Track 3

皮肉屋なボクっ娘に看取られ

なあ、確かキミさ。ずっと前に言ってたよね。 確か、この任務に出る前のことだったよな。 笑っちゃうぐらい真剣な顔でさ。 「この戦いが終わったら、話がある」って。 その話、ついに言う時が来たぜ。 だってほら、ちょうど今戦いは終わってしまったのだから。 残念ながら、ボクらの負けでさ。 あはは、笑えるよねー。 あの時は、真面目な雰囲気が照れくさくて、それを誤魔化そうとして 「それってさ、いわゆる敗北フラグじゃん?」って言っちゃったけどさ。 まさか、本当にそうなっちゃうとはね。喜劇だよ。 ……。 ほら、どうだいこの素晴らしい景色。キミにも見えるかい? ……んー、眩しくて目が開かないのかな? まったくしょーがないなー。それならば、我が親愛なる友人のキミに、ボクが実況中継をしてあげよう。 死のヴェールの掛かっていく空に、流れる銀色がキラキラして……、そうだね。 まるで、夜空一面にぶちまけた天の川みたいだよ。 もう数刻もすれば、奴等の兵器が雨あられのように叩き込まれて、この地球は終わりさ。 こういうのをまさに「世界の終わりみたいに綺麗だ」って言うんだろうね。最高だよ。 あーあ、長かった戦いもこれで終わりかあ。 あっけなかったなあ。 これで、地球は奴らのモノってわけか。 こんな星、奪い取ってどうするつもりなんだろうな……。 移住地にでもするのかな? それとも資源の採掘場? キミはどう思うかい? ……なあ? ■シーン2 こういう言い方は恩着せがましいかもしれないんだけど、 景色がよく見える場所までキミを運んできたのはボクなんだぜ? ちゃんと、怪我の手当もしてさあ、大変だったんだよ? まったく、早く起きて、お礼の一つでも言って欲しいものだ。 まだ起きないのか、早く起きないと、寝てる間に世界終わっちゃうよ? ……全くもう、そうだなあ。 キミがびっくりして、起きそうな話でもしちゃおうか。 えーっとね、こんな事、今言うと不謹慎極まりないのかもしれないけど、 ボク、キミとコンビでずっと戦ってこれたの、すごく嬉しかったんだ。 ……本当だぜ? 驚いたかい? なんでかって?そうだなあ。キミは、いつも、信じられないような無茶をやるし、 ボクと違って頭も良くないし、ガサツだし、デリカシーがないし、 あとは、ぶっちゃけキミよりボクの方が戦闘能力も高かった。 あはは、痛いところを突いてしまったかな? けれども、だ。キミは、心が折れそうな時には必ずボクの事を引っ張っていってくれたよね。 キミの、無責任だけど、暖かくて力強い言葉が、いつだってボクの心を奮い立たせてくれたんだ。 初めて訓練で知り会った時から、ずっとそうだったんだぜ。 何をすべきかの手順が頭ではわかってるのに、上手く体が動かなくて。 それが情けなくて、諦めて座り込んでた時に、 近づいて手を差し伸べて、声を掛けてくれたのがキミだったよね。 ああいう風に、他人から励ましてもらうのは生まれて初めてで、正直とても驚いたんだけども、同時にとても嬉しかったんだ。 キミがいたおかげで、あの時の僕は辛い訓練を乗り越えることができた。 それ以来かな、頭で「これはもう無理だ、諦めよう」って考えてしまっても、 キミの言葉さえあれば、心がそれを振り切って、戦うことができたんだ。 本当だよ。これは皮肉でも冗談でもない。ボクの紛れもない本心さ。 あはは、ボクだってたまには素直になることだってあるさ。 ……なあ、聞いてるかい? そろそろ、寝たふりをやめて、起きてくれてもいいんじゃないか? そして、いつもみたいに笑いながら「はいはい、わかってるよ」って、言ってくれないか…… ■シーン3 ねえ、最初の話に戻るけどさ。 あの時キミが言おうとしてたことって何だったんだい? やっぱり……その、ああいう場面で伝えるのって、いわゆる男女の関係の話が定番だけど…… まさか、あんな真剣な顔して言うことが明日の天気の話だったりは、流石に面白くないぜ。 やっぱり、さ。その……告白、だったんだよね? そうだよな、そうに違いないよな。絶対、そうだよ。 ボクの天才的な頭脳からはじき出された計算結果によれば……、 キミは、ボクに結婚を申し込もうとしていた。そうだろう? なるほどなるほど、あれだけ「お前は恋人というより戦友だよ」って言ってたキミだけど、 一枚薄皮を剥いで見れば、そこらの平凡な男と同じ、ケダモノというわけだ。 …………。 ……いいよ、受け入れてやろう。 ふふふ、こう見えてもボクの方にも、人並みのくだらない願望があるのさ。 お互いWinWinの提案だ。 二人で、平凡な、つまらない家庭を築いて、生きていくつもりだったんだろ? いいよ、そうしよう。 どこか、静かな場所に家を買って、そこに二人で住んでさ、 毎日出かける前にお互い「行ってきます」のキスをして、 「愛してるよ」って言い合って……! いやあ、ありきたりだねえ。素晴らしいね! そして、歳をとってお互いしわくちゃになって、最後には「幸せだったね」って言い合えるような……。 そんな、ありきたりな人生をお望みだったんだろう? キミのその提案、受けるよ。 いや……、受けるよ、って言い方は良くないな。 こちらこそ、よろしくお願いします。私のことを、一生大事にしてください。 一生……。 そうだね、今からでも遅くないよ。やろうじゃないか、くだらない人生をさ。 世界の終わりまで、いや、次の世界でも、二人で生きていこうよ。 キミ、こういう時にどう言うか知ってるかい? 知らないだろう。 ボクがちゃんとやってみせるよ。 「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、ボクは、キミのそばにいます。 死が二人を分かつ時まで、その約束を守ることを、ここに誓います」 ふふふ、これが契りって奴かあ。 でもそうだな、一個だけ訂正させてもらおうかな。 「死が二人を分かつまで」なんかじゃない。「いつまでもずっと」だよ。 たとえ、死にだって、あの侵略者たちにだって、この世の終わりにだって、僕ら二人を分かつことはできないさ。 じゃあ……、ボクら二人のくだらない人生のために。 誰にも邪魔されない、幸せのために、ちょっと決着をつけてこようかな。 安心してくれよ。用事が済んだら、すぐに迎えに行くから、 身だしなみを整えて、ボクに着せるウェディングドレスでも選びながら、待っていてくれ。 このままあいつら奪われっぱなしじゃ、ボクも納得して死ねないから。 ……そうだ。これ、出かける前にやっとかなくちゃ。 行ってきます。 「愛してるよ。」