尾根山(おねやま)野鳥の森
;SE 野鳥の森
;3/右 (マイクと同じ方向に視線) 並んで立ってる
【ラン】「ああ……(リラックスした呼吸音)*4」
【ラン】「いいね。うん。実にいい。
国道からほんの数分 遊歩道を進んだだけでこれほどまでに……
(呼吸音)――
音が、世界が変わるんだね……」
【ラン】「(目を閉じ、森林浴する呼吸音。一分ほど)」
;自然と声が囁きになる
【ラン】「……深く静かに眠る森。
風のざわめきはゆりかごで。
小鳥の歌は子守唄」
【ラン】「……穏やかに調和し合った、ここちよい音。
とても安らぐ。このまま居眠りでもしたい気分だ」
;普通に戻る
【ラン】「……けど、少しだけもったいないことしちゃったかなって気もしてる。
鳥の名前を、一つでも多く教わっておけばよかったかなって」
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
比較的ご近所だけれ、一度もお話をしたことがなかった大先輩――。
頭部鉄路三勢崎線(とうぶてつろみせさきせん)の、5号(ごごう)機関車専用レイルロオド――りいこさん」
【ラン】「あの方がね、異様に詳しかったんだ。
虫とか鳥とか花とか草木とかの名前に。
……レイルロオドがどうしてそんな、乗務に関係しない知識を、と――
そのときには少し、正直思ったのだけれど」
【ラン】「……知っているなら、違うんだろうなと――いまね、ふっと感じてしまた。
目の前に広がる景色も、耳に飛び込んでくる音も。
名前をもしも知っていたなら、きっと、さらに豊かに味わえるんだろうなぁ、って」
【ラン】「……名前は、単なる識別コードじゃないって、
りいこさんと話したときに、ランは、教えて貰えた気がした」
【ラン】「虫や、鳥や、花の名前を――ほんの少しだけ教わって。
知ってみたなら、毎日の暮らしの中に、ぽっとあたたかな色が灯った」
【ラン】「ただの小鳥のさえずりが、『シジュウカラの歌声』になる。
道端に咲いている雑草が、『オオイヌノフグリ』の花だって気づく」
【ラン】「……りいこさんが教えてくれた虫の名前は――ふふっ、
『全部同じじゃないですか』って感じで、
すごく似たのがたくさんすぎて、結局わからなくなっちゃったけど――(呼吸音)」
【ラン】「でも、うん。余剰メモリの片隅に、鳥の名前がさえずっているのは、とても悪くはないものだ。
そう気づいたら、ね。ランは、自分の名前のことも――(呼吸音)」
【ラン】「ランっていう この名前のことも、前よりずっと、好きに、誇らしくなったんだ。
D51 840(でぃーごじゅういち はっぴゃくよんじゅう)。
デゴイチハシレ――走れだから、ラン」
【ラン】「他にいくらも命名の候補はあったと思う。
ランのひとつしたの妹が841(はちよんいち)の『はやい』で、いっこ上の姉が83(はちさんきゅう)9の『闇雲』だから……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【ラン】「そう、だね。『はや』とか『やよまる』とか……そういう名前をもらった可能性だって、きっとあった――っていうか、むしろ高かったんじゃないかと思う」
【ラン】「けれどもランは、他の姉妹の命名規則とはかけ離れている名前をもらった。ランという名を。
――走れという願いをきっと、込めてもらえた」
【ラン】「だから、ランは――"はやい"や"闇雲"や……
D51姉妹のほとんどが鉄路から去ってしまった今でも走り続けていられるのかも……って――
少しね。少し――いま思った」
【ラン】「はやいにも闇雲にも、きっとたくさんの願いが込められていたと思うんだ。
彼女たちが、実際に大切に使わて、それぞれがそれぞれに活躍していたことも、ランは知ってる」
【ラン】「でも、たくさんの願いは広いから。
ランにこめられた願いはたった一つで狭いから――
その分長く、ランを守って……守りつづけてくれてるのかな、って」
【ラン】「なぁんて、あはは! レイルロオドがこんなオカルトな話だなんて、おかしいね――
あ……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
;1/前
【ラン】「……(幸せな吐息)。
――マイロード。貴方の耳におかしなことと聞こえないなら、すごく嬉しい。
ランの名前にこめられている願いの強さを、貴方にも感じてもらえるのなら、すごく嬉しい」
;1/前 (うつむいてはにかんで)
【ラン】「……マイロード。ランはね。あなたの名前も大好きなんだ」
【ラン】。
名前にこめられた願いも意味も、全てをいつか教えてほしいと、そう願わずにいられないほど……
(呼吸音)」
;1/前 (顔位置もとに戻して)
【ラン】「(じっと傾聴する呼吸。1分間ほど)」
【ラン】「……(幸せで満足な長い吐息)。
来て、よかった。
尾根山(おねやま)野鳥の森……
鳥のさえずりをたくさん聞けるって、それは予想していたけれど――ふふっ」
【ラン】「まるで予想もしていなかった素敵にも、鼓膜を、こころを揺すってもらえた。
ランは――ああ、マイロード。
貴方とともに過ごす時間に、いつでもたくさんの素晴らしいなにかを与えてもらえる」
【ラン】「(満ち足りた気持ちを噛み締め直す呼吸)……
……嬉しいな。うん。とても嬉しい」
【ラン】「……だから、っていうわけじゃないんだけれど――
マイロード。貴方ともっと長い時間を過ごしたい、その願うからけだけで言うんじゃないのだけれど」
【ラン】「この森は――ええと……(呼吸音)――
『蓄音レヱル』っていう名前だったっけ。
あの記事で紹介してもらうには、実に適した場所だと思う」
【ラン】「こうして話している今も……」
【ラン】「(じっと小鳥のさえずりを聞く呼吸音。30秒ほど)」
【ラン】「……これほどにここちよい音を聞けるし、少し歩けばそれだけで、また別の鳥のさえずりを耳にもできる」
【ラン】「どの季節にどんな天気で来たとしても、聞こえてくる音はきっと快適だろうし、アクセスもいい。
遊歩道をほんの数分進んだだけでもう、余計な雑音の全てを、森と風と鳥の音とが、かき消してくれる」
【ラン】「ただ……ん――(呼吸音)――
季節と天気……この曇天のせいもあるのかもしれないけれど――
ポスター撮影にむいてる場所では……(呼吸音)――
残念ながら、無いよね、やっぱり」
【ラン】「横河線沿線ならでは! 群真(ぐんま)ならでは!
――そういう感じがあまりに少ない。
極端な話、ラン程度の植物の知識ではだと……
『蒼森(あおもり)の森』っていわれても、『鹿兒島(かごしま)の森』っていわれても。
『なるほどね』って、きっと納得してしまうもの」
【ラン】「だから……(呼吸音)(呼吸音)――ああ、うん。
やはり、他の場所を探そう。
今度は意識をロケハン中心に切り替えて……
いい景色を探すついでに、いい音も見つけることができればラッキー! 的に」
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
うん。ではそうしよう!
といっても、次にどこにいくかどうかを……
(きょろきょろとあたりを見回す呼吸音)――ん?」
【ラン】「ん? んんん?
マイロード! こんなところに案内板があるよ。
(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――」
【ラン】「ああ……(呼吸音)――なるほど……(呼吸音)――
この尾根山野鳥の森近辺の地図なのか――おや」
【ラン】「『仙芽滝(せんがたき)』……滝が近くにあるんだね。
麻織の滝では思わぬ登山をすることになってしまったけれど――
……(呼吸音)(呼吸音)」
【ラン】「この地図で見るかぎり、むしろここより低いところにあるみたいだし……場所も国道を外れてすぐみたいだし……
いって見ても悪くはなさそう、な感じかな」
【ラン】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
うん。いってみよう。
そんなに時間もかからなそうだし――ふふっ」
;3/右 接近囁き
【ラン】「いってみてもしも外れだったら……ロケハン継続。
さらに長い時間をマイロード、貴方と過ごせることになる」
;SE ぱっと離れて大きく一歩
;9/前遠
【ラン】「どちらにしても、ランには嬉しい結果だからね!!」