5. ヤモリエチ
――先輩。先輩。先輩。先輩。……あ、先輩だ。もしもし先輩。
どーも。え、なに。どうしたんですか。名前……?
ああ、最近ね、ずっとこうなんだ。ふしぎ。ぎしふ。ふふふ。
テンション上げ上げ。先輩もほら、いえーい。ふふふ。
……いや、元気なんですよ。そう言われるとちょっとショックです。
しゅん……。うそです。元気、持続中。しばらく元気です、たぶん。
ふわあぁ(あくび)。……ああ、昨日遅くまで……話してたからね、
寝落ちってやつですね、初めてしちゃいました。
……へえ。先輩は寝落ち常習犯なんだな、うふふっ。
あのね私ね、睡眠が六時間四秒を切るとダメ。頭が働かない、うん。
だからね今の家守依知、完全無防備。無防備。うかつな発言も許してちょ。
あー。私、先輩にめちゃくちゃにされたい。
え?
なに?
なんか言った?
え、私?
何も言ってないけど。
どうしたんですか先輩。今日は落ち着きないですね。
せぇんぱぁい。私、いつものかっこいいせぇんぱぁいが見たいなぁ。
先輩。もしかしてお前、ドキドキしてますか。
顔、歪めてますか。……いえ、見えたので。
は?
何言ってるの。私は私の部屋。なんで私が先輩に会いにいくんですか。
ワケワカラン。
……ほう、察しが良い。うん、たまに私、先輩見えるよ。
ああそうだそういえば。
ねえこの前何してた?
私の名前を呼びながら何してた?
クスッ。
随分と切なそうでしたけど、ねえ、教えて。知りたい。
知識欲旺盛だからね、特に先輩の事柄に関しては。
あっは。あはははは。何を慌ててるんですか先輩。せぇんぱぁい。
こう、こんな風に、せんぱいせんぱいって言った方がいいですか?
ん?
……ああすみませんすみません、怒らないでください。
あ、でも怒って良いですよ。私、先輩にされる事すべてが好き。
先輩と関わって先輩と話してお前と触れ合う事が、ね、生を実感できる。
生きてるって、生きてていいんだって、先輩との絆が私の生存権。
生きる理由って、あるじゃないですか。
それ、人生の途中で見つける奴もいれば、探し出せないまま死ぬ奴もいて。
私、能動的に掴むものだと思ってたんだ。
家守依知はたぶん、世界一幸福。
生きる理由が、そちらから来て下さった。ありがたき幸せ。
……ね。
いつかの東尋坊の話、覚えているかい?
彼を殺した男の気持ちね、今なら分かる気がします。
もし。もしさぁ、お前の前に……そういう相手が現れたら、
そいつが東尋坊のような人物でなく、
善行の限りを尽くしてきた人格者だったとしても、それでも、
私はそいつを……。ふふ。うふふふふふふ。
……何だろうこの溢れんばかりの行動欲。湧き水。噴火。ぐつぐつ。
ふふ。そんな心配しないで。お前の声を聴けば抑えられるから。
大丈夫だから。うん。
でもこのかつてない行動力を無駄にしたくないので。
ひとつ、小さな思いが生まれました。
先輩……。
デートしましょ。
ほら、先輩との接点ほぼないでしょ。初対面以外は電話だけでしょ。
私、見つけたい場所があるんです。
地名は分からないし、そもそも存在するかも分からないし。
でも、たぶん……いや、きっとある。
だって、お前がいたから。お前はいたんだ。
あの世界は私だけじゃなかった。お前がいたなら、あそこもきっとある。
……なにさ。べ、別に会いたいだけとかそんなんじゃない。
さてどこでしょうかね。お前と共に見つけられたら嬉しいぞ。
へ?
な、なんで心霊スポットなんだよ違うよ。そういう趣味ちゃうから。
あでも興味がないと言えばうそ。割かし行きたみある。
って違う違う違う。ああもう、ばか。ばーか。おこだよ。おこおこ。
と、に、か、く。先輩、土日は空いてますか。
旅ですよ旅。遠くに行きますよ。はい。……え?
え、あ。
……えへへへへへ。私も、先輩とならどこへでも行きたいよ。えへ。
……え、そう?
私はいつもの私……のはず。です。たぶん。きっと。
ひとつだけ違うとすれば、……うん、私にはお前がいる。
先輩、好きです。ずっと一緒にいてください。
私もずっと、先輩のそばにいます。いさせてね……先輩♪