Track 3

2-1.『トップオタからDMで秘密の撮影会に誘われた場合』

 ……つ、次の方、どうぞ。  は、はい。今日は、来ていただいて……あ、ありがとう、ございます。  す……すみません。私、握手会なんて、は、初めてだから……緊張、してしまって。  私の、こと、覚えていただいて……。これから、応援していただけたら、嬉しい、です……。  ……は、はい? SNS、ですか?  はい……始めるように、言われたので。始め、ました……。  日常の呟き、できるだけ、しますので……。よければ、見ていただけると、嬉しい、です……。  ……え? メッセージ? ……ですか?  わ、わかりました。後で、拝見します……。  ……あ。そろそろ、時間の、ようです……。  はい。ありがとうございました。ぜひ、また来てください……。  次の方、どうぞ……。 * * *  ……はぁ。ふぅ……  あ。ありがとう、ございます。吉谷さん。  お水、いただき、ます……。  はい。その。すごく……とても。非常に。緊張、しました。  心臓が、口から飛び出てしまいそうでした……。  ……そう、ですね。慣れなければ、いけないとは、分かっているのですけれども。  場数を踏めば、何とかなるのでしょうか……。  ……あ。すみません。スマホ、見させて、もらいます。通知が来ているので……。  …………。  ……SNSのメッセージだ。  さっきの人かな……?  ……あ、はい。さっき、握手会に来てくれた方が……後でメッセージ飛ばすから読んで、と。仰ってましたので……。  ……え。ダイレクトメッセージって……受け取れないように設定したほうがいいんですか?  あ……そ、そうですね。変なメッセージが来ちゃうと、大変ですね……。  わかり、ました。一応、このメッセージだけ確認してから、設定し直します……。  えっと……。  …………。 〝トップオタ〟……?  ……あの。トップオタって、なんだか、分かりますか?  ……へえ。一番のファンのことを、そう言うのですか……。 〝トップ〟の〝オタク〟だから、〝トップオタ〟なんですね。  なんでも……この方、他のアイドルさんの、トップオタだったらしいんですけど……そのアイドルさんが卒業しちゃって。  今、新しく推す人を探しているそうで……  私のことが気に入ったから……推してもいいよ、とのことです。  ……ふふ。確かに、すごい言い回しですね。  ファンになっていただけるのは……嬉しいですけど。  でも……? そのためには条件がある……と。書かれていますね。  トップオタさんの名義で、撮影会を開くから……  そこに、事務所には内緒で来て欲しい……って。  自分の知り合いも、たくさん来させるから……その人たちをまとめてファンにできれば、あっという間にトップアイドルになれるよ……。  ……とのことです。  ……すごい、条件ですね。 〝体に触ったりとかは絶対しないから〟と、書いてありますけど……。  アイドルに対するこういうお願いって、一般的なんでしょうか……?  ……ですよね。さすがに、一部の過激なファンだけ、ですよね……。  …………。  あ。でも、この方……トップオタだった、というのは、本当みたいです。  グッズもCDもいっぱい……。いくらぐらいかけたんでしょう……。  ……え? あ。はい。もちろん、断ります。  いえ……申し訳ないけど、無視のほうがいいのかな?  はい。分かりました。  絶対に、返信しないようにしておきます。  絶対に……。