックルには厳しいのさー」
;1通常
「したっけ、遠回りでも土のあるとこ選んでいかねば、
おおげさでなくて、干からびて死んじゃうの。
だけど――えへへ~」
「オッカイがだっこしてくれるから、
今日はアスファルトの上もへっちゃらだべさ。
らくちんらくちん、きもちいー」
「あ、もう、バス駅?
すごーい、はやーい!
えへへへ、オッカイのだっこは、特急だねぇ。
エル特急・スーパーオッカイ1号だべさ」
「したっけ、このまま北に向かって?
そこの親水公園抜けて、北側の水辺まで」
;SE 足音(土・草)
「え? ――(呼吸音)――
へへへっ、そりゃ特急くらい知ってるべさ。
汽車さ、コロポックルだって乗せてもらうもの」
「コロポックル、この大きさでしょお。
人間の乗り物にこっそり乗せてもらわねば、
遠くまでなんてでかけられないしょ」
「……北海道にいた頃にはね?
パロポロ、アショロって土地の、ラワンブキの森にすんでたの」
「え? ああ、ラワンブキはね、おーっきな蕗(ふき)。
あのね、なまらおっきくてね、オッカイの背丈よりももっとおっきくなるんだよー」
「そうだよー?
パロポロの、コロポックルの背丈じゃなくて、オッカイの、人間の背丈よりもっとおっきく。
二メートルとか、そんくらいにまで育つのさー」
「なのにね? とっても柔らかでおいしいからさ、ラワンブキの森――たんぼから出荷されてくの。
そのトラックに、遠出のときはパロポロこっそり乗っかるのさー」
「アショロにも汽車の駅――アショロ駅が十年くらいまえまではあってね。
そっから汽車にもぐりこんで、北見までいったもんさ」
「したっけ、北見から特急にのればさ――
網走にだって札駅(さつえき)にだっていけるしょ」
「ん? なにしにって――
そりゃ、コロポックルのいとこにあいにいくのさ。
パロポロ世代のコロポックルも、まだちょべちょべとは、道内のあちこちにいるからさー」
「十年とかそこらに一回くらいね?
クンネレカムイ――ふくろうが招待状をもって飛んでくるの」
「生誕200年――大人になったお祝いの招待状とか、
最近はもうすっかりないけど、イオマンテ――
カムイを送り返すお祭りがあるとかさ、そういうときに」
「なまら遠くてもさ、およばれされて出かけないのは失礼だからねー。
人間の乗り物にのせてもらって、えっちらおっちら、大冒険さー」
「もちろん、おっきなオンネイ――オジロワシとかを送ってもらえたときには、その背中にのってびゅーんって――あ!」
「あれあれ! ギッタンバッコンいうの。
あれいいよねー、面白そー」
「ん? 『シーソー」へぇえ、そんな名前なんだ。
沖縄のあやかしみたいな名前なんだねぇ」
「そのシーソーさ。
パロポロ、してみたくって、がんばってがんばってよじのぼってみたの。
茂伸にこしてきてすぐのころに」
「がんばってがんばって、あせだくになってよじのぼって――
したっけ、パロポロ軽すぎたべさ。
シーソー、ちっとも下りてくれなくて、ぎったんばっこんできなくて――あ!」
「すごいべさ! オッカイの目の高さだと、もう見えてくるんだねー。あの水辺――見えてるおっきな湖が、パロポロたちの目的地、
『奥茂伸湖(おくものべのこ)』」
「このまま湖沿いにもーちょっといくとね……(呼吸音)――
うん! あれあれ、あそこの東屋(あずまや)!
あの東屋までいったら、えへへ――」
;1 顔寄せ
「パロポロ、オッカイのこと、たくさんたくさん、
いやして、ひやしてあげるべさ!」
;環境音 F.O