ぽんぽこ沼
;使用環境音:茂林寺沼.wav
;1/前
【りいこ】「ついた。ぽんぽこ沼。
ここね、いい音するんだよー」
【りいこ】「えへへっ、近すぎてびっくりしちゃった?
さっきの場所――ぽんぽこ寺の境内から歩いて……
どのくらいかかったかな。三分……五分、たったそれだけでついちゃうけど。でも」
;3/右(接近囁き)
【りいこ】「ね、マスター。耳をすませてみて」
;3/右
【りいこ】「(耳を済ませて周囲の音を聞く密やかな呼吸音。一分ほど)」
【りいこ】「すごいでしょう、ここ。音が、たくさん。
生きている音。自然の音」
【りいこ】「鳥も、魚も、虫もわんさか。
りいこの好きな空を飛ぶ虫の仲間だと、ちょっとだけ珍しい、ウチワヤンマとかミドリシジミとかもいるよ」
【りいこ】「(耳をすませる、30秒ほど)」
【りいこ】「ね にぎやかでいい音でしょう
ジジジジーっていってるのが、雀の地鳴き。
ケーケーケーケーって、笑ってるみたいに聞こえるのが、マガモの鳴き声」
【りいこ】「こここここって聞こえるのはね、アマガエル。
遠くにけろけろ、ヌマガエルの声も聞こえるね-
――あ!」
【りいこ】「早いの! 歌うみたいにてかろやかなの。
ハクセキレイ。珍しい。マスター、ラッキーだね」
【りいこ】「ハクセキレイなんて、一年に何回見かけるかどうかなんだよ! すごい、すごい!
マスターといっしょだと、楽しいこといっつもたくさんでうれしいな! えへへっ」
【りいこ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ん。
別にりいこ、鳥のことにもカエルのことにもくわしくないよ。だけど――(呼吸音)――」
;SE 制服の袖ごそごそ
【りいこ】「この制服、腕まくりしづらいったらないんだよねー。
硬いし、ひらひらついてるし……ん、っと……」
;SE 制服腕まくり
【りいこ】「……インタビューなんかなかったら、虫取り服で来たし、捕虫網ももってきたのにさー――。
っと、腕まくりできたー!」
;SE しゃがみ→沼の水に手をつける
;3/右 (しゃがんでるので低いとこ)
【りいこ】「ひえっ! 沼の水冷たっ!!
ん ……(呼吸音)――あはは、平気。
汚くないよー。汚かったら、こんなにたくさんの虫とか魚とか鳥とかがいるわけないもん」
;SE 沼の水、静かにちゃぷちゃぷ(継続)
【りいこ】「それに、ぽんぽこ沼は群真県(ぐんまけん)の天然記念物で、
環境保全がしーーーーっかりされてるから、平気。
ああっ、それにしても冷たいなぁ」
【りいこ】「(呼吸音)(呼吸音)……あー、うん。
えとね、冷たいのに手をつけっぱなしにしてるのはね、
ふたつ理由があるんだよ。
ひとつは、やけどしないように――(呼吸音)(呼吸音)」
【りいこ】「あ、やけどっていうのは、りいこがじゃなくって、虫が、やけどをしちゃわないように」
【りいこ】「あのね 水生昆虫の中には、レイルロオドとか人間の手のひらの熱さが高すぎるこがいるの。
そういうこをいきなりつかまえちゃうと、きっとりいこたちで言えば、焼けたトングでつままれたのととおんなじくらいな感じになって、やけどさせちゃうの」
【りいこ】「りいこが捕まえたせいで、虫が弱って死んじゃったらヤだから、冷たいのくらいは我慢しなくちゃ。
……(呼吸音)(呼吸音)――ん、そろそろいい感じに冷えたっぽい――」
;SE stop
【りいこ】「(30秒ほど、じっと息をひそめる)」
;3/右 (囁き)
【りいこ】「来た。……うふふっ。
あとひとつの理由はもちろん。――んっ!」
;SE 水中で虫を捕まえて、捕まえたその手をそーっと水面の上にあげる
【りいこ】「かわいいでしょ。マルチビゲンゴロウ。このこも環境省の準絶滅危惧種だから、すぐに逃してあげないとねー」
;SE 水中に手をつけ、5秒ほどであげる
【りいこ】「えへへ、ばいばーい! 元気でねー。
もうつかまっちゃだめだよー――(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
;3/右
【りいこ】「うーーーー、冷えちゃった。
あっ」
;3/右(手をにぎってもらってる距離)
【りいこ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――えへへ、あったか。ありがと。マスター」
;3/右
【りいこ】「でね? さっき話した、水の中に手をつけてた理由のふたつめは。
水生昆虫かなにかをつかまえて、マスターに見せてあげようって思ったから」
【りいこ】「どうして見せてあげようかって思ったかっていうと……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――あれ」
【りいこ】「あれ あれれ ええっと――うーんと――
ね なんでだったっけ……(呼吸音)(呼吸音)」
【りいこ】「あ! そうだった!
『りいこが鳥にもくわしい』って、
マスターに誤解されちゃいそうって思ったからだったー」
【りいこ】「あのね りいこ、鳥のこと詳しくなくて、だけど虫は大好きだから。
虫がどんな鳥に食べられちゃってるのか、気になって調べてただけなんだよ」
【りいこ】「気になるたびに調べてたら、いつの間にか見分けられるようになって、鳴き声とかも覚えちゃったの」
【りいこ】「植物とかもおんなじで、
『オオルリハムシを捕まえた場所を記録しとこー』って思ったら、何の葉っぱの上にいたかもしらべなくっちゃいけないでしょう?
それで自然と、この葉っぱがカヤツリグサで、あのお花はウシハコベとか、みわけられるようになったんだよ」
【りいこ】「だから、りいこは全然鳥も植物もくわしくないの。
りいこがちょっとはくわしいのは、虫のことと機関車のことと――(呼吸音)(呼吸音)――あとは、えへへっ! マスターのこと!!」
;3/右→;1/前
【りいこ】「だからね、りいこ。マスターがどんなにりいこのことをいっつも助けてくれてるか、わかってるの。
わかってるから、りいこももっと、マスターの役にたちたくて……」
;考え込む
【りいこ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【りいこ】「……役にたちたいんだけどなぁ。
お仕事の方もこのくらい、虫のこととおんなじくらい熱心にできたら素敵だよねー」
【りいこ】「りいこもね そうしたいんだよ
そうしたいけど、がんばってるけど――
なんか失敗しちゃうんだー」
【りいこ】「安全に関してだけは、絶対失敗しちゃいけないから、
そこにぎゅーって気持ちを集中するでしょう
そうすると、りいこ、他のことにまでは気が回らなくなっちゃって……」
【りいこ】「だからちっちゃいミスとかポカとか、ときどき……結構しちゃうし。
マスターにフォローしてもらうばっかりで……
(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――えへへ」
【りいこ】「それでもいいんならうれしいな。
りいこが甘えて、『一緒にあそんでー』っておねだりするのが、マスターのいい気分転換になれてるんなら、ほんとにうれしい」
【りいこ】「それなら、えへへ! いっしょにどんどん楽しくなれるね!
マスターはりいこと遊んで気分転換できて、
りいこはマスターに遊んでもらえるとたのしくて、
それだけじゃなく、りいこだと背が届かない高いとこの虫も捕まえてもらえるし」
【りいこ】「前ね、虫取り手伝ってもらったとき、
マスターがまさかのコロギス捕まえてくれたのも、とーってもうれしかったんだよ。
りいこ、ちょっととろいから、コロギス捕まえられたことなかったし――(呼吸音)(呼吸音)」
【りいこ】「えへへ。
コンビネーション! とっても素敵な言葉だねー。
コンビネーション! コンビネーション!!」
【りいこ】「マスターとりいこ、コンビネーションがいいんだね。
やったぁ! うれしい。
りいこ、自信がついちゃった!
ほんとにありがと、マスター」
【りいこ】「なんだかりいこ、虫取りしたくなっちゃった。
ね、マスター、このまま湿原の方いってみない
捕虫網ないけど、あそこだったら――あっ」
;環境音 雨をプラス ポツポツ
;空をみあげながら
【りいこ】「やだなぁ、降り始めてきちゃった――
あ、じゃないや! 降ったら降ったで、いい音集め、ラクできるんだ!!」
;1/前→;3/右 (お隣に並んで、腕を引っ張る)
【りいこ】「そんな急には土砂降りにならないっぽいし、ちょうどいいかな――うん!」
【りいこ】「それじゃあ、マスター! このまま森の方にいこ!」