Track 2

サキとお鍋とストレッチ

:環境音 FI お鍋、ぐつぐつ ;9/前遠 「……ん。こんであと10分も煮込めば上等だ。 ふふっ、あんちゃの足も、ずいぶんとらくになっだみてえで、よかったな」 「で……あんちゃ、 どっただ理由でヒノキノ山まで……あー……うん……(呼吸音)」 「はぁ……はぁ……地図アプリみてたら? 仕事の連絡がとびこんできで――(呼吸音)―― はぁ、それに返事してるうちに重要な話になってきて? はぁぁ、あんちゃ、よっぽど夢中になったんだなぁ」 「あんちゃが落ちそうになったとこまで登ってくんの、 普通にしてたって、人間には大変なことだべや。 ……んだどもな、あんちゃ? どんただ大事なお話しでも、 命おとしだら、続けられなくなっちまうべな?」 「あ――んふふっ。 あんちゃは素直なええこだな。 『ごめんなさい』 に、 『ありがとう』。 ええ響きだなぁ。 サキ、何十年ぶりに聞いだかなぁ――ふふっ」 ;2/右前近 「素直なあんちゃには、もっと良ぐしてやりたくなんな。 ん――鍋こさ煮えるまで、もーだっとかがるし―― あんちゃの体、 サキ、もーちょっと見でもええだか?」 「ん。あんちゃも見でほしいんなら、よかっただ。 へば――」 ;1/前近 「どれどれ――<さわさわ>―― ん……(呼吸音)―― ああ――<さわさわ>―― なるほどなぁ――」 「あんちゃ、スマホとかディスプレイとか、 けっこう長い時間みちゃってねか? そんせいで、体がこう――前側にまるまるクセがついちまってるかもなぁ」 「あどは――ん……<ぽんぽんと体軽く叩く>―― ああ……やっぱだな……<ぽんぽん>――うん」 「体幹も、もーさっとでも鍛えだほうがええかもなぁ。 腰にかかる負担をさっとでも減らせれれば、 あんちゃ、もっと楽になんでもできるようになるだで」 「どっちもさ、えらいごと簡単なエクササイズでできるで。 なんら鍋こが煮えるまで、ここでためしてみてもええけど ――ん。あんちゃがその気なら、教えんな?」 「へば、まずは両手をだらっと垂らしで、 体の脇にくっつけてけれ」 「したらいま、親指が真正面。 顔の向きとおんなじ方にむいてんな」 「へば、少し力をいれて――んっ―― 肩から腕をまるごと全部ねじるみでにして、親指を外側にひらいて――ひらいて――(呼吸音)――」 「腕の内側も手のひらも、まるっと全部――(呼吸音)――できる、だけ――ねじって――ひらいて――」 「ん……(呼吸音)――こーすっど、肩甲骨と肩甲骨の間がせばまってぐのがわかるべや? そらつまり……(呼吸音)――まるまりグセがついてる体を――(呼吸音)――ひらいて伸ばしてるってこどだで」 「ねじれるだけ体こひらいたら――ん――(呼吸音)―― このまま……(呼吸音)―― ゆっくりと十(とお)かぞえようなぁ」 「ひの、ふの、みの、よの、いつ、むう、なな、やあ、ここ、とお」 「……へば、力を抜いて、体をだるーっとゆるめっだ。 最初はさっとな?  肩がばりばり、はがれるような気がするかもしんねけど―― うふふっ、繰り返しやれば、すぐに慣れるだで」 「どだ? 痛だぐねが? 少しでも痛だむようなら、痛だみがぜぇんぶ抜けてから、まだゆるゆると試せばええな」 「ん、もうちょっとためしたいだか? へば――今日は3セット、ためしてみんな? ええだか? いくだよ?」 「ひぃの、ふぅの、みぃの、よぉの、いぃつ、むうぅ、なーな、やぁあ、こぉこ、とおっ!」 「へば、またゆるめる。だらーん」 「ん。ええ感じだな。 んだども、無理すると痛めちまうで、 最後の一セットもいまとおんなじ、無理せずゆるーり、ひねっていくだ。な?」 ;2/右前近(接近ささやき) 「その分すこぉし。すこぉしだけゆっくり数えて、 サキがあんちゃのギリギリのとこ、見極めるだで」 ;1 「へば、ラストなぁ。 ひぃのぉ、ふぅのぉ、みぃのぉ、よぉのぉ、いぃつぅ、むうぅ~、なーなぁ、やぁあぁ、こぉこぉ、とお~っ!」 「ん、おづかれだなや……よーがんばったなぁ。 <SE お腹なる>―― あははっ、あんちゃ腹へっだだか。 あんな? サキもだ」 「へば、お楽しみの、鍋にすべ? あんちゃ、よそう? それともサキが、よそったげよか?」 「あはは、わかった。 へばな、たぁんとよそったげるで。 な? 座ろ?」 ;SE 藁の座布団に腰掛ける :10/右前遠 (囲炉裏を囲み直角に座り合ってる) ;環境音 お鍋ぐつぐつ→volアップ 「ん……あとさっとだけ待ってけろ。 仕上げに、えへへっ――上等の秋田味噌を――<味噌を溶き入れる>――ああ――(鼻すんすん)―― ほっとする匂いだなぁ」 「ん? あれ? いっでねがったっけか。 サキは、秋田の出身だ。 神様やっとっだころは赤沼(あかぬま)の方。 神様おわれでからは、太平山(たいへいざん)で暮らしとったでな」 「神様やる前は、ほうぼうだなぁ。 なんせサキは――えへへ、お酒に目がねぇで」 「呑ましてくれる手伝いがあるってきいちゃあ、 山ん中でも、海沿いにでも、どこでもほいほいでかけてったな」 「っと……火が通りすぎでせっかくの鹿が固くなってもうめぐねだ。 ほぉれ――(木のお椀に鍋よそう)――鹿肉に、長ネギに、 まいたけ、ごぼうに、セリに――うふふっ、だまこも」 ;2/右前近  顔寄せ 「ほぉれ、たんと[食え'け]。 へば――『いただきます』」 ;10/右前遠 「へへ、サキは鬼だで、ガマンが苦手だ。 だでな? 大好物の鹿から――(あむっ)――んっ~っ (むしゃ、むしゃ、むしゃ――ゴクッ――) ああ~っ、こりゃんめなぁ」 「鹿肉にはやっぱり秋田味噌だなぁ。 塩気抑えだ上品さが――(はむっ) (むしゃ、むしゃ、むしゃ――ごくっ)―― く~っ! 肉の味さひぎだでで、まぁうめごとうめごと」 「あははっ――あんちゃの口にもあっでるみでだな。 もっと[食え'け]? たぁんと[食え'け]! 遠慮しとたら、鍋こさ空になっちまうぞ?」 「(はむっ――むしゃ、むしゃ――ごくっ)―― あ~っ、だまこもうめなぁ~」 「ん? ああ、あんちゃ、だまこ見るのははじめてだか。 んなら――ほぉれ。まずは喰っでみ?」 ;2/右前近 「あ~~んっ」 ;10/右前遠 「へへっ……(呼吸音)――んめか? んだか。 なら、なによりだ。 聞くより食うほうがわかんべな。 だまこは、お米。はんごろしにしたお米をまるめてつくった、おだんごな?」 「だまこにせんで、秋田杉の棒にくっつけてのばしたもんが――お! へへっ、さすがにあんちゃもしってっだっか。 んだ。だまこどきりたんぽは、まんず いとこ同士みてぇなもんだで――あっと」 「いげね。煮えすぎちまう。 な、あんちゃもな? どんどんけ、くってけれ」 「(はむっ――むしゃっ――むしゃっ――ごくっ)」 「(ずっ――ずずずっ――ずっ)――ふはっ」 ;ごぼう 「(もぐっ――こりっ、こりっ――ごくっ)」 ;だまこ 「(はむっ――)おっほっ――はふっ、あつっ――んっつ――(もむっ――もむっ――ごくっ)」 「っと、もう火から鍋、おろしてええだか? ん。なら――」 ;2/ 右前近 「よっ――っと」 ;環境音、囲炉裏パチパチに変化 ;3/右近 「へへっ――せっかくだで、あんちゃのお隣で」 「あんちゃ、おがわりは? ん? ああ、もうええだか? へば、サキも――<よそい>――ん、こんくれぇで、 しめえにすっだか」 「(はむっ――もぐっ、もぐっ――ごくっ) ふはっ――んめなぁ~。 味はこってりしみきったのも―― まだ、最初とは違ううめさだな、こら」 「(ずずっ――ごくっ) ん~っ。 (がぶっ――もぐっ――ぶちっ――もぐっ――ごくんっ) くあっ! 鍋なんてなぁ、ひどりでくっでもうめぐねーものな。 あんちゃが紛れ込んできてくれて……へへっ、サキ、ツイてたなや」 「あー。こっただうまい鍋こ囲んで、お酒のいっぱいものめねぇ言うんわ、辛いもんだで……呑みてぇなぁ~」 「え? ああいや、ここ――ものべのでもな? 秋田おったころとおんなじに、力仕事しだお礼に、お酒だなんだはもらっでるから……切らしてるいうこどはねぐてな?」 「ただ……その……こないだ、ものべののカミさん怒らしちゃって…… 一月の間、お酒呑まない約束な? 結ばされちまったの」 「あ……(呼吸音)――んーとな? ものべのにも鬼がおるだよ、牛鬼。 とおこいう――こぉんたおっぱいおっきい牛鬼」 「でな? サキ、勝負ごと好きなもんだで。 鬼同士、ちからっくらのひとつもしたい思たでな? お相撲、挑みにいったんよ」 「んだどもな? とおこは、気が優しすぎでなぁ。 サキが勝ちたい勝ちたい思とるもんで遠慮しで、 勝負の最後で、ふうっと力がぬけちまってなぁ。 それでサキ――バカにされてるみたいに感じで―― つい、カアっとしてな」 「牛鬼のとおこにはな? 旦那さんがおっでな。 とおこはその旦那さんのこど、大事に大事にしとるって、 サキも、知っておったで――つい、なぁ……」 「『最後の勝負でも力こ抜くなら、 サキ、とおこの旦那さ、さらっちまうで』って―― 挑発さ しでしまっでな」 「したらようやく、とおこの目の色が変わったで、 さてはっけよい! って、山鬼と牛鬼がほんきでがっぷり組み合ったらよ――土俵が持たねで、割れちまっただ」 「当然勝負もなーんもなしだ。 あわててもとにもどせねぇかとあれやこれやとしとったら、 ものべのカミさんがすっ飛んできて―― まぁまぁ怒(おご)るの怒らねの」 「サキもよ、土俵こ割れだとき、 カァってしとったのいっぺんに収まっで―― カミさんと、牛鬼のとおこに、ひらあやまりにあやまったども……」 「とおこはと違っで、ものべのの神様は許してくれんの。 勝負の前の景気づけに、ほんの一杯、サキがお酒をひっかけてだのにかこつけて―― カミさん、許す条件に一年の禁酒だいいだしてなぁ」 「一年呑まねば干からびちまうで、真っ青になっで謝まっで―― したらな? なぁんととおこもな? サキといっしょに、神さんにあやまってくれたんだぁ」 「で、神さんも収めてくれで、 お酒さ断つの、一ヶ月だけでええいうこどになったんだ」 「この約束さ破っちまっだら―― 神さんにもとおこにも、申し訳ねぇだで…… どっただ こん鍋がうまぐでも、 あんちゃとの話が楽しぐてもよ―― (はむっ――もくっ、もぐっ――ごくんっ) ふぁ――今のサキには、酒は呑めねだ」 「ん? っと、肉も最後の一切れだなや。 へへっ――今日は、あんちゃがお客さんだで。 最後の一切れはあんちゃのもんだ」 ;2/右前 「ほぉれ。遠慮せんで。 あ~~~――あっ!?」 ;箸から肉が滑り落ちて、汁気たっぷりの取り皿の中におちる。ぼちゃん→ぴちゃ! 「ありゃま。お肉が逃げ出しちまったな。 へば、あらためて――ん……」 :2/右前 顔寄せ囁き 「今度はおとさねぇよーに。うふふっ。 『あ~~~ん』」 「……(呼吸音)――んふふっ、んめそだ顔だなぁ。 そっただ顔してもらえんなら、サキもうれしいだ。 うふふっ、『ごちそうさまでした』――ん?」 「あ、さっきぽちゃて跳ねたとき、しずくがあんちゃにかかってただか?  火傷しただか? 痛でとこねぇか?」 「え? 『痛くはないけど、耳になにか入ったかも』って――ああ!」 「へばな? ごろんて、してくれっだか? サキ、あんちゃの耳そうじしてやんなぁ」 「なぁに初めてのこどだども、心配いらねだ。 サキは、いっときはサンキチ様―― カミ様だった山鬼だでなぁ」 ;環境音FO