ゆきの耳掃除(右耳)
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;Track4 ゆきの耳掃除(右耳)
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;環境音(洞窟内) F.I.
;3/右 接近囁き
「(ふーーーーーーっ)」
;3/右 通常
「うふふっ、どぉれどれ?
こっちのお耳ば~――あ」
「……いきなりおおっきいの見つけちゃったと。
まずはそいば、とっちゃってから……
ん――<耳かき音>――」
「よっ――<耳かき音>――
んっ――<耳かき音>――
よし……っと、寄せて――<耳かき音>――ん――(呼吸音)――」
「よいしょっ――<耳かき音>――えへへっ――
はぁい、取れましたぁ」
「あとは……ん――<耳かき音>――
丁寧に――<耳かき音>――
丁寧に――<耳かき音>――
え? あ……うん――(呼吸音)」
「茂伸に何ばあったかは、ゆきはしらんと。
ばってん――<耳かき音>――
閉ざされた端境から、ひらかれた端境に、
ある日、突然がらっと変わって――<耳かき音>――」
「その上――ん……<耳かき音>――
ほどなく、土地神様が御自ら――<耳かき音>――
ゆきみたいな、よそでいきづまっとったあやかしば――<耳かき音>――ものべのに、お招きくださるよーになって――<耳かき音>」
「え? あ……うん。
土地神様ば、土地の神様、氏神様。
そん土地に根付き、そん土地を守り、
そん土地を栄えさせ、そん土地にくらす人間の笑顔を実らせるんが、努めで、喜びいう――そぎゃん神様」
「やけん、ん――<耳かき音>――
ふつうやったら、あやかしをよそから招くみたいな――<耳かき音>――
土地の人間をおどかしよる可能性があるよーなことは――<耳かき音>――
まちがってもせんよーな気がするとよ。
ばってん――<耳かき音>――」
「こん土地の、ものべのの土地神様は……<耳かき音>――
球磨の山奥で暮らしとった――<耳かき音>――
今はもう、犬神ちゃんくらいしか話す相手のおらんよーになってしもとったゆきにさえ――<耳かき音>――
噂ば届く、それほどに――<耳かき音>――え?」
「……(呼吸音)――あ、そぎゃんと。
"今はもう"――ね。
ばってん、昔は――昔はね?
ゆきも、こうみえて結構名高い雪御嬢だったんよ?」
「おにーさんは、ん――<耳かき音>――
市房山(いちふさやま)ば、しっとーと?――<耳かき音>――
市房山ば、九州熊本、人吉・球磨で、いっとう高くて――
綺麗なお山――<耳かき音>――」
「麓ばたどれば、温泉と、おいしかお米と焼酎と――<耳かき音>――
あとはーーああそう! 子守唄――<耳かき音>――
市房山からはすこぉし離れとるばってん――<耳かき音>――
五木村(いつきむら)の、五木の子守唄ば有名よねー」
「え? 『どんな歌だっけ』って……<耳かき音>――
んん……ゆき、あんまり歌ば上手じゃなかけど」
「ほんでも、おにーさんが聞きたいいうなら、歌うとね?
……へたっぴぃでも、笑ろーたらいけんよ?」
;囁くように歌唱 (参 https://youtu.be/UxFIaFhCiEE
;作詞著作権なし(民謡) 作曲著作権ぎれ確認済み
「♪おどま盆ぎり盆ぎり
盆から先きゃおらんと
盆が早よ来るりゃ 早よもどる」
「…………ふうっ――あ」
「んふふ……拍手ば、ありがとおねぇ。
気にいってもらえたんならうれしかと。
ありがとぉねぇ、おにーさん」
「ん? うん。もちろん――<耳かき音>――
ふるさとやけんね。好いとーよ。大好き――<耳かき音>――
やけんほんとは――出て行きたくなんて、なかったと」
「ばってん、仕方なかとよね――<耳かき音>――
『雪ば司るあやかしが九州にいるのはおかしか』なぁんて――<耳かき音>――
人間が……(呼吸音)――思うようになって、しもうたら」
「あやかしば、人間の想いの結晶やけん――<耳かき音>――
願いであっても、畏れであっても、欲であっても、不安であっても――<耳かき音>――
集う思いが大きければ大きいほど、あやかしの力もまた、大きゅうなる――<耳かき音>――」
「やけんね? ほんの200年くらい前までは――<耳かき音>――
ゆきも、こぎゃんちんまか体じゃなかったとよ――<耳かき音>――」
「背たけばもっと高ぅて、胸もあって――<耳かき音>――
……ゆきの姿を一目みたくて、凍え死んでもかまわん覚悟で――<耳かき音>――
里からえっちら市房山へと登ってくるもんも――<耳かき音>――
何人も何人もおったくらいやったけん――<耳かき音>――」
「……ばってん――<耳かき音>――
今ではまるきり畏れられんよーになってしもうて――<耳かき音>――
身体もこぎゃんととろけて縮んで――<耳かき音>――
はぁっ……我ながらなさけなかとよ~」
「おにいさんにも、ごめんねぇ――<耳かき音>――
全盛期のゆきだったら、もっとふっくら――<耳かき音>――気持ぉちよかひざまくら、してあげられたんだけどねぇ――<耳かき音>――」
「え? 『今でも十分気持ちいい』――あ。
あははー、おにいさん、お上手やねぇ、
ほんなら――ん――<耳かき音>――
うん。まずはお耳ば――<耳かき音>――
綺麗に、しあげて」
;3/右 接近囁き
「(ふーーーーーーーーーーーっ)」
;3/右 通常
「ちりがみも――<手で揉む>――すこぉしもみこんで、やわらこおして――ん……
<ちり紙でみみごしごし>――
うん!」
;3/右 接近囁き
「(ふーーーーーっ)」
;3/右 通常
「うふふっ、綺麗に取っとっと!
ほんでね? もひとつおまけに――
えと……おにいさん。
ちょこっとの間だけ――お首、たててくなっせ?」
;5/後
「ん。そぎゃん感じで。
そーしたら――ん……」
;SE 氷雪系魔法的な
「……こん氷の櫛で、髪と頭皮ばなぜたげるけん。
ひんやりしてきもちよかーって、
犬神ちゃんにも、大評判なんよ?」
「ほんならね? 力ばぬいて――
ん――<櫛けずる>
(呼吸音)……<櫛けずる>
(呼吸音)……<櫛けずる>
ん……<櫛けずる>
「え? 『よくやってあげてるの?』って――<櫛けずる>――
たまによ、たまぁに――<櫛けずる>――
一年に一度あるかなしか――<櫛けずる>――
犬神ちゃん、あぎゃんとかわゆか顔しとるのに――<櫛けずる>――
みだしなみのことば、ぜぇんぜん気にせんたちやけんねぇ――<櫛けずる>――」
「……『それにしては慣れた手付き』って?――<耳かき音>――
んふふっ――そいばね? おにいさん――<耳かき音>――
犬神ちゃんと知り合うまえ――今から百年よりもっとまえ――<耳かき音>――
ゆきには――よか先生ば――<櫛けずる>――あ」
「ごめんねぇ。うっかり。
おにいさんを、またゆきってば、冷やしてしもーて。
せっかくさっきあっためたとに――あ」
「……おにいさん。――お外、もうきっと暗ぉなっとるし――今日はこのまま、こん洞窟ば――あんお布団に――
泊まっていかん、と?」
「洞窟の中ば、昼でも夜でも温度ほとんどかわらんけん――あんお布団にくるまっとったら、おにいさんもぬくぬくねむれるろーし……」
「ゆきも……(呼吸音)――そんおとなりで、ふとんばかけんで横になったら……(呼吸音)――
おにいさんのとなりでも――きっと、すずしぅねむれるかなーって――え!」
「あ――あははっ――うれしか。うれしかとー。
おにいさん、お泊りしてくれるとねー。
こん新しいゆきのおうちの、一番はじめのお客様に、なってくれるとねー」
;3/右 接近囁き
「ほんならね? おにさん」
「ゆきの話の続きば――
むかしむかしのゆきの話ば――
お布団の中で、ぬくぬく――ね?」
;環境音 F.O.