今日から貴方も、マスターの家族です
【ニィナ】あ、目が覚めたみたいですよ
【ルル】…ん。
ここ、どこ?
【ニィナ】ここはマスターのお家です。
昨日、森の中で倒れていたあなたを、このお方が見つけて来てくれたんですよちなみに、どうして倒れていたのかは、この子から訊いていないんですか?
【ニィナ】…なるほど。
こうして話すのも、これが初めてとでは、事情を訊いてみる必要がありそうですね。
この子の家族も心配しているでしょうし…
【ルル】…家族
【ニィナ】さ、マスター。
色々訊いてあげてくださいうーん、だんまりですねえっと、お話は…できますか?
【ルル】…できる
【ニィナ】なら、答えたくない…とか
【ルル】そうじゃない
【ニィナ】…んー。
私とは話せていますし…。
このお方とお話しできない理由とかは…
【ルル】ある。
だって、人間だからけど、貴方は違う。
…すんすん、この匂い…私と近い。
人間じゃ、ない
【ニィナ】それは…はい。
私はケットシー族ですから。
確かに、マスターと同じ種族じゃありませんでも…このお方はとっても優しくて、私の大切な人なんですよ。
種族なんて、関係ないんです。
ですよね、マスター
【ニィナ】ふふ、ありがとうございます…それにしても、困りましたねクーシー族って、本来は人懐っこい種族のはずなんですけど…この子は、違うようで…。
少し、震えているみたいです…とりあえず、私の方から話を訊いてみますね…えっと。
昨日、倒れていた事もそうなんですが。
あなたのこと、色々教えてくれますか?
話しづらかったら、耳元でこしょこしょってする感じでも…
【ルル】…耳元、こしょこしょ…
【ルル】分かった。
そっちで…こしょこしょする…こしょこしょ、こしょ…こしょ
【ニィナ】あ、ほんとにこしょこしょ言わなくて良いですからね?
【ルル】…うん。
普通に、話す
【ニィナ】はい、お願いします……はい。
……はいそんなことが……
【ニィナ】大体分かりました、もう大丈夫です辛いことなのに、話してくれて…本当にありがとうございます
【ルル】…辛い?
別に、そんなことない
【ニィナ】それは…いえ。
とっても、辛いことなんですよ
【ルル】そう…なの?
【ルル】当たり前のことだから、良く…分からないでも、この床は好き
【ニィナ】…床。
ああ、お布団のことですね。
そこに座ってて良いですよ
【ルル】うん、座る
【ニィナ】……マスター。
この子の両親は、奴隷…みたいです…お互いがお屋敷で召使として暮らしていて…それで出会ってから。
でも、この子のことは、産まれた時から周りに隠していたようです毎日、使われていない部屋や、ひどい時は物置の中に閉じ込めて……ひどい話だと、思いますか?
ただ、この子にとっては、それが当たり前で…普通、だったんでしょうねだから、自分のことも良く分からなくて…。
ある日、部屋の外に出てしまったんですそして、他の使用人に見つかって…。
当然、このことは主の耳に…それで、昨日…ぐすっ、この子は……っはい…、すみません…っ。
…うぅ、この子のことを思うと…どうしても…ぐすっ、うぅ…はぁ…はぁ…
【ニィナ】もう、大丈夫です。
…マスター。
この子のこと、ですけど………ぁ、マスター…ふふ、そうですよね。
必ずそう言うと思っていました大好きですっ、マスター
【ニィナ】んぅ…。
すりすりぃ…
【ルル】…どういう、こと?
【ニィナ】これから貴方は、マスターのお家で暮らすんですよ。
家族の一員、仲間です
【ルル】…家族。
仲間?
【ニィナ】今は、分からなくても仕方ありません。
とにかく、ここが貴方の居場所というわけです
【ルル】…居場所
【ニィナ】そうですよ。
簡単に言うと、ここにずっといても良いってことです
【ルル】じゃあ…戻らなくても、良い?
【ニィナ】もちろんです。
……この子は、帰るって、言わないんですね…これからは、ここが貴方のお家ですから。
どこかに出かけても、ちゃんと帰って来るんですよ
【ルル】…でも。
ここで暮らすのは、人間と… 一緒で…
【ニィナ】はい。
でも、マスターはとっても良い人です。
優しくて、頼りがいがあって…貴方のことを、絶対に助けてくれます…そうですね、試しに、私がしたみたいに、マスターの腕に抱き着いてみるのはどうでしょう
【ルル】…それは、怖い
【ニィナ】…そうですか。
マスターと触れ合うのは良い考えだと思ったんですけど……え、ああ、そうでしたね。
そろそろ良い頃かと…マスターは、ここにいてください。
私が取ってきますので…
【ルル】…何、持って来るの?
【ニィナ】それは…お楽しみ、ですよ。
ふふでは、少し待っていてくださいね
【ニィナ】はい、お待たせしました
【ルル】…ん?
すんすん、すん…良い…匂い。
何か、分からないけど。
もっと…嗅いでたい
【ニィナ】嗅いでるだけだと、お腹は膨れませんよ?
【ルル】お腹…?
あ…そういえば、昨日から…何も食べてない
【ニィナ】これは食べ物ですから…。
シチューっていうんです
【ルル】…食べて、良いの?
【ニィナ】今準備しますから、こっちに来てください
【ルル】…うん。
お腹、すいた
【ニィナ】…はい、どうぞ。
あ、熱いのでふーふーってしてくださいね?
【ルル】…熱い、の?
手じゃ、食べれない?
【ニィナ】このスプーンを使うんですよ。
こうやって握って…難しい、ですか?
だったら…そうですね。
マスター、この子にあーんってしてあげて下さい大丈夫ですよ、食べ物があれば仲良くなれますあぁ、無理にスプーンを使わなくても良いですよ、こぼしちゃいますから…
【ルル】でも、食べれない…
【ニィナ】そこは、マスターが食べさせてくれますので。
ですよね、マスター
【ニィナ】はい、というわけで、後は任せましたよ。
この子を助けたのはマスターなんですから私だけじゃなくて、ちゃんと触れ合って、仲良くならないと…きっと、この子に必要なのは、マスターだと思うので…さ、あーんですよ。
あーん。
その前に、ふーふーってするのも忘れずに
【ルル】…えっと。
食べさせて、くれるの?
【ルル】そう。
口…あーんって、開ければ良いんだ…ん、あーん。
…はむ、ん…っ、んむ、もぐもぐ…ごくんもっと、ほしい。
あーんぱくっ、もぐもぐ…もぐ
【ニィナ】喉に詰まっちゃうので、良く噛んで食べましょうね
【ルル】ん、ごくん。
…シチュー、好きあーんも、好き。
もっと、ちょうだいん…あー、ぱくっ。
もぐもぐ…ん、ごくん。
…はぁ
【ニィナ】美味しいですか?
【ルル】美味…しい?
【ニィナ】もっと食べたいって思うことですよ
【ルル】…うん。
シチュー、美味しいあーん。
ぱくっ、もぐもぐ…もぐ…ごくん。
美味しい
【ニィナ】ふふ、この子を見ていると…あの頃を思い出しちゃいますねえ、マスター…私と初めて出会った時のこと、憶えていますか?
お腹を空かせている私に、マスターがあったかいシチューを作ってくれて…それを食べた時の私、泣いちゃったんですよね…きっと、同じくらいの感動を、この子は……あれ、ちょっと待ってください?
…そうですっ、私、あーんなんてしてもらったことありません…!…マス、ター?
その…もし宜しければ、私にも…あ、あーんしてほしいです、なんて…え、良いんですか?
で、では、ぜひお願いしますっ…ん、あ…あーん。
…はむっ、もぐ…もぐ、んく……あぁ、とっても美味しいですぅ自分で食べるよりも、頬が蕩けるような…あ、またしてくれるんですか?
じゃあ…お言葉に、甘えてん…あーん。
はむっ、んむ…もぐもぐ、もぐ…ごくんあぁ…ありがとうございます、マスター私に、あーんしてくれる日が来るなんて…っ
【ルル】…あの
【ニィナ】ん、どうしました?
【ルル】私、食べさせてもらってばかり…だから。
この人間に、お返し
【ニィナ】え、スプーンは…
【ルル】使い方、もう覚えた。
簡単。
…あーん、でしょ
【ニィナ】あわわ…ま、マスターにあーんを。
というか、これって…うぅぅマスター、私のもどうぞ。
さっきのお礼です。
受け取って…くださいね?
はい、あーん
【ルル】…こっちも。
あーん
【ニィナ】…あ、あーん
【ルル】あーん
【ニィナ】な、なら私も…っ。
……え?
あぁ、そうですね。
こんなにしてたら、私たちの分、なくなっちゃいますよねほんとは、もうちょっとしていたい気もしますけど、あーん。
は、これでお終いです
【ルル】お終い…なの?
【ニィナ】まだお腹いっぱいじゃないですよね?
だったら、もっとたくさん食べてください。
このシチューは貴方のですから
【ルル】…うん。
食べる
【ルル】…はむ、はむ…もぐもぐ
【ルル】……ふぅ。
お腹、いっぱい
【ニィナ】ふふ。
ごちそうさまでした。
食べ終わった時は、そう言うんですよ
【ルル】ごちそう、さまでした
【ニィナ】はい、良く言えましたね…ところで、今ならできるんじゃないですか?
【ルル】…何が?
【ニィナ】さっきの続き、ですよ
【ニィナ】こうやって、マスターの腕に…んっ、ぎゅうぅぅどうですか?
怖くはないはずですよ
【ルル】…うん。
人間と、仲良く…。
やってみる
【ルル】この…おっきな腕に…ん、ぎゅー………ぁ。
あった、かい……思い、出した。
この人が、昨日…。
おんぶ、してくれた雨の中、だったのに。
不思議身体…ほっとする。
…ん
【ルル】良い、人…
【ニィナ】ふふ。
これはもう、決まりですね…どうでしょう?
私たちの、家族になりますか?
【ルル】家族…あったかくて、安心できる。
…うん、なるこれから、よろしく。
ケットシー。
そして、人間、も。
【ニィナ】はい。
では改めて…これからは、私のこと、ニィナって呼んでね
【ルル】ニィナ…。
話し方…変わった?
【ニィナ】あなたとは、もう家族だから。
【ルル】でも、人間には…違う
【ニィナ】それは…マスターは。
より特別と言うか、尊敬するようなすごいお方なので。
け、敬意を持っているの
【ルル】どういう…意味?
【ニィナ】と、とにかく、すごく思ってるっていう意味
【ルル】おー。
すごい
【ニィナ】そう、すごいんだよ。
だから、ただの人間じゃないの呼び方は…どうしましょう、マスター
【ルル】…えっと、好きなようにって、言われても。
困る
【ニィナ】まあ、それはこれから見つけていこ?
あとは他に…あ、お風呂の準備もしているんですか?
【ルル】…お風呂?
それ、何。
人間
【ルル】そう、なの。
こうやって、ぎゅってするよりあったかいのは…気になる
【ニィナ】ふふ、じゃあ一緒に入ろっか
【ルル】うん、入る
【ニィナ】…ということで、マスター。
この子のこと、お風呂に連れていきますねん?
どうしたんですか、急にニヤニヤしてもしかして、何か変なことを…
【ルル】ん、どうしたの、ニィナ
【ニィナ】…ふふ、なーんて。
冗談ですこれから、もっと楽しくなりますね。
マスター