Track 2

メメ子、バイト中

 いらっしゃいませー!  ……なんだ貴様か。  何しに来た?  ……暇つぶし?  性格が悪いな貴様は。  適当に空いてる席に座れ。まったく。  ほれ。水とお絞りだ。  で、注文は。  言っておくが、手間のかかるメニューを選んだら、ものすごい嫌そうな顔をするぞ。そりゃもう、ものすごく嫌そうだぞ。  お勧めはアイスコーヒーだ。  しかし、我のような美少女が接客してやってるのだ。アイスコーヒー一杯で何時間も粘るのは許さん。  えー? ハニートーストは面倒だからやめろ。  ああ。ケーキなんかは、ただ持ってくるだけだから許す。  じゃあアイスコーヒーとケーキでいいな?  うんいいよなオッケー了解ご注文承りました少々お待ちくださいませー。  失礼します。  こちら、お済みのお皿、お下げしますー。  あ。はーい。お会計ですね。少々お待ちくださーい。  えーと。お会計は……ご一緒でよろしいですか?  ……別々で?  えー……。 “我の目を見ろ”。  お会計、ご一緒でよろしいですねー♪  ありがとうございます♪  こちら、お二人で合わせて千円ですねー♪  はい。はい、ちょうどいただきます♪  ありがとうございましたー♪  またどうぞお越しくださいませー♪  ふぅ、待たせたな。  アイスコーヒー二つとケーキ二つだ。  え?  あぁ。もう一つは我の分だ。  なんか、マスターが、他に客がいないから、貴様と話してていいって。  あ、もちろん、我の分はきちんと貴様の伝票につけたから、安心しろ? ふふ。  いただきまーす♪  あーーん……♪  もぐもぐ……♪  んー♪ 舌の上に広がる柔らかな甘み……♪ 最高だな……♪  ケーキを発明したのは、人間の唯一褒めるべき点だ……♪  このケーキ、マスターの手作りらしいのだが……これは抜群にオススメだ。  貴様も食え?  はむ、もぐもぐもぐ……  なー? うまいだろー♪ ふへへへ……♪  ……んー? バイト?  まあまあだ。そこそこ上手くやってる。  簡単な催眠魔法でマスターの認識を変えてるから、今のところ、我の身の上を怪しまれてる雰囲気はない。  そこは安心しろ。  それに、接客もちゃんとやれてる。  貴様はよく分かってるだろうが、我、めっちゃ要領いいからな。それはもう、サクサクよ。今や、このカフェに我の存在は欠かせん。  さっきの客にだって、ちゃんと応対できてただろう?  え? いや、何の話だ? 分からんなー?  さっきの客は、我が目を合わせて真摯に話したら、偶然、二人で一緒の会計に変えてくれただけだ。  ふふ。  なんだ。本当にちゃんとやれてるぞ?  ふふん。馬鹿なことを言うな。我が来てから、この店のクレームはゼロだ!  たまに注文を間違えたところで、我のミスは大抵、客が笑って許してくれるからなぁ……! 「孫娘が頑張ってるみたい」と大評判だ!  ん? ふふん。まあ確かに、貴様には普段、子ども扱いするなと言っているがな。  こういう環境での子ども扱いは、甘んじて受け入れるべきだ。仕事がやりやすくなる。  それくらいの処世術は身に着けているのだ、我はな。ふはは。  それに、我が来てから客が増えた、とマスターも言っていた。皆、美しい我を見に、このカフェに来るのだ。  しっかり売り上げに貢献しているのだぞ?  なー? ちゃんとやっているだろう? 我。  ……んー。なあ。  ……褒めないのか。  我、貴様に言われた通り、バイト頑張ってるんだぞ!  …………。  ……うんうん。素直にそう言えばいいんだ。  ……ふへへ♪  もぐ。もぐもぐ。もぐもぐ……。  こく、こく、こく……。  ぷはぁ……♪  ふぅ。うまかった。  …………。  ……あー。貴様。  いつまでこの店にいる?  いや。まあ、貴様にじろじろ見られるのは、はなはだ迷惑なんだが……。  あと三十分で、我、バイトが終わりなんだ。  だから……  …………。  ……ふふ。そーかそーか♪  一緒に帰りたいだなんて、貴様は可愛いやつだなー♪  うんうん。じゃあ、アイスコーヒーでも飲んで、しばらく待ってるがよい♪  晩御飯の買い物でもして帰ろうなー♪  ふふふ♪