Track3
夜分遅くに申し訳ありません……ご主人様、ミセリアです。
失礼致します。勝手に入ってきてしまって申し訳ございません。
ちょうど先程、当主様の部屋の近くを掃除している時に、
お医者様が入っていくのが見え……、どうも様子がおかしかったため、、
お二人がどのような話をしているか、隣の部屋から、こっそりと盗み聞いてみたのです。
そうしましたら、ご主人様はもう……今夜あたりが、山場だと……。
なぜならいつもご主人様に飲ませる薬に……毒を……ずっと入れていたと……。
私自らが……、ご主人様に毒を……ずっと……これまで……!!
あぁ……私はなんと愚かなことを……。
ご主人様に救われた私が……ご主人様を支えるどころか……死に近づける手伝いをしていたなど……。
どうか私を罰してくださいませ……。
私はご主人様を……従者としてあるまじき行いを致してしまいました……
償えるのであれば私の命で償います……
当主様、いえ奴らを全員殺してから、私もご主人様の後を追わせていただきます。
いくら家の存続のためといえ、病気で弱っているご主人様を、見舞いにくるどころか謀殺など、人の親のすることではございません。
……えっ、その必要はない、とは、どういうことでしょうか……。
そんな…ご主人様は、とっくに、毒の事に気付いていらして。
それでも、この家で死ぬ事を覚悟して、ずっと過ごしていらしたのですか……。
実の親に殺されてもいいはずはないでしょう! そんな、理屈に合いません。
……それが家督を継げぬ者としての最期の努めだとおっしゃるのですか……。
ご主人様は、そんな気高さを抱えていたのに、私は、何も気付いておりませんでした……。
ずっと、ご主人様を支えて居られるのだと思って、
そのためにはまず一人前のメイドでなければ。そう自分に言い聞かせてきたのに。
何一つ、ご主人様のためになるようなことは、出来ていなかったのですね……。
ご主人様の想いも、ご主人様への害意もわからず、私は……何のために……。
あの約束の……湖……。
ご主人様、私からのお願いがございます。
メイドになってほしいと言っていただいたあの湖まで、一緒に行きましょう……。
ご主人様の最期が、こんな小屋であってはなりません。
せめて、ご主人様が安らかにいられるように、あの場所で、最期の時間を過ごさせてください……。
私が、ご主人様を背負い、町外れの湖まで責任を持って運ばせて頂きます。
んっ……ふっ……。
準備はよろしいでしょうか。
しっかり捕まっておいてくださいませ。
ふっ……ふっ……、
ご主人様……ご主人様……。
……あぁ……良かった。目が覚めましたね。
大丈夫ですか、ご主人様?
湖までの道中、貧民街で急に血を吐かれ……意識が無くなってしまったので……
とにかくどこかにと思い、ここまで運び、ご主人様をベッドに寝かせるのが精一杯で……。
……ここは、ご主人様に拾われるまで住んでいた家です。
貴方に拾われる前、ここで毎日暗い気持ちで寝て、起きて、世界を恨むような生活をしていた……。
完璧なメイドたれと思い、どれだけ努力しても、私はずっとこの場所から逃れることは出来ないのかもしれません……。
ここに戻ってきたのも、呪いのようなものなのかもしれません……。
結局、私は、ここから出ても、何も成すことができなかった……。
二人の約束の場所に、もう一度行くことも、叶えられなかった……。
ああ……私は、結局、幸せになる権利なんて、無かったのでしょうね。
どこにもいけない……。なにも、なせない……。
これが、私の運命なのでしょうね……。
うぅ……ご主人様……
ご主人様……もう私は普通にはなれないのです……
ですが……ご主人様の気高さは決してここで終わってしまうべきではないのです……。
ご主人様、この愚かで何もできない……あなたのメイドからの、最期のお願いを聞いていただけませんでしょうか……。