Track 3

3. 一緒にお昼寝、ですか

トラック3 【蜜が現れた翌日の話。 聞き手が朝起きてから、いっしょに昼寝をするまで】 〈通常マイク〉 (♩朝とわかる効果音) おはようございます。  よく眠れましたか?  ふふ。昨日のことは夢ではなかったのか、と言いたげな眼差しですね。  残念ながら夢ではございませんよ。 おや、こんなところに可愛い寝癖が…。 …うん、直りました。 旦那様の、幼子のような一面を見られて嬉しいです。 お顔も昨日より明るくなっておりますし、しっかり眠れた証拠ですかね。  …私? それはそれはぐっすりでしたよ。 久々の温かなお布団、隣には旦那様…とても贅沢な夜半でした。 あっ ええと…勝手ながら、昨夜は旦那様のお隣を拝借しました。 その…どんなに揺すっても、目覚めるどころか、逆にしがみ付いてこられたので… あ、旦那様が想像なさっているような悪戯などは、断じてしておりませんので!ご心配なく…! そ、そうでございますか、そのような想像はしておらぬと… (くすりと笑って) …お互い、緊張がぶり返してきたのですかね。 私も…いざ旦那様と向き合うと、どきどきしてしまいます。 あ、そういえば、まだきちんと朝のご挨拶をしておりませんでしたね。 あぁ、先程のような言葉のみの挨拶ではなく、このように… (左右で一回ずつリップ音) 相手の両頬に、一回ずつ頬をつける…私が生活していた界隈では、これが主流でした。 なので、こうしないとどうもしっくり来なくて。 頬ずりをする理由…? 様々ありますが…ご存知でなければ、後ほど調べてみては如何でしょう? 猫の頬ずりの意図などは、どう解釈なさるか、貴方にお任せ致しますよ。 本日はお休みということですが、外出のご予定は? でしたら、今日は一日、私とゆっくり過ごしませんか?  昨夜貴方が眠っている間に、貴方を癒すおもてなしプランをじっくりみっちり練っていたのです。 貴方の心と体が少しでも癒えるよう、旦那様も何か私にお願い事があれば、何なりとお申し付けくださいね。 さて、まずは朝ご飯ですかね~。  (抑えながらあくびをする) …あ、申し訳ございません。あくびなどと、みっともない姿を…。 あぁ、いえ…よくは眠れたのですが…。  元来夜行性なもので、お恥ずかしながらあまり朝が得意ではないのです。  かっこつけて、貴方より先に起きていようとしたのに…決まりが悪いですね。 …え、お昼寝…? だ、旦那様と…!? な、なんと…そのような幸に溢れた時間に、私などが浸っても良いのでしょうか…! はぁぁ…嬉々たる事案でございます… …え? 私の年齢…ですか。 何故そのようなご質問を? …「言葉遣いが古くさい」…。 うぐ、はっきりと申されますね…。 …何歳だと思います? …ほぉ。では、その歳ということに致しましょう。 年齢など、重ねるごとにどうでもよくなってゆくものです。  ほらほら、お顔を洗ってきてくださいな。 温かい朝食を用意して待っておりますので。  【時間経過、昼下がりの窓際】 (床に寝転がりながら伸びをする) やはり昼下がりは良いですね。流れる雲を眺めながらお日様を浴びて微睡むひと時、まさに至福ですね。  このようにのんびりすること、普段はあまりないのでは?  たまの休日も、何かしら動く理由を作って、その日1日を使ってしまうでしょう。  時にはこうして時間を貪るのも有意義だと思いますよ。  だから旦那様はもっと、肩の荷を下ろして、自由気ままに過ごしてください。 …と言っても貴方のことだから、きっとすぐにはそうできないのでしょうけれど。  そうだ、私が肩の荷が降りるおまじないをかけてあげましょうか。  万能なものですが、誰にでもできる優しいおまじないです。  そして、誰にでも効くおまじない。 (寝転がりながら、手を伸ばす感じで) 旦那様、もっとこちらへおいでくださいませ。  …そう恥ずかしがらず。 もっと、こちらへ。 …お顔が近いですね。貴方の睫毛がちらちらと揺れるのさえしっかり見える。 そうしたら…こうして、私の片手で貴方の手を包み…もう片方の手で、貴方の頭をなでなでします。 そして仕上げに、魔法の言葉を囁くだけ。 よしよし。 いいこいいこ。 これが、肩の荷が降りるおまじない。 こうすれば、次第に貴方の全身から力が抜けていくはずですよ。 よしよし。 よしよし…。   旦那様は倦まずたゆまず執務をこなしていて、とても偉いですね。 嫌なことや辛いこと、少なくないでしょうに。  それでも何かを続けたり…他人へ手を差し伸べられる心を持つのは、当たり前にあることではございません。  貴方はもっと自分を敬い、誇りに思っても良いのですよ。 …あ、今少々嬉しそうな顔をしましたね。 ふふ、可愛らしい。 旦那様をとことん労いたいです。 たくさん撫でて差し上げますね。 なでなで。 なでなで。  …おや、顔を見られるのが恥ずかしいのですか? なら…。 (聞き手を抱きしめる) こうして抱きしめたら、恥ずかしくありませんよね? ぎゅー…。 よしよし。 いいこいいこ…よしよし…。 抱擁には、精神的緊張を緩和する効果があるとは言いますが… 貴方をあやしていたら、私が眠くなってきてしまいました…。 ぎゅー…ふふ。 旦那様と、お昼寝…幸せです。 よしよし。よしよーし…。  おやすみなさい、旦那様…。