Track 2

音集めの始まり / 關門海峡人道

;しろがねの足元はブーツ、マスターの足音いれるならスニーカー ;1/前 (マイクに背中向き。天井見ながら) 【しろがね】「關門海峡トンネル……しろがねとマスターの仕事場所」 ;環境音 F.I. 関門海峡人道 ;1/前 (マイクに背中、きょろきょろ) 【しろがね】「だけど、ここは初めてですね。 いつもと同じ海を渡る、けれどもいつもと全然違う、小さなトンネル―― 『關門海峡人道(-じんどう)』」 ;1/前 (振り返ってマイク向き) 【しろがね】「門次港から下關まで。全長わずかに780メートル。 マスターとしろがねがいつも走る、片道約3600メートルの、ほんの7.5分の1の距離」 【しろがね】「だけど多分、渡りきるまでに今までで一番長い時間がかかるトンネル―― 海峡を歩いてわたるのなんてはじめて。ワクワクしますし、とってもうれしい」 【しろがね】「ありがとうございます、マスター。しろがねの希望を聞いてくれて―― 關門海峡線沿線の音探しの一番最初に、どんな音がするのかさっぱり見当もつかないここに―― 關門海峡人道に、しろがねと一緒に訪れてくれて」 【しろがね】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)……あー、ここを候補にあげたのは、ほんの思いつきなんです。 思いつき……っていうか……『チャンス』って思ったのかもしれません」 【しろがね】「音探しだなんて言われても――どこへいけばいいのか正直、検討もつかないから―― えへへ。せっかくなんだしって、すずしろが前からずーっと来てみたかった場所の名前をあげてみたいんです」 【しろがね】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――そうなんですね。 日ノ本(ひのもと)に、徒歩で歩ける海底トンネルは五ヶ所ある。けど……(呼吸音)(呼吸音)」 【しろがね】「……本州と九洲、ふたつの島をつないでいる、ふたつの県にまたがるトンネルで、人が歩いてわたれるものは日ノ本でもここにしかない。 ……だから、ここの音が少しでも耳にここちよければ、『沿線ならではの音』として、自信をもって推薦できる」 【しろがね】「(嬉しい&感心の吐息) そこまで考えて、音探しする最初の場所を、ここに決めてくださったんですね。 さすがはマスターです。 しろがね、うれしくてほっとします」 【しろがね】「マスターのおかげで、単なるわがままじゃなしに。關門海峡人道を歩けることになりました。 うふふっ――きっと紹介につなげられるよう、しろがねも、聴覚センサの感度を澄ませて、一生懸命注意しながら歩きますね」 【しろがね】「それじゃあ……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ええと、マスター。 しろがね、最初の一歩は、いっせーので、マスターと一緒に踏み出したいです」 ;SE しろがね足音→ターン ;3/右 【しろがね】「(呼吸音)(呼吸音)――じゃ、いきましょう。 いっせーの!」 $ SE トンネル内の靴音一歩 【しろがね】「……えへへ。ただ足を踏み出しただけなのに嬉しいです。 關門海峡人道の中――ってことは、ここはもうきっと、海底なんですよね。 そうして、ここから――いきましょう、マスター」 ;SE 海底トンネル歩く足音(継続) 【しろがね】「……トンネルの中間点までは、一歩進んでいくごとに、どんどん陸地が遠くなる……。 すごく、不思議な気持ちです――(呼吸音)(呼吸音)―― いっつもマスターとEF10(うちのこ)を走らせてるときは、全然思ったことがないのに……」 【しろがね】「(呼吸音)(呼吸音)――自分の足で歩いていると、ちょっとおっかないみたいな気がします。 おっかなくって……だけどおっかないだけじゃなくって、わくわくもして」 【しろがね】「(吐息)……海底50メートルなんですよね、このトンネル。なのに、不思議です。自動車――エアクラ自動車の走行音が聞こえるような気がして……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――え!? ああ、そうなんですか」 【しろがね】「トンネルの中が上下に分割されてて、上側が自動車道になっていて、下側が人道…… いまマスターとしろがねが歩いてるとことして使われている」 【しろがね】「あー……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――じゃあ、この天井の真上は、海で魚がおよいでるとかじゃなくって、自動車が走ってるだけなんですね」 【しろがね】「それは……ちょっとだけ残念です。トンネルのまわり全部をぐーっって、お魚さんたちが泳いでるのかと、しろがねなんとなく思ってました」 【しろがね】「けど……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ふふっ、これはこれで面白いです。 しろがね、頭のすぐ上を自動車に走られるのもはじめてです。 あ! 自動車に乗ってる人たちの方が、うふふふっ! もっとおもしろいかもですね」 【しろがね】「だって、海底50メートルの海の中を走ってるのに、アクセルを踏み込む足のすぐ下には、生身の人間が――おまけに今日はレイルロオドまで、歩いてるんですよ?」 【しろがね】「それですぐ上と横にはきっと、たくさんの魚たち。 それってすごく――(呼吸音)(呼吸音)――ですよね、よく考えたらすごく現実ばなれしてる―― ファンタジーですよね」 【しろがね】「通勤とかで毎日このトンネルを走ってる人たちは、その不思議さとか凄さにきっと慣れちゃって――(呼吸音)――って、あ、そうですね。しろがねたちもだ」 【しろがね】「關門海峡線で客車や貨車を牽引してるときは――うん。しろがね、トンネルの外のことなんて、っていうか――線路の上以外のことだなんて、まったく想像も考えもしてませんでした」 【しろがね】「でも、しろがねたちのEF10(いーえふとお)は……本当は毎日毎日、たくさんのお魚さんたちに囲まれたトンネルの中を走ってる―― もうそんなの、ファンタジーっていうよりメルヒェン。絵本の中の景色ですよね」 【しろがね】「絵本になってる機関車とレイルロオドって、そこそこいるじゃないですか。 しろがね、本読むの好きだから、そういうこたちのことうらやましいなって、ほんのちょっとだけ思ってたんですけど」 【しろがね】「うふふっ、全然気がついていませんでした。マスターとしろがねの毎日の方が、絵本よりももっと絵本っぽい世界の中にあるだなんてこと」 【しろがね】「……毎日のこと。日常って、もしかしたら全部そんな感じなのかもしれないですね。 こう……ふだんの生活っていうトンネルの中にしか、注意も意識もいかなくって。 そのトンネルの外側のこと、全然想像……しようとも思わなくって」 【しろがね】「けど、トンネルの――日常を一歩外れた世界にはきっと――(呼吸音)――あ」 ;SE stop 【しろがね】「うふふ。いつもとは違うこのトンネルの中でなら、 日常ではなかなか意識できない一歩、踏み出せちゃうんですね」 ;SE 足音、一歩 ;1/前 【しろがね】「えへへっ、今度はしろがね。マスターより先に一歩踏み出しちゃいました。 マスター、手、伸ばしてもらってもいいですか」 ;SE 伸ばしてもらった手を受け取って、つなぐ 【しろがね】「マスターが副丘県(ふくおかけん)。九洲。しろがねが邪馬口県(やまぐちけん)。本洲。 つないだ手と手がちょうど県境で、ふたつの島の、境目」 【しろがね】「しろがね、すごくわくわくしてます。面白い。 いっつもくぐってるトンネルのすぐちかくに、おとなりのトンネルの中に、こんなに不思議な体験をできる場所があるだなんて」 【しろがね】「マスター、来てください。境を超えて、またしろがねのおとなりに」 ;SE 一歩 ;3/右 【しろがね】「マスター! ようこそ本洲へ! なーんて、ふふっ」 【しろがね】「ここから先は、もう邪馬口県……下關市(しものせきし)なんですね。 下關にも『關門海峡線らしい』とこ、結構ありますよね。 音も――うん、多分、ならではじゃないかなぁって気がしますし」 【しろがね】「マスター、足がつかれたりしてないですか? (呼吸音)(呼吸音)――あ、全然平気ならよかったです」 【しろがね】「それじゃあ、人道の出口に向けて、下關の中にむかって。うふふっ!」 【しろがね】「出発! 進行!!!」 ;足音強く大きく一歩(リバーブたっぷり系?) ;環境音 F.O.