ちせのだいじだいじ耳かき(左耳)
;環境音 火鉢+室内 F.I.
;7/左 (接近囁き)
【ちせ】「ふふっ、左耳さん。よーいらっしゃいました」
;$=SE ヘチマ水の瓶耳元でふる
;7/左
【ちせ】「駆けつけ三杯。まずはキリッと冷やしたヘチマ水――
$
――ごちそうしますな。
ん……」
;SE ヘチマ水手にとる→伸ばし広げる
【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――あはっ。
お耳に触れとるちせの手も、ひんやり気持ちよー感じます。
ちせもすこぉし、火照ってしもうたのかもしれませんなぁ」
【ちせ】「ん。ほんなら、こっちのお耳にもヘチマ水揉み込んで、
お耳をすこぉし、湿らせましょうな」
;SE ヘチマ水に濡れた手で耳タッチ
【ちせ】「ぴたーーーーーーーっ。
(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
すこぉし温もぉたら、ゆるゆる伸ばしていきますな」
;SE ヘチマ水耳マッサージ
【ちせ】「よ、っしょ……(呼吸音)(呼吸音)――
ん……(呼吸音)(呼吸音)――
なんや、お客はんは――(呼吸音)(呼吸音)――
お肌も素直な――(呼吸音)――気がしますなぁ――」
【ちせ】「素直、いうか――(呼吸音)(呼吸音)――
馴染む、いうか――(呼吸音)(呼吸音)――
こうして、揉み込んで――(呼吸音)(呼吸音)――
おりますと――(呼吸音)――な?――(呼吸音)」
【ちせ】「ちせの、お肌と――(呼吸音)(呼吸音)――
お客はんの、お肌の――(呼吸音)(呼吸音)――
境目、が――(呼吸音)――溶けて――(呼吸音)――
入り混じりそうな――(呼吸音)――気に、なって――(呼吸音)――って」
;SE stop
【ちせ】「あははは、ちせ、なにいうてるんやろ。
いややわぁ。ヘチマ水塗って冷やそいうとるのに、
塗っとるちせがのぼせとったら、世話ないわ」
【ちせ】「(落ち着こうとする呼吸)」
【ちせ】「うん。したら仕切りなおしで。
お耳、お掃除していきましょな。
こっちもやっぱり、浅いとこから――」
;耳かき音(浅・継続)
【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――」
【ちせ】「ああ、せやったね――(呼吸音)(呼吸音)――
ソープランド……風俗……(呼吸音)(呼吸音)――
今様の、廓は……(呼吸音)(呼吸音)――
自由恋愛の――(呼吸音)――世の中やさかい――(呼吸音)」
【ちせ】「肌と、肌との、まじりあい――(呼吸音)(呼吸音)――
体の契り、だけを求めて――(呼吸音)(呼吸音)――
旦那はん……いえ――(呼吸音)(呼吸音)――
男はんが来るもんや――(呼吸音)――いうて――(呼吸音)――聞きましたけど」
【ちせ】「昔は……(呼吸音)――ちせが――(呼吸音)――
廓に買われた――(呼吸音)――ような、ころから――(呼吸音)
ほんの、百年ほど前の……(呼吸音)(呼吸音)――
『戦後』がやってくる(呼吸音)――前は――(呼吸音)――」
;SE ティッシュで耳かき拭き
【ちせ】「……縁談も、結婚も。全部が全部、『家のこと』。
親やら親類やらが決めたことに逆らうなんて、ありえへんかった時代だったんですわ。
ずっと、ずうっと、長いこと」
;SE 耳かき音(浅・継続)
【ちせ】「そないな時代……(呼吸音)――男はんが、廓に来はるのは――(呼吸音)、
春を、体を――(呼吸音)(呼吸音)――
買いに来はった――(呼吸音)(呼吸音)――
いう、よりも――(呼吸音)(呼吸音)」
【ちせ】「例え一夜の、恋であっても――(呼吸音)(呼吸音)――
自分の自由になる、恋を――(呼吸音)(呼吸音)――
自分で選んで――(呼吸音)――好いたおなごと――
一緒にすごせる――(呼吸音)――そないな時間を――(呼吸音)」
【ちせ】「きっと、求めて――(呼吸音)――買いに、来て――(呼吸音)――
太夫になるような――(呼吸音)――遊女はん……(呼吸音)――
すくなくとも、ちせのお姐はん――(呼吸音)(呼吸音)
――篝火太夫は――(呼吸音)(呼吸音)」
;SE 耳かき拭き
;7/左
【ちせ】「(ふーーーーーーーーーーー)(ふーーーぅう)(ふっ!)」
;7/左 (接近囁き)
【ちせ】「恋を求める想いに応えて――
一夜の恋を――旦那はんとひとつになって、燃やして、過ごしておられましたわ」
;7/左
【ちせ】「一夜の恋の他にはどこにもほんまの恋愛なんてあらへん――
それがあたりまえだった時代が、ずっと長いこと、ありましたんよ」
【ちせ】「…………ほな、ね。今度は深いところに」
;SE 耳かき(深・継続)
【ちせ】「ん…………(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【ちせ】「せやさかい――(呼吸音)(呼吸音)――
傾城、いうんも――(呼吸音)(呼吸音)――
お城を、国を――(呼吸音)――傾かす、ほど――(呼吸音)――
おんなに狂う、いうことも――(呼吸音)(呼吸音)」
【ちせ】「そないな時代には――(呼吸音)(呼吸音)――
めずらし、ことでも――(呼吸音)(呼吸音)――
なかったんです――(呼吸音)(呼吸音)――
その挙げ句の、な――(呼吸音)(呼吸音)――」
【ちせ】「心中やら――(呼吸音)――火付け、やらも――(呼吸音)――
全然、めずらし――(呼吸音)(呼吸音)――
ことじゃ、のうて――(呼吸音)(呼吸音)――
江戸の、吉原……(呼吸音)(呼吸音)」
;SE stop
;SE 耳かき拭き
;SE 耳かき(深・継続)
【ちせ】「あそこ、なんかは――(呼吸音)(呼吸音)――
江戸の、ど真ん中に――(呼吸音)(呼吸音)――
なって、しもうた――(呼吸音)(呼吸音)
元の吉原と――(呼吸音)(呼吸音)」
【ちせ】「それじゃあかんて――(呼吸音)(呼吸音)――
ゆうことで――(呼吸音)(呼吸音)――
お寺はんの裏に――(呼吸音)――移転、した――(呼吸音)――
新吉原――(呼吸音)――とで――(呼吸音)――」
【ちせ】「250年ほどの――(呼吸音)(呼吸音)――
歴史の中で――(呼吸音)(呼吸音)――
23回も――(呼吸音)――大火事起こして――(呼吸音)――
18回は、全焼しとる――(呼吸音)――くらいや、さかいに――(呼吸音)」
;SE stop
;SE 耳かき拭き
【ちせ】「恋に焦がれて、足抜けしたくて――どさくさにまぎれそうと火付けした。
そない傾城じみた狂いさえ……。珍しいことじゃなかったんですよ。ほんまに」
【ちせ】「(ほっ、と、短く我に帰るような吐息)」
【ちせ】「(ふーーーーーーーーーーっ)(ふーーーーーっ)」
【ちせ】「もっともな。ちせみたいに禿のうちに死んでしもうた――
水揚げもすませれんかったよーなちんちくりんは、
遠い昔の一夜の恋も、今の時代の自由恋愛も、
あはは、ぜーーんぜん縁のあらへんことやけれども。っと――」
【ちせ】「あー……もーちょこっとだけ取り残し。
お客はん……あとすこぉしだけ、じっと動かんと辛抱してな?」
;SE 耳かき(深・継続)
【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――っと――」
【ちせ】「痛く、せんよお――(呼吸音)(呼吸音)――
大事に、大事に――(呼吸音)(呼吸音)――
あ――(呼吸音)――ここ、で――(呼吸音)――
ひっかい、て――(呼吸音)――のせ、て――」
【ちせ】「(慎重に耳かきを引き上げていく呼吸)*4――よしっ!」
;SE stop
;SE 耳かき拭き
【ちせ】「(ふーーーーーーっ)(ふーーーーっ)」
【ちせ】「ん……――ん~~――うん。
うふふ、おつかれさんでした。
なんや、長話を聞かせてしもうて……あ――」
【ちせ】「(大きなあくびを見守る呼吸)――ふっ、うふふふふっ。
なんやちせ、お客はんを退屈させてしもうたみたいで……
(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ああ」
【ちせ】「よー考えたら――考えんでも。
頑張った頑張って修羅場を抜けて、まる二日倒れるように寝てはって。
おきたらすぐに、プチ打ち上げ――どころか、お座敷遊びにまでちせ、つきあわせてしまいましたもんなぁ」
【ちせ】「疲れもまだまだ抜けきらんとこに、おなかいっぱいであれこれやって。
そらぁもう、眠くなるなゆー方が無理なお話で……ぁ――ふ……(抑えたあくび)」
【ちせ】「いややわぁ。ちせにもお客はんのあくびがうつってしもうた。
ゆーか、お客はん……
もしも、な? もしもちせの昔話を――
昔と、今の、ちせの話を……」
【ちせ】「もう少しだけ、聞いてもかまへん思うてくださるようなら。
……お客はんが眠りにおちはるそのときまで。寝物語を――」
;7/左 (接近囁き)
【ちせ】「ちせ、お聞かせしてかまへんやろか」
;環境音 F.O.