メメ子、バイト中
いらっしゃいませー!
……なんだ貴様か。
何しに来た?
……暇つぶし?
性格が悪いな貴様は。
適当に空いてる席に座れ。まったく。
ほれ。水とお絞りだ。
で、注文は。
言っておくが、手間のかかるメニューを選んだら、ものすごい嫌そうな顔をするぞ。そりゃもう、ものすごく嫌そうだぞ。
お勧めはアイスコーヒーだ。
しかし、我のような美少女が接客してやってるのだ。アイスコーヒー一杯で何時間も粘るのは許さん。
えー? ハニートーストは面倒だからやめろ。
ああ。ケーキなんかは、ただ持ってくるだけだから許す。
じゃあアイスコーヒーとケーキでいいな?
うんいいよなオッケー了解ご注文承りました少々お待ちくださいませー。
失礼します。
こちら、お済みのお皿、お下げしますー。
あ。はーい。お会計ですね。少々お待ちくださーい。
えーと。お会計は……ご一緒でよろしいですか?
……別々で?
えー……。
“我の目を見ろ”。
お会計、ご一緒でよろしいですねー♪
ありがとうございます♪
こちら、お二人で合わせて千円ですねー♪
はい。はい、ちょうどいただきます♪
ありがとうございましたー♪
またどうぞお越しくださいませー♪
ふぅ、待たせたな。
アイスコーヒー二つとケーキ二つだ。
え?
あぁ。もう一つは我の分だ。
なんか、マスターが、他に客がいないから、貴様と話してていいって。
あ、もちろん、我の分はきちんと貴様の伝票につけたから、安心しろ? ふふ。
いただきまーす♪
あーーん……♪
もぐもぐ……♪
んー♪ 舌の上に広がる柔らかな甘み……♪ 最高だな……♪
ケーキを発明したのは、人間の唯一褒めるべき点だ……♪
このケーキ、マスターの手作りらしいのだが……これは抜群にオススメだ。
貴様も食え?
はむ、もぐもぐもぐ……
なー? うまいだろー♪ ふへへへ……♪
……んー? バイト?
まあまあだ。そこそこ上手くやってる。
簡単な催眠魔法でマスターの認識を変えてるから、今のところ、我の身の上を怪しまれてる雰囲気はない。
そこは安心しろ。
それに、接客もちゃんとやれてる。
貴様はよく分かってるだろうが、我、めっちゃ要領いいからな。それはもう、サクサクよ。今や、このカフェに我の存在は欠かせん。
さっきの客にだって、ちゃんと応対できてただろう?
え? いや、何の話だ? 分からんなー?
さっきの客は、我が目を合わせて真摯に話したら、偶然、二人で一緒の会計に変えてくれただけだ。
ふふ。
なんだ。本当にちゃんとやれてるぞ?
ふふん。馬鹿なことを言うな。我が来てから、この店のクレームはゼロだ!
たまに注文を間違えたところで、我のミスは大抵、客が笑って許してくれるからなぁ……!
「孫娘が頑張ってるみたい」と大評判だ!
ん? ふふん。まあ確かに、貴様には普段、子ども扱いするなと言っているがな。
こういう環境での子ども扱いは、甘んじて受け入れるべきだ。仕事がやりやすくなる。
それくらいの処世術は身に着けているのだ、我はな。ふはは。
それに、我が来てから客が増えた、とマスターも言っていた。皆、美しい我を見に、このカフェに来るのだ。
しっかり売り上げに貢献しているのだぞ?
なー? ちゃんとやっているだろう? 我。
……んー。なあ。
……褒めないのか。
我、貴様に言われた通り、バイト頑張ってるんだぞ!
…………。
……うんうん。素直にそう言えばいいんだ。
……ふへへ♪
もぐ。もぐもぐ。もぐもぐ……。
こく、こく、こく……。
ぷはぁ……♪
ふぅ。うまかった。
…………。
……あー。貴様。
いつまでこの店にいる?
いや。まあ、貴様にじろじろ見られるのは、はなはだ迷惑なんだが……。
あと三十分で、我、バイトが終わりなんだ。
だから……
…………。
……ふふ。そーかそーか♪
一緒に帰りたいだなんて、貴様は可愛いやつだなー♪
うんうん。じゃあ、アイスコーヒーでも飲んで、しばらく待ってるがよい♪
晩御飯の買い物でもして帰ろうなー♪
ふふふ♪