Track 2

見習い弟子に泣きながら看取られ

終わりましたか!?師匠。 ロカ、ただいま戻りました! いやあ、流石師匠ですねえ。魔物の群れが慌てて森の奥に去っていくのが見えましたよ。 さすが街一番、今世紀最強の冒険者! ……ていうわけで、罰のお尻叩きはちょっと勘弁、してもらえると嬉しいのです。 とにかくっ、こんな危ない所にいないで早く家に戻りましょうよ。 ほら、余裕かまして寝転んでないで…… あれ……えっ……嘘…… きゃあああああああ!師匠! 師匠! 嘘でしょ……こんなに血が沢山出て……酷い傷……。 まさか……師匠……私を逃がすために命がけで……。 まさか……いや、またまた。そんな。冗談ですよね。 私をからかおうとしてるんですよね? 危ない危ない、一瞬信じちゃうところでした。 その手には引っかかりませんよ! 起きて「何泣きそうな顔してんだ」って言いうんでしょう? ほら、はやく言ってくださいよ。 し……師匠ぉ……?冗談じゃ……ないんですか……!? 師匠が、師匠があんな魔物なんかにやられるわけない……。 だって、「ここは任せてちょっと離れてろ!すぐ終わらせるから」って言ったじゃないですか! なんで、なんで……。 いつも通り、パパっと倒して終わりのはずじゃなかったんですか!? 大変だ……誰か助けを呼ばなくちゃ。私一人じゃどうしようもできない! だ、誰かいませんか!? あのっ、すいませーん!冒険者の人とか、ヒーラーの人とか、いませんか!? ここに、ひどい怪我をしてる人がいるんです! あのっ!本当に!誰かいませんか!?誰かーーーー! 誰も居ない……いるわけないんだ……。どうしよう……。 あっ、そうだ! 私、ちゃんと道具箱の中に薬草を持ち歩いてるじゃないですか! ちょっと待っててくださいよ師匠。今、応急処置をしますからね! 落ち着け……落ち着くんだロカ……。薬草による応急処置のやりかたは。 えーっと、まず、薬草を噛んで……にが…… これを傷口に塗って…… そして、傷口に沿って包帯を巻く…… これでよし。ふっふっふっ、完璧ですよ。これですぐに回復しますからね。 ほら、どんどん元気が湧いてきたでしょう!? ちゃんと、師匠から教えてもらった通り、応急処置できましたよ。 いつも言ってたじゃないですか。私、手先は不器用だけど、物覚えだけは良いんですって。 だから、ほら、起き上がって早く「よくできたな」って言ってくださいよ。 ねえ……いつもみたいに、頭、撫でてくださいよ。 ………。 …………なんで、血が、止まってくれないの……。 ちゃんと、ちゃんと教わった通りにやったのに。 なんで、傷が治り始めないの……。 何か間違ってた!?ううん、どこも間違ってないはずだもん。 ちゃんと薬草は噛んだ。薬草を塗ったらすぐに包帯も巻いた。分量もあってるはず。 ちゃんと師匠に教わった通りにやってるもん……。 なんで……まさか……。 いやいや、そんなわけない!絶対にない! 本当は傷は治ってきてるのに、痛くて起き上がれないだけなんですよね! もう返事ができるのに、やってないだけなんですよね! そろそろ、私だって怒りますよ!今ならげんこつで許してあげるから起きてくださいよ! せ、せめてっ、何か一言ウンとかスンとか言ってくださいよ! ほら、ほら!!! …………。 あ、そうか……わかった!師匠、ロカのこと怒ってるんですよね。 私が普段キツく言われてるのを忘れて、魔物の縄張りに足を踏み入れたから、それを反省するまで起きないフリしてるんですよね!? ……えーっと、さっきまで冷たい態度を取ってごめんなさい。 ……勝手に、1人で森の中を進んでいってごめんなさい。 ……サインを見逃したせいで、魔物の縄張りに入ってしまってごめんなさい。 二度と良いつけを破ったりしませんから。 教えてもらったことを忘れちゃったりとか、乱暴に師匠の物を扱ったりとか、そういうの絶対にもうしませんから。 好き嫌いせずになんでも食べますし、予習とか復習もちゃんと毎日やりますから……。 だから、ね? 許してください……。どんな罰も受けますから……。 ほら、これでいいですよね? ロカ、心の底から反省しましたよ! だからあ……起きてくださいよ……師匠……。 うう、手が、冷たい……。どんどん、脈が……なくなっていってる……。 師匠……、師匠……! あなたに、いなくなられたら、私どうしたらいいかわからないんですよ。 まだ教えてくれてないことが、たくさんあるじゃないですか。 もっともっと、いっぱい色んな事を教えてくださいよ。 魔物との戦い方とか……ああ、そうか。私が、魔物の戦い方を師匠から習っておけば。 いつかやればいいやってサボらずに、身体のトレーニングとか、剣の振り方とか覚えておけば、 こんなことにはならなかったかもしれない……。 簡単な治癒魔法とか、知っていれば助けられかもしれないのに。 私のせいだ……、私の、せいなんだ……。 ねえ、師匠……私、まだまだ何も知らない、ひよっこの、ダメ冒険者なんですよ。 貴方がいなくなったら、どうやってこの世界で生きていったらいいんですか……。 人間としての生き方も、冒険者としての生き方も、わたし、全然知らないんですよ……。 いつか、私が一人前の冒険者になったら、二人で冒険に出ようって言ってたじゃないですか……。 隠居の日々も悪くはないけど、冒険の日々のほうが好きだって言ってたじゃないですか。 私、その日を……楽しみに、してた、のに……。 もう、駄目だ。私………。 何が、何がいけなかったんだろ……。 いつもどおり起きて、いつもどおり朝ごはんを食べて、 いつもどおり朝の運動をして、いつもどおり二人で勉強をして、 そして、いつもどおり森で狩りをして……。 いつもどおり、ご飯を食べるはずだった。 くだらない話をして……。 お風呂に入って……。 ベッドで寝て……。 いつもどおりだった、楽しい、日々が、もう…… やだ、やだ……やだよぉ……。 師匠、死なないでよぉ……!!