Track 3

海中の歌姫

……良かった。 来てくれたのですねはい、この様子では、長くは持たないと思います大きな波に呑まれ、この船はもうすぐ海の中へ沈んでしまうかと…でも、大丈夫です。 貴方様だけは、私がこの身をもってお守りいたしますさぁ、側に来てください。 もう時間がありません…はい。 それでは、私の手をしっかりと握って、目を閉じてください…何があっても、この手だけは、離さないで下さいね……っ、大丈夫…落ち着いてください貴方様のことは、私が必ずお守りします…嵐の音よりも、私の声に耳を傾けて…呼吸も、いつも通り…自然に、して下さいね…そうですこの声と、手の温もりは…貴方様の側から、決して離れませんたとえ目を閉じて、何も見えない真っ暗なところでも…私は、貴方様の側にいます…ずっと。 いつまでも、寄り添っていますからね………私と一緒に、下の世界へ………ん、ちゅっ…大丈夫です、もう目を開けても大丈夫ですよそう、ここは海の中でも、こうして話したり…息を吸ったり。 いつも通りに過ごすことができます。 …私、ずっと貴方様の手を握ったままでしたね。 もちろん、この手を離しても、溺れる心配はありません。 安心して下さい貴方様も、この広い海で泳ぐお魚さん達のように、自由に泳ぐことができるんです…ふふっ、それにしても、海の中は良いですね。 さっきまで、ずっと狭い樽の中に入っていましたから…泳ぎ回ることができなくて、ずっと…ウズウズしていたんですでも、今はこの通り。 私の方から、貴方の様の近くに寄り添う事もできますよ。 ふふっ…そういえば、この尾ひれや…素肌を見せるのは、初めて…でしたよね樽の中だと…肩より下のところは見えていなくて。 今は、お腹も…なんだか…恥ずかしいです綺麗…本当、ですか? いえ、…ふふ、ありがとうございますこのような姿、人とは違うので。 受け入れてもらえるのか不安でしたけど…綺麗…と言っていただけて。 とっても、嬉しいです恥ずかしさも、忘れてしまうくらいに。 むしろ、もっと見てほしいようにも、感じて…あ……いえ。 貴方様のお顔を見つめていると…先ほどの、行為を思い出してしまって…つまり、その……キス、です…これは、その、人がこうして海中で過ごすためには必要なことで…決して、別の意味があるとかでは、ないんです……よ? …ですから、別の意味というのは……うぅもう! …また、恥ずかしくなってきたじゃないですか。 貴方様の…せいですよ? ふふっ、そのように本気にしないで下さい。 冗談です…さ、せっかくですし、一緒に泳ぎましょうか私の後に、ついてきてくださいね? I pray 貴方の名を呼んでこの手を重ね永久(とわ)に広がる水平線の下この胸で抱きしめたいYour eyes 他には何もいらないそばにいられれば貴方の笑顔いつまでもずっと隣で見ていたい…思わず、歌ってしまいました。 …久しぶりの海が、とても気持ち良くてほら、見てください。 月の光が、きらきらと射し込んで…夜の海なのに、とっても綺麗ですね…ふふ、貴方様も、そう思いますか? 海って、とっても心地良いんですよ朝と夜では、見える景色も全然違いますし…地上と違って、上でも下でも、自由に動き回れるんです初めて海を泳いでみて…どう感じましたか? 気に入っていただけたのなら、嬉しいんですけど…そうですか…! それは、良かったです。 では、このまま海のお散歩など、いかがでしょうか? 私は、脚ではなくて、尾ひれですけど…ふふっ……そういえば、どこに行くのかは…まだ決めていませんでしたね港までまだ距離がありますし…そうだ、近くに無人島があるんです一先ず、そこを目指して泳いでみるのはいかがでしょう? では、決まりですねでは、さっそく一緒に…そ、その前に、また…あ、あれをしないと…い、いえ…近いとはいっても、無人島までにはまだ距離があります…で、ですから貴方様を、私と同じように、海でも過ごせるようにするためには……キス、をしないと…あの時は、船が沈みそうでしたし、意識して、いませんでした…今は、静かな海の中で…。 …少し、恥ずかしい、です…私、キス…なんて。 初めて…でしたから貴方様も…ですか? そう、だったんですね…その、初めて同士で…。 嬉しいと、思ってしまいました……特別な意味なんて、ないと思っていたのに…。 不思議、ですねじゃあ…えっと。 こちらを…私の方を、向いて下さい…私から正面に行くのは、は、恥ずかしいので…貴方様の方から、お願い致します…私と…二回目のキス、致しましょう…? ……ぁ、近い…ですねでも、これから、もっと近くならないと…んっ……あの。 目を…瞑っていただけませんか? …ありがとうございます。 少し、緊張してるみたいで……それ、では………ん、ちゅ…、…ちゅっ…ぁ、いえ…これは、二回した方が…効果が、長く続くかと思ったので…私が、したかった、では、そういう事ではありませんからね…? え? 頬にするのは、その、効果がないと言いますか……をしないと。 ……うぅわ、私の体液を貴方様の体内に取り込まないと、効果が得られないんです! と、とにかく、目的は済みましたので、無人島に向かいましょう…このことは…誰にも話しては、いけませんからね…ん、ちゅっ。 このことは、二人だけの…秘密、ですよ。 ふふ