トラック2
あ、お客様――ふふ♪ そんなに後退りなさらなくてもいいのに。
何も心配することはありませんよ?
ただまったりとくつろぎながら、当店自慢のリフレサービスを受けていってください。
……そんなことよりも、帰りたい?
むぅ……そういうわけには参りませんよ。
わたしはこれでも、自分の施術には自信を持っているんです。
ここに来たお客様を癒やすことなく、お帰りいただくことなんて、わたしのプライドが許しません。
召喚されたばかりで、まだ緊張なさっているのですね。
突然のことでしたから、戸惑うなというほうが無理がありますよね……
それでは、まず、その緊張を解いていきましょうか。
手を貸していただけますか?
ふふっ、捕まえました♪ もう離してあげませんからね。
さあ、こちらに。お隣の部屋に大きなベッドがありますから、そちらで施術をしてまいりましょう。
さあ、どうぞ。お入りください。
ほら、見てください。
大きくて、ふかふかのベッドですよ♪
お客様にゆったりくつろいでいただくために、魔法道具の職人さんに特注してもらったんですから。
よいしょ―っと……。
ふふ、ふかふか♪ 座り心地も申し分ありません。
さっ、お客様も――えいっ♪
膝まくら、です♪
ふふ、いかがですか? 急にあれこれと施術をして、お客様を驚かせてしまってもいけませんからね。
まずは、膝まくらをしながら、カチカチに緊張しているお体をほぐして差し上げます。
なでなで♪ スリスリ♪ っと。
ふふ、本当に緊張してらっしゃるんですね。触れた手のひらから、カチカチに固まっている感覚が伝わってくるようです。
まずは、肩口をなでなで♪
安心してくださいね。マッサージほど、強い刺激はまだ与えませんから。
肩から、背中に向かってゆっくり、手を滑らせていきますよ♪
なでなで……♪ スリスリ……♪
それから、腰も……スリスリ♪ さすさす……♪
太ももも♪ さすさす……スリスリ……♪
体中をくまなく撫でていきますからね。
お体が柔らかくなりますように……なでなで♪ ふふ、緊張を解く、おまじないのようなものです。
……あっ。今、体がピクンって、なりましたね?
くすぐったかったですか?
それとも、敏感なところに触ってしまいましたか?
すみません、笑ったりなんてして。でも、嬉しくて♪ それでつい。
あんなにカチカチになっていたお客様の体が、くすぐったいって反応してくださったんですから……ね?
もっともっと、柔らかくほぐしていって、極上のひとときを味わってほしいなと思います。
ええ、はい。とても、やり甲斐のあるお客様です。ふふ♪
それにしても……本当に、お疲れだったのですね。
わたしもいっぱしに、癒やしリフレを生業としている者ですから、こうして全身を触らせていただければ、お体からちゃんと伝わってきますよ。
きっとこの人は、こんなになるまで体を酷使して、毎日をがんばっていらっしゃる方なんだなぁって。
頭に 頭に触れても構いませんか?
……構わない?
ふふ、ありがとうございます♪ では、失礼しますね。
なでなで♪
……毎日、がんばるあなたは、とっても偉いですよ。
よしよし♪ なでなで♪ えらいえらい♪
……特別、褒められるような心当たりがない、ですか?
ふふ、そういうところ、ですよ♪
謙虚って、言うのでしょうか?
特別なことは何もしてないんだ……って、ご自分のことを、そんな風にさらりと考えてしまう人って、わたしはとっても素敵だと思いますよ♪
お仕事でもお勉強でも――もちろん、お客様の普段の生活を詳しく知っているわけではありません。
でも、異世界からここに召喚されてしまうくらいなんですよ?
それは、わたしたちの基準では、とんでもないことなんですから……くたびれてしまった魂は、魔の眷属に悪用されてしまうことだってあるくらいなんですよ?
だからですよ♪
こんな風になるまでストレスを溜め込んでしまったり、くたくたに疲れてしまっても……それでも、投げ出さずに、日々をがんばれるあなた様は、とても素敵な人ですよ。
よしよし♪ えらい、えらい ❤ なでなで ❤
……あ♪
ふふ、いいですね♪
はい、いい感じです。ちょうど良い具合に、体から力が抜けてきたみたいです。
お話をすることで、わたしとお客様の心の距離が、少し縮まったのでしょうか?
お客様から、信頼してもらえるというのは、わたしとしても、とても嬉しいことなんですよ♪
ふふ、上手く緊張がほぐれたみたいでよかったです。
でも、ご褒美の時間はまだまだこれからですよ。
今日はたっぷり、思う存分、疲れた体と心を癒やしていってくださいね♪