6. クモ
これは、私のひとり言です。勝手にたくさん……喋ります。
世界は私に指を差した。笑った。口は笑った。目は笑っていなかった。
私より不幸なひとなんていない。
そんな思い、そんな当たり前、そんな不条理。
私は硝子の積み木の上に立っていたらしい。
安っぽい、安っぽい。
もし神様がいて、私にその指ひとつ貸してくれないのなら、
傷だらけのマッチポンプな女だと思われているさ。
足元に火がついて、私は高笑い。涙で火消しか?
いいや違う。
神様、お前はきっと世界一の大馬鹿者だ。
この業火は、私にはどうしようもなく熱くて、触れる事さえ出来なかった。
彼がいた。彼はすごい。裸足だ。風のせせら笑いにも動じない。
心頭滅却、火もまた涼し。しかしどうやらそれは私に課された命題だった。
神様、お前にひとつ感謝するとすれば、沈黙さ。
これから先もずっと……私を見ていろよ。指も、口もいらない。
……少し早めの春が微笑んでいる。
雪解け水って冷たいらしい。流れたあとには何が残っているだろう。
私とお前の物語。
終わりが近い。時間は止まらない。
全てひとり言だったはずなのに、いつの間にやらそうではなくて。
お前がいるから私がいて。私がいるからお前がいて。
なんて、言えるようになりたいな。
たまに夢を見る。
遠くに山、近くに田園、ひぐらしが鳴いてる。
世界が赤く染まってる。
私はひとり。ただひとり。
彼を、待ってる。
しばらくすると、彼が来る。笑って、小走りで、私のもとへ。
私も笑ってる。理由はきっと、「好き」だから。
私たちは手をつないで歩く。どこまでもどこまでも、夜と夜明けを目指して。
どこまでも、どこまでも。
彼の横顔は、やさしくて、愛しくて、とてもとても……好き。
家守依知のお話は、いったんおしまい。
ひどく滑稽な起承転結に、腹がよじれるほど面白かったか?
ひどく酔っぱらった語らいに、鳥肌を隠せぬくらいつまらなかったか?
それとも……ただただ平行線をたどっていたか?
どんな時間を過ごしたお前にも、最後にはこう言うべきだろう。
いや、言わせてくれ。言いたいんだ。
ありがとう。
ここまで聴いてくれて、ありがとう。
大嫌いだ。大好きだ。愛してるよ、奇麗で。汚くて。
ありふれた、でもたったひとりしかいない……お前が。