ベッドの中にて
◆4
六日目
「ベッドの中にて」
――寝入りばな。
扉が薄く開くのを感じた。
浅い眠りのなか、気のせいのようにも思えて俺は再び目を閉じた。
微かな足音。
覚醒までこぎ着けるほどの不穏な音には聞こえず、俺は警戒心を解
いた。
布団が捲られる。
そいつはゆっくりとした所作で布団の中に潜り込むと、何のためら
いもなく腕に絡みついてきた。
【兄】
「……こら」
【優衣】
「あ」
【兄】
「いい子はもう寝てる時間だぞ……」
【優衣】
「ごめんなさい。起こしちゃった?」
【兄】
「いんや」
【優衣】
「そう」
じゃあ遠慮なく、とでも言うようにぎゅっと腕を抱いてくる。
そのまま前回の調子で手のひらを握る。
もはや恒例化としていた。
【優衣】
「……いい子はもう寝てる時間、というなら、私と兄さんは悪い子だ」
【兄】
「……言葉の綾だ」
【優衣】
「あら~? じゃあなに、兄さんは悪い子じゃないのかしら~」
【兄】
「うるせえもう黙ってろ」
【優衣】
「くすっ、はーい。黙りまーす」
そうは言っても、この流れから黙するってのも無理な相談だ。
添い寝には軽いトークが付き物。
ベッドの中ってのは何かと秘密話が繰り広げられるものだ。
【兄】
「……今日はもうこないかと思ってた」
【優衣】
「ん……?」
話し掛けられるとは思わなかったような音色。
【優衣】
「あぁ……。そうね……私自身も今日はここに来るつもりはなかった
の」
【優衣】
「まあ、色々と理由があって」
【兄】
「へえ」
少し優衣の側へ頭を傾ける。
【優衣】
「……聞きたそうね」
【兄】
「まあ、興味本位がてら」
【優衣】
「そんな大した理由じゃないわ。……そう、一つ一つの理由は大した
ことじゃない」
【優衣】
「でも、その理由がたくさんあったから、総合的に判断してここに
やってきたの」
【兄】
「ほー」
【優衣】
「一つに、ちょっと今日は肌寒いなって思ったこと」
【優衣】
「一つに、あれちょっと今日は眠れないなって思ったこと」
【兄】
「うんうん」
【優衣】
「一つに、もしかしたら兄さんも寒がってるかなって思ったこと」
【兄】
「……まあ、それはね」
【優衣】
「一つに、もしかしたら兄さんがひと肌恋しくなってるかなって思っ
たこと」
【兄】
「俺メインになっちゃったよ」
【優衣】
「一つに、兄さんが……」
そこから少し黙る。
待ってみるが、続きはない。
【優衣】
「私がいないと……」
優衣の手がパジャマの上に乗る。
【優衣】
「性処理のお願いができないかなって……思ったこと」
手は俺の腹部を滑り、局部に達する。
頂を確かめた瞬間、小さく声を上げた。
そして、やっぱりとばかりに小さく微笑んだ。
【優衣】
「……これ」
【優衣】
「期待してたんだ?」
返事はできない。
返事をする必要もない。
黙っていても、優衣は俺の真意を汲み取れる。
【優衣】
「……ん、しょうがないわ」
【優衣】
「人にしてもらうのって、気持ちいいから」
【優衣】
「昨日、私でイかせてもらって……初めてしてもらった感覚を、我慢
できるはずないわ」
【優衣】
「……しょうがないの」
【優衣】
「だから、ほら……」
ゴム紐を引っ張ってくる。
【優衣】
「パジャマ……脱いで?」