落ち葉の絨毯(麻織の滝への道)
;SE 環境音/麻苧の滝(滝遠い)
;SE 鎖が鳴る。じゃら
;1/前
【ラン】「(登山中の、身体をフルに使っているときの、荒い呼吸音 ×8呼吸)」
【ラン】「ぶはっ!!」
;SE 鎖、じゃらり
【ラン】「ぁ……ふぁ――ふああっ」
;SE うず高く折重なった落ち葉の上にどさっとしゃがみ込む
;3/右(二人並んでしゃがみこんでる)
【ラン】「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――(ごくっ)
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
;呼吸荒いのがだんだん落ち着いていく
【ラン】「あの、さ――マイ、ロード。
ラン、は……線路の上のこと、以外は、なにも知らないような……
世間知らずの……レイル、ロオド――だけれ、ども」
【ラン】「(呼吸を落ち着けようとする呼吸) *4」
【ラン】「それでも……。それでも明確に断言できる。
これは――これは登山だ! 完全に!!」
【ラン】「あははははっ! まさかランが、レイルロオドが登山にチャレンジするなんて! 想像したこともなかったよ」
【ラン】「観光ルートとして紹介されてる、誰でも安全、簡単に麻織の滝へたどり着ける道をいくつもりだったのに……
(いま自分が登ってきた岸壁を見下ろして、数度呼吸)」
【ラン】「よもや鎖を伝って垂直な岩壁を這い登ることになるだなんて!!
マイロード、貴方と一緒じゃなかったら、絶対にランは引き返してた。こんなチャレンジ、できてなかった」
【ラン】「――とても楽しい、爽快だ!
けどマイロード。小さなお子さんやお年寄りに、この道はとても辿れない。
だから――つまりは」
;3/右 (うつむいて)
【ラン】「……まことに申し訳ない。
ランは、間違った入り口を選んでしまっていたんだね」
;3/右 (向きもどして)
【ラン】「『登山届提出箱』っていうのがあった時点で、少し違和感を覚えてはいた。
けれど――『麻織の滝』と書かれてる朽ち果てた看板もあったから……」
【ラン】「道がいきなり険しくなれば、きっと引き返していたのだけれど……ロープがあって、はしごが続いて、最後に、鎖――
(呼吸音)(呼吸音)」
【ラン】「――ステップアップ。チュートリアルみたいな経路になっているんだもの。
これは遊覧歩道ではなく、どう考えても登山道だと――
確信するのに、今の今までかかってしまって……」
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ああ! うん。
登山道だからこそ、見える景色も聞こえる音もあるね、確かに」
【ラン】「お尻の下の、これほど分厚い落ち葉のクッションひとつをとっても――
<;SE 身じろぎで落ち葉がさがさ>
いままで一度も腰をおろしたことがないレベルだし――
よっ!」
;SE 立ち上がる
;1/前
【ラン】「んーーー……(行く先に目を凝らす呼吸)……
ここからしばらくは平坦な道が続きそうだね。
道の向こうに、滝の姿が見えてくれるといいのだけれど――」
;SE 落ち葉踏み、一歩。
【ラン】「ん、これは……
ふふっ、なかなか愉快な感触だね。
これほど深くたくさん積み重なると、ただの落ち葉が――」
;SE 落ち葉ふみ、数歩
【ラン】「ふふっ! うふふっ! あははははっ!
ふわりと沈むのにカサカサ崩れて――
いいね、とても風情があるし、贅沢だ」
;SE 落ち葉足音(継続)
【ラン】「……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
ああ、本当に! なんて楽しく軽やかで、豊かで複雑な音だろう!!
この登山道、何ヶ月も人がまったく来ていないのかな。
それとも2~3日もあれば、ここまでうず高く落ち葉が積み上がるものなのだろうか」
【ラン】「いずれにしてもマイロード! 今この瞬間、この落ち葉の山を支配するのは、貴方とランのふたりだけ!
ならばこのラン、落ち葉の王にどこでだって従いましょうぞ!
うふふふふっ!」
【ラン】「(呼吸音。夢中になって落ち葉を踏んで歩き続ける。一分ほど)――ふふっ! ――っと
<;SE stop>」
【ラン】「いけないいけない。音探しもいいけど、ロケハンもしっかりしないとだ。
落ち葉の道は音はいいけど……(呼吸音)(呼吸音)――あたりは切り立った岩だらけ。
観光ポスターには、残念ながら不向きであるとしか思えない」
【ラン】「……(呼吸音)――結局、この先がどうなっているのか、だよね。
さすがに、麻織の滝に続いているの間違いないのだろうけど……」
;SE 落ち葉を踏み分け歩く足音(継続)
;9/前遠(マイクに背中向き)
【ラン】「……(足場の悪い道を慎重に歩く呼吸音。ニュアンス入れながら1分ほどねがいます)――っと――ん……」
【ラン】「ふふっ、ドキドキするね、マイロード。
……線路なら、先になにがあるかを熟知している……
というか、そもそもからして、習熟しなければ走り出せないものじゃないか」
【ラン】「目をつぶってても停止位置ぴたりに止められる。
毎日走って、情報を常に更新して、自分の部屋の中よりよほど細やかに、関連する全ての位置関係を把握している」
【ラン】「だけど道路は、先がさっぱりわからない。
ましてやこんな細い山道、何がおきてもおかしくはない」
【ラン】「だからドキドキしているし……
そのドキドキとおんなじくらい、ワクワクしてる」
【ラン】「一人だったらワクワクどころか、怖くて動けないかもしれない。
けど、マイロード。貴方が一緒にいてくれるから……
貴方に背中を預けて一歩を、踏み出せるから――」
;独り言 →”ああいや”から顔をあげて対話(マイクに背中向きのまま)
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
いつまでだってこの道が続いてほしいと、そんな願いさえ抱いてしまうほど……
ああ、いや――ふふっ。なんでもないよ」
【ラン】「……現実的なところを見れば、あの岩を回りこんだところに、麻織の滝がひろがっていてほしいと願うばかりさ。
落ち葉歩きは楽しいけれど、この先さらに登山となると時間的にも――あっ」
;SE stop
;環境音 麻苧の滝
;滝を発見して安堵→思ったより迫力なくてがっかり→それがおかしくなってくる
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――っ!
あはっ! あはははははっ!!」
【ラン】「滝だ! ちっちゃい!!! 崖の向こうだ!
ああああ――これは――あははっ!
そうか、このみちは、登山道は――
麻織の滝を目的地にしているのではなくて――」
【ラン】「もっと上、頂上を目指している道なんだ!
そうだよね、だから登山道なんだもの……ああ――」
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
なるほど、遊覧歩道は崖の向こう側にあったのか。
ここから遊覧歩道側には……(呼吸音)――つながってはいないみたいだ。
……どうやら来た道を戻るしかないね、これは」
【ラン】「(ため息)……さすがにちょっと力が抜けるな。
ああ――
<;SE 落ち葉の上に腰を下ろす>
けど……あははっ! 気持ちのいい脱力感だ」
;失望が徐々に抜け、冷静に戻る
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
;7/左
【ラン】「……その岩棚を下りていけば滝に近づけそうだけど……
(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
ギリギリ下りられたとしても、二度とは登ってこれないだろうね」
【ラン】「岩そのものも滑りそうだし、その上に重なる落ち葉は、さらに足元を不安定にする」
【ラン】「……滝をバックに撮影はあきらめるしかない。
けど、音は……」
【ラン】「(潜めた呼吸音。環境音に耳を澄ませてる。一分ほど)」
【ラン】「……滝の音に混じる落ち葉の音……
風がふくたび、くるくる回って、巻き上がっては転がり落ちて……」
【ラン】「ダンスを踊っているようだ。
軽やかで、ささやかで……
ささやかなのに、深く、豊かで……
(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【ラン】「とれも綺麗な自然のワルツと感じるけれど――
残念ながら、広く紹介するには向かないね。
たくさんの人が踏み入ったなら、落ち葉の絨毯はあっという間に押しつぶされて、すぐに歌えなくなってしまうだろうし……」
【ラン】「季節も極めて限られてしまうし――うん。
音の方でも、広くに紹介するためにより相応しい場所は、いくらでも他にありそうか」
;7/左 (マスターに身を寄せる)
【ラン】「けど……ふふっ。そう考えると――
(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
;7/左 接近囁き
【ラン】「とても贅沢な貸し切り席だね。
今は、マイロードとランだけの……」
【ラン】「(一分ほど、静かな呼吸)」
;;7/左(近い) “ふふっ”言い終わったら離れて→;7/左 通常
【ラン】「ふふっ!
さぁて、それじゃあ他の場所に行こうか。
次の目的地は野鳥の森――
雨水(うすいの)の鉄道文化むらのすぐ近くに看板がある――
けれどもランは、まだ一度も足を踏み入れたことがない森だ」
;SE ラン、立ち上がる。落ち葉がさっ
【ラン】「軽衣沢(かるいざわ)へと抜ける国道沿いに広がっているっていう話だから……
マイロード。安心してくれて大丈夫」
;SE ラン、大きく一歩足音
;1/前
【ラン】「今度は登山をしなくてすむさ!
――たぶん、だけれどね!!」