ありすの問診
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;Track1 (ドラマパート)
;「ありすの問診」
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;環境音 秋の田舎(町中。アスファルト)
;SE 足音 →止まる
;SE 診療所のドア ノック→開く→ドアベル
;16/左前遠
「あ、いらっしゃい。待ってました」
;足音ナースシューズ(床はリノリウム);16/左前遠→;6/左前→;1/前
「え? あ、ですよ。休診日。
だからこそです」
「あなただけをケアするためには、他に誰もいないほうがいいに決まってるじゃないですか!
だ・か・ら。気にせずあがってください」
;SE ドア締める
;外の環境音ストップ
;病院内環境音 (待合室の時計、冷水機のモーター音)
;SE 紐靴脱ぐ→下足箱にしまう→スリッパはく
;ナースシュース足音を追いかけてスリッパ足音。
;スリッパ足音がとまった後もナースシューズはひだりに遠ざかり、受付を回り込んで;9/前遠に戻る
;9/前遠(受付のあっちとこっち)
「うふふっ。ちゃあんと来てくれましたね。
わたし、とっても嬉しいです」
「ようこそ! 有島診療所へ!」
「じゃあ、まずは問診表ですね。
はい、これどうぞ」」
;SE クリップボードとペンを手渡す
「書けるとこ、書いちゃってください。
悩むところとかは聞いてくれてもいいですし、なんなら空欄でも構いませんから」
「あ、ソファに座って書いてください。
どうでガラガラなんですし。っていうか」
;SE ナースシューズの足音 ;9/前遠→;15/左遠→;7/左
「はい、ここ、どうぞ」
;SE ソファ座る→ありすも隣に座る
「ゆっくりでいいですよ?
時間はたくさんありますし――」
;7/左 接近囁き →「うふふっ」で顔はなす」
「もしもわからないところがあったら、わたしが書き方教えますから――うふふっ!」
;7/左
「あなたのことは結構深くわかってますけど――書類ですから。
まずは、名前からお願いしますね?」
;SE 問診票記入(クリップボードにペン走らせる)継続
「(呼吸音)」
「(呼吸音)」
「……静か、ですよね。休診日の診療所って、とっても」
「普段からもそんなにうるさいところじゃないですけど……
ここまで静かだと、普段は結構、それでもにぎやかなんだなぁって思っちゃいます」
「(呼吸音)……ですね。茂伸村(ものべのむら)唯一の医療機関ですから。
お年寄りからおちびちゃん、赤ちゃん――どころか、最近はあやかしたちも来ますし」
;SE ペン音ストップ
;1/前(リスナーの方の顔が、問診票からありすに向く)
「はい――(呼吸音)――あ、ですです!
その形部狸(ぎょうぶだぬき)さん」
「大狸形部腹突(おおたぬぎょうぶはらつく)さんとこの、
四国八百八狸(はっぴゃくやだぬき)さんの一人……ひとたぬ?」
「『刀圭狸(とうけいだぬき)』っていうあやかしのお医者の先生が、月水金と、隔週で土曜診療にも来てくださってるんです」
「いい先生ですよ? 刀圭狸先生。漢方ベースの医療されるんで、パパともよく医療談義してます――え? (呼吸音)」
「あ、やだ。違います。闘う鶏じゃなくって、日本刀の刀に、圭――んと……あ! テニスの! カタコリ圭選手の圭ってかいて『とう・けい』です」
「薬を盛る匙のことを、昔のことばで『刀圭』っていったそうなんですよ。だから、それを扱うお医者様が、刀圭家(――か)」
「狸たちの刀圭家の刀圭狸先生も、だからですかね?
基本的な治療方針は、『お薬で様子見』みたいです。
完璧に内科医的アプローチ」
「いざとなったら外科治療もするっていうお話ですけど――
わたしはまだ、オペに立会ったことないです。あやかしのは」
「今後も無いといいなって思うんですけど……
でも、あやかしも結構怪我とか体調不良あるみたいですし、
なかなか大変ですよ?」
「しばてんとかなら平気なんですけど……
フルソマさんとか、見た目が怖いあやかしが来ちゃうと、
おちびちゃんたちも泣いちゃいますしね~」
「ん? (呼吸音)――あ、フルソマさんは、冷え性だそうです。
手足が冷えて仕方ないから、なんとかしてもらえないかって」
「……問診は、あやかしさんたちのも基本わたしが担当するんですけど――傾向みたいなのは、なんか感じますね」
「ものべののあちこちで話題になってるあやかしさん――
いまだったら、お洗濯屋さんのお紺さんとか、ものべの保育園のひよ先生とかは、もうね、みるからに元気いっぱい、診療所とは無縁な感じなんですよ」
「逆にね? 診療所にくるあやかしはこう……影が薄いっていうか、来てくれて顔みたときに
『あ、こんなあやかしもいたっけ、そういえば』みたいな――って、ちょっとびっくりしちゃいました。そんなに全力で頷いてもらえるなんて……あ」
「手、とまってますよ? 問診表」
;SE ペン音再開
;7/左
「それで……何の話でしたっけ?
あ、そうでした。フルソマさんが来たときの話ですね。
あのときはもう、おちびちゃんたち怖がって一斉にギャン泣きしちゃって――」
「普段の……普通に泣くだけのときとかは、おかあさんたちが絵本の読み聞かせなんかしてあやしてくれるんですけど――」
「見た目が怖いあやかしさんのときとかは、おかあさんたちまで泣きそうになったりとかもあって……あはは、本当になかなか大変です」
「え? (呼吸音)――あ、そうですよ?
受付にあめがおいてあるのは、がんばって受診したおちびちゃんたちへのご褒美用です」
「もちろん、病状とか、お母さんの教育方針とかによってはあげられないこともありますけど。
そういうときには――うふふっ、こっちをプレゼントです」
;SE ナースシューズパタパタ 7/左→;9/前遠 (ここで紙を取るペラ音)→;7/左
;SE ペン音ストップ
;ありす座る
;SE 折り紙おる
;1/前
「ん……(呼吸音)」
「よい、しょ――(呼吸音)――で、羽を広げて、首を――うん!」
「えへへっ、綺麗にできました!
はい、どうぞ。折り鶴です」
「ミニ折り紙で作ると、結構かわいらしいでしょう?
って、邪魔になっちゃいますね、あははっ」
「え?(呼吸音)――あ、うれしいです。
もらってもらえるの――とっても嬉しい」
「ですね、折り鶴はたたんじゃえますから。
うふふ! そうしてしまっておいて、ね?」
「もしもどこかで苦しかったり辛かったりなときがあったら。
わたしの応援が届かなくって、それでも必要なときがあったら」
「折り鶴の羽をひろげてくれたら――
きっとこのこがあなたのとこまで、わたしの応援、届けてくれるって、思います」
「だから、持っていてもらえたら……(呼吸音)……」
「――って、あ! やだ、問診票、書き終わってるじゃないですか。戻してもらっていいですか?」
「……はい。ありがとうございます。
ええと? ん……
ふむふむ――ほうほう――なるほどなるほど~」
「さすがすみちゃん。栄養バランス、日常生活習慣に悪いところは見当たりません。
うふふっ、本当にいい奥さんもらいましたね?」
「けど! それでこの過労状態っていうのは、
やっぱりただただどこまでもひたすらに働きすぎです。
ご家族の了承もいただいてますし、今日はゆっくり、ケアをうけて、休んでいってくださいね?」
「って、いうことで――えいっ!」
;SE ソファから立ち上がる。
「1番の診察室にどうぞ、いらしてください。
まずは身体測定から、はじめましょう」
;環境音F.O.