Track 3

期待するベッドの中

3  五日目 「期待するベッドの中」  風呂上りに部屋でのんびりしていると、扉が鳴った。 【兄】 「はい」  …… 【兄】 「どーぞ?」  ……  返事はない。  扉を開けにいく。  がちゃ 【優衣】 「ばあ」 【兄】 「……なにしてんの」 【優衣】 「ちょっと通らせていただきますよー」 【兄】 「ホントなにしてんの?」  脇を抜けて部屋に入り込んだ優衣はベッドの上に座った。 【優衣】 「んふふー、もう夜だもーん。私は甘えモードですっ」  なにか言ってる。 【優衣】 「ほら、兄さん? 一緒に寝ましょ?」 【優衣】 「今日はちゃんと」  持っている枕をぼふぼふと叩く。 【優衣】 「枕も持参してきたし。準備万端ばんたんっ」 【兄】 「一人で寝なさい、我が儘小娘が」 【優衣】 「えー、別にいいでしょー? 前から数えてもう三日も経ったのよ?  そろそろ兄さんの匂いが恋しくなってきたわー」 【兄】 「匂いて……」 【優衣】 「……はあ、仕方ないわね」  手招きをする。 【優衣】 「私の前に立って」 【兄】 「はあ」  深く考えずに従う。 【兄】 「きたぞ」 【優衣】 「ん」  枕を脇に置き、優衣が立ち上がる。 【優衣】 「抱き付いて」  ひしっ 【優衣】 「引き倒すっ」  ぐいいっ  なすがままにベッドに倒れ掛かる。 【優衣】 「きゃー、兄さんに押し倒されたーっ」 【兄】 「引き倒されたんだ!」 【優衣】 「どっちでもいいわ」 【優衣】 「ほら、寝ましょ寝ましょ。電気も消して……」  自分の部屋のように慣れた様子で電気を消す。  リモコンの定位置もばっちり把握してるようだ。 【優衣】 「御就寝、っと」 【優衣】 「それじゃ、おやすみなさーい」  そのまま持参の枕を頭にこてりと寝てしまう。  寝地蔵め。 【兄】 「……勝手にしろ」  投げやりに言いながらも、声色は悪くない。  意外と嫌いじゃなかったりするこのうんざりするような展開。  自分が努力せずに手に入る幸福は心地いいものだ。  穏やかな気持ちのまま、布団へ潜る。  すると、隣でもぞもぞと動いて腕を抱きしめてきた。  そのまま腕を伝って手を握ってくる。  優衣は何も言ってこない。  まるでこうするのが当然かのような動き。  以前まではこんなことは有り得なかった。  ベッドの中でのみ、俺たちの仲は変化していた。  それを悪いようには思わなかった。  なにしろ嬉しい気持ちが強いからだ。  だが、良いようにも思わない。  俺たちの心が近づいてきたキッカケがキッカケだからだ。  あんなことはしてはならない。  けど、忘れられない甘美な心地。  悪魔に取りつかれたように背徳を追い求めてしまう。 【兄】 「……」  今日は特に何も起こりそうにない。  今までなら、いつの間にか肥大化したモノを優衣に押し付けてバレ  るという構図だった。  大丈夫だ、過度な接触はしていないし、妙な雰囲気も出来あがって  いない。  こういう日もある。  いや、そもそもこれが普通なのだ。  今までが異常だったわけで。  自慰行為を鑑賞してもらうなんて、なかなかに馬鹿げている。  そうだ、これが普通だ。  何も起こらない。  なんのアクションも起こさない限り、今日も―― 【優衣】 「兄さん」 【優衣】 「今日は、しなくても……いいの?」 【兄】 「……」  なんてこった。 【兄】 「な、なんのことだ?」 【優衣】 「なんのことって……だから」 【優衣】 「性欲の、処理」 【兄】 「きょ、今日は大丈夫だ」 【優衣】 「平気なの? 本当に? 無理してないわよね?」 【兄】 「ほんとほんと。へーきへーき」 【優衣】 「……嘘っぽい」 【優衣】 「確かめてみるわ。――えい」  股間部に突然伝わる鈍痛のような感覚。 【兄】 「あ……」 【優衣】 「普通に、勃起してるんだけど……?」 【兄】 「あ、あれー? おっかしいなあ、全然興奮はしてないんだけどなあ?」 【優衣】 「興奮はしてないの? じゃあ、なに? 兄さんは惰性でペニスを勃  起させるの?」  惰性で勃起ってなんだ。 【優衣】 「それとも……」 【優衣】 「期待、しちゃってた?」 【兄】 「え」  “期待”――  なるほど、そうか。  俺は期待していたのだ。  身体的接触も甘美な雰囲気もない状況下で安心していたのではない。  期待に膨らませていたのだ。 【優衣】 「あ」 【優衣】 「……くすくすっ、こっちで返事してきた。……ふうん、そう。  期待しちゃってたの」 【優衣】 「私から許可をもらえるのを、待ってたのねー?」  楽しそうに笑う。 【優衣】 「いいわよ。ほら……兄さん」 【優衣】 「いつもみたいに……してみせて?」 ◆3.1 「お手伝い」 【優衣】 「あ……♪ 出てきた……」  喉を鳴らして喜んだ声を出す。 【優衣】 「ほら、はやくー。扱きたいように、おちんちん扱いてみせて?」  優衣の許可も出ている。  これ以上の我慢はできないと自己主張する逸物に手を伸ばす。  いつものように手を動かし、いつもとは違う状況下を味わう。  肩に頭を預ける優衣は、その様子を見てまた一つ溜息のような声を  吐いた。 【兄】 「見てて楽しいか?」 【優衣】 「え……? あぁ……(ぅぅんと)……見てて楽しいかって言われる  と……微妙ね」 【優衣】 「楽しいとかじゃないの。なんていうんだろ……癒し、とは違うし…  …」 【優衣】 「あはは、よくわからない」 【兄】 「なんだそりゃ」 【優衣】 「わからないけど……どうしてか、じっと見ちゃうの。兄さんの本能  のままに動く手のうごき……」 【優衣】 「心の底から湧き出るような快感を、必死に表に出さまいとする顔」 【優衣】 「それでも、ちょっとだけ漏れてしまう声」 【優衣】 「全部兄さんで、……兄さんなのに、私の知らない兄さんで」 【優衣】 「ずっと……ずっと……」 【優衣】 「手を……」  そう言って、じっと股座のほうを見つめる。  優衣の熱視線を受けて、手の動きにも一層力が入る。  段々と逸物が痺れてきた。  これが最大限まで高まると、精をぶちまけることになる。 【優衣】 「……ねぇ」 【優衣】 「触っても……いい?」 【兄】 「は、……は?」 【優衣】 「……だめ?」 【兄】 「そりゃ……」  触って欲しい。 【兄】 「……駄目に決まって……」  優衣の手に触れられたい。 【優衣】 「……じゃあ、兄さんの手の上から。上下に動かす、兄さんの手に合  わせるだけ……それなら、いい?」 【兄】 「……それなら、まあ」 【優衣】 「ん」  曖昧な返事に相槌を打って、手を伸ばしてくる。  少しひんやりとした手のひら。  陰茎に触れないように、俺の手の一段上に添えるように握ってくる。  優衣に軽く力を加えられて、動きを再開した。 【優衣】 「結構……力が入ってるのね。そんなに圧迫して、痛くないの?」 【兄】 「痛いってことは……まあ、ない」 【兄】 「こうしないと、暴れて手から離れるから」 【優衣】 「あ、なるほどね。……確かに、兄さんの……ひどく暴れて……。  びくつくの、私の手にも伝わってくる……」 【優衣】 「そうやって押さえてないと、逃げちゃうんだ」 【優衣】 「……くすくすっ。素直じゃない兄さんと違って、素直な子なのね。  だから、兄さんとは反りが合わない。思うように留まってくれない」 【優衣】 「……しょうがないよねー、気持ちいいんだもんねー。おちんちんし  こしこーってされたら、びくびくするの我慢できないもんねー」 【優衣】 「……あれだ、君もご主人様には困ってるんじゃないかな。……うん  うん、私も君のご主人様には困ってるんだ」 【優衣】 「見え見えの態度を取るくせに、絶対に口では認めないのよ?  そうやって、本心を語らずに本心を察してもらおうとしてるの」 【優衣】 「ねー。せこくて生意気よねー」 【兄】 「……こら」 【優衣】 「いまは、君が代わりに兄さんの意思表示をしてくれてるのかしら?」 【優衣】 「……いい子ね。兄さんと違って」  優衣の手が上方にずれる。 【兄】 「ちょ」 【優衣】 「……いいから」  熱っぽい息を吐きながら制される。  先走りに塗れる亀頭を未知のものに包まれる。  少し冷たいそれは粘り気を持つ我慢汁を絡めながら亀頭を滑る。  俺の手の上方にずれた形で、手の動きに合わせて上下する。  自分で扱いているのに、他人に扱いてもらっている感覚。  その微妙な体験も、優衣の一言で終わりを迎える。 【優衣】 「手、どけて……?」  断れなかった。  返事もせずに、逸物を握っている手を離す。  そのまま何も掴むことはなく、ベッドに落とす。  ペニスを握っているのは優衣の手。  自分ではない誰かに握ってもらっている感覚。  それが妹というだけで体が戦慄してしまう。  優衣は何の合図もなしに手を動かし始めた。 【兄】 「あっ……!」  声を上げて体を跳ねさせる俺を見て何も言わない。  ただ、ちらりとこちらの表情を見て、薄く笑う。  作り飾りのない無邪気な笑顔。  中々お目に掛かれない優衣の心からの笑みが、兄の陰茎を扱く際に  生まれた。 【優衣】 「……こんな感じ?」  酔ったような表情。  雰囲気に酔わされた俺もまた、勝手に言葉を返す。 【兄】 「もっと強っ、く……」 【優衣】 「うん、わかった」  はにかみながら答えた。  淫靡に見える優衣の表情。  呼吸のたびに胸が持ち上げられ、柔らかな感触が腕に押し付けられ  る。  優衣のすべてが魅力的で、もう我慢などできなかった。 【優衣】 「気持ちぃ……? にいさ……」 【兄】 「あ、ぁっ! ごめ――っ」 【優衣】 「え――」  ぴゅっ! ぴゅっ、ぴゅぅーっ! ぴゅる、ぴゅくっ。 【優衣】 「あっ」  優衣の感触を味わいながら射精する。  華奢で繊細な指に包まれながらの射精は至高だった。  射精が始まっても気の抜けたようすで上下する手の動きが拙さを演  出して、精液を余計に吐き出させる。  無垢で幼さを感じさせる手。  そんな手で射精を促されて、お返しとばかりに欲望に塗れた汁で穢  す。  その行為が堪らなく快感だった。 【優衣】 「兄さん、早すぎ……」  射精の余韻を味わうために、また羞恥心から返事を拒んだ。 【優衣】 「そんなに気持ちよかったの?」 【優衣】 「私の手が?」 【優衣】 「妹の……手が?」  答えに窮する。  もしそうだと答えた場合、軽蔑はされないだろうか。  いや、もしされなくとも俺の自尊心は汚される。  ……いや、もうとうの昔に俺の自尊心などないようなものか。  それでもやはり、兄は兄として毅然と振舞わねばならない。 【兄】 「……そろそろイきそうだったから」  俺の返答に、優衣は笑う。 【優衣】 「……くすっ。素直に答えられないのは兄さんらしい」 【優衣】 「チンポはこんなに素直なのにねぇ……どうしてだろうねぇ」  そういって精液を揉み込む。 【兄】 「ぅ、うっ……!」 【優衣】 「うん? どうしたの? まだ気持ちー?」 【兄】 「ちがっ……イッたばかりで敏感なの!」 【優衣】 「へぇ……。射精した直後って敏感なんだ……ふうん」  そう答えながらも手を止めることはしない。  精液みどろなのも厭わず、丹精な動作でこねる。  上下には動かさず、未だに反応するペニスと精液の粘度を楽しんで  いるかのようだ。  指一本一本が蜘蛛の足のように動く。  時々、ぶちゅっと音を立てて握ってくるのが堪らなく気持ちいい。 【優衣】 「出したのに、まだビンビン……」 【優衣】 「……もしかして、まだ出るの?」  手首のスナップを利かせる。 【兄】 「ぅあ……!」  途端に始まった丹念な動きに声が出た。 【優衣】 「あ、兄さんの声……。甘えた、可愛い声……」 【優衣】 「いつもと違う兄さんだ……。ってことは、裏表のないホントの声…  …気持ちいいっていう兄さんの意思表示……」  スリスリと胸に頬擦りをしてくる。  甘えるような態度に反して、優衣は熱心に逸物を扱きあげる。  甘えられることの幸福感と妹にシゴいてもらうことの背徳感。  それらが混ざり合い、今までに感じたことのない圧倒的な快感が全  身を駆け巡る。 【優衣】 「……ん、わかった。……もう一回……出させてあげる。  私が……兄さんの性欲の処理を……行ってあげる」 【優衣】 「兄さんは何もしなくていいから……全部、私に任せて?」  俺を虜にさせる優衣の言葉。  もう駄目だ、逆らえない。  だらしなく腰を突きだして続きを要求することしかできない。  それに応えるようにして、優衣は指を窄めて搾り上げる。  簡単な要領ならすでに心得ているようだ。  それでも少々探り探りな感じが否めない。  足りないピースを見つけようとしている。  幹のほうを重点的に扱いていた優衣の手が、カリ首を持ち上げる。 【優衣】 「あ、跳ねた……」  目を見開いて声を上げた。  そのまま顔を上げて、こちらを見遣ってニコリと笑う。 【優衣】 「ふふっ……兄さんの弱いトコ、みつけた」  ぞくぞくする視線。  優衣がずっと探していたのは、俺の弱い箇所だったようだ。  嬉しそうな表情は、やっと現れた獲物を前にしてのものか。  それとも、素直な反応を示したことに対してのものか。  手が動く。  可動域は明らかに変わっていた。  すでに狙い目はカリ首へと移行している。  指で作った輪が執拗に肉棒の窪みを責めたてる。  上がりそうになる声を必死に堪えて、腰を跳ねさせる。  その度に優衣は嬉しそうに笑った。  小さな笑い声がまた俺のモノを大きくさせる。 【優衣】 「……気持ちー? ねぇ……にーさん? 気持ちー?  私……ちゃんと兄さんのこと、気持ちよくできてる……?」  どうしてわざわざ訊くんだろう。  一度射精したし、腰もこんなに跳ねさせてる。  充分に俺を満足させていることは、こいつにもわかってるはずだ。  どうせ口で言わせたいだけなんだろう。  きっとそうだ。  ……だから、そんな不安そうな顔をしないでくれ。  安心させたくなるだろう。 【兄】 「っ……あ、あぁ」 【兄】 「普通に気持ち、い……っ」 【優衣】 「……そう」  素っ気なく答えた。 【優衣】 「そっか……」  俺の言葉を噛みしめるように時間をかけて、もう一度言った。  顔を俺の胸に埋め、表情を隠す。  胸に吐息を掛けながら、ぽつりと呟く。 【優衣】 「……よかった」  心からの安堵。  どんなに体が素直に反応したとしても、優衣は心からは信じていな  かったんだ。  身体の反応は所詮脊髄反射とか思ってるのかもしれない。  だからこそ、本心は口から聞くしかないと思ったんだろう。  今度、訂正しておかなきゃならないな。  こういうことに関しては、体の反応と気持ちは同調していると。 【優衣】 「……」  確信を得て自信を持ったのか、手の動きに大胆さが加わった。  最初よりも力強く握ってきているし、搾り方にも強弱をつけてきて  いる。  明らかにイかせようとしている。 【優衣】 「こうすると…………イく?」  やっぱり。  返事はせずに、好きになようにさせてみる。  どのようにせよ、長くはもたないだろう。 【優衣】 「兄さんの弱いトコ……ぐちゅぐちゅって搾ったら……もう我慢でき  ない? しゃせーする?」 【優衣】 「ぁっ……すご……。手の中でビクビク暴れてる……。  しゃせーしたい、しゃせーしたいーって言ってる……」 【優衣】 「くす、相変わらず兄さんのおちんぽは……素直ないい子」 【優衣】 「そんなに甘えられたら、応えたくなっちゃう」  水音を部屋中に響かせてイかせにかかる。  俺が普段そうして射精まで導いているからだろう、優衣は迷いなく  執拗に逸物をシゴく。  堰を切って奥から精液が昇ってくるのを感じた。  いくら堪えても、もうどうしようもない。 【優衣】 「ほら、っ……我慢しないでっ」 【優衣】 「私の手の中に……妹の手の中で、またしゃせーしましょ?  濃厚なせーえき……たくさん出して……?」 【優衣】 「おちんちん、ぴゅっぴゅって……して……っ」  ビュッ、びゅるるっ! ビューッ!! びゅっ、ビュルッビュッ!  優衣のキツい手の動きに合わせて射精する。  先ほどとは違い、優衣も射精の脈動に合わせて手を動かしてくれる。  不意の射精もそれはそれで気持ちよかったが、優衣に射精を促され  ながら達するのは格別だった。  逸物の芯から根こそぎ精を奪われていく初めての感覚に酔いしれる  こと数秒。  ビクビクと余韻に浸るペニスに合わせてぐちゅぐちゅと精液に塗れ  た手でシゴいてくれる優衣が、ゆっくりと手を止めた。 【優衣】 「たくさん出たわねー……? にぃさーん?」 【優衣】 「くすっ、気持ちよかったの?」 【兄】 「あぁ……サイコーだった」 【優衣】 「わ、おだてようとしてる。私をいい気にさせて、またしてもらおう  って魂胆?」 【兄】 「いやっ! そんなんじゃ」 【優衣】 「ふふっ、冗談よ、冗談。  兄さんの本心だって、ちゃーんとわかってる」 【優衣】 「私の手を、こーんなに汚すくらい遠慮なしに吐き出したんだもの。  気持ちよくならないと、こうはならないんでしょ?」 【兄】 「それは……まあ」 【優衣】 「あー、照れてる照れてる」  射精後で気疲れしてるときにからかうのは勘弁してほしい。 【優衣】 「……兄さんの声、すごかった。……腰の突きあげ方も、ペニスの痙  攣も……見てるときよりもすごい動きしてた」 【優衣】 「私に触ってもらうのが……気持ちよかったんだ」 【優衣】 「私に扱かれて、射精まで導いてもらうのが……そんなに気持ちよか  ったんだ」 【優衣】 「……嬉しかったんだ」 【兄】 「ち、ちが」 【優衣】 「――私が『触ってもいい?』って訊いたとき、兄さんは『駄目だ』  って言ったけど……」 【優衣】 「……兄さんの顔、嬉しそうにしてたの」 【優衣】 「だから、ホントは触って欲しいんだってわかってた」  そんな馬鹿な! 俺は至ってポーカーフェースだぞ!  と答えたら、きっと優衣は冗談を受けたように笑って否定するだろ  う。  俺自身は包み隠しているつもりでも、優衣からしてみればバレバレ  なのだ。  昔から変わらない。  優衣は人の心を読み取るのがうまい。  いや、俺の心を読み取るのがうまいだけか……はたまた俺が読まれ  やすいだけか。 【優衣】 「……ねえ、兄さん?」 【兄】 「ん……?」 【優衣】 「今度からは我慢しないで……ね。したくなったら遠慮なく言って?」 【優衣】 「兄さんが満足するまで……『して』あげるから……ね」 【兄】 「え、あ……あぁ」  あからさまに動揺してしまう。  また『言葉の綾』とか言われるかと思ったが、そんなことはない。  つまりそこには、『言葉の綾』じゃなくて『本心』が込められてい  たということ。  『見て』あげるではなく、『して』あげる。  俺はこの瞬間、禁断の沼へ両足を突っ込んでいることを確信した。