Track 3

いいお湯ですねぇ

(男、脱衣後にかけ湯をしてから湯に入り、かなでを待つ) んっ…ふぅ…。 では…私もタオルのままですが…、お隣、失礼しますね…。 ん、ふぅ~……。 …いいお湯ですねぇ…。静かで、景色もよくて、落ち着きます。 湯船も、しっかりと作ってあるんですね。 近くから、角の丸い石を集めてきて、くみ上げたのでしょうか。 一人でここまで作れるものなんですねぇ。 あちらの湧き出し口から出てきた温泉のお湯が、循環して、そちらから流れていく。 人がいなくても、綺麗に保たれる仕組みができているんですねぇ。 (男:葉っぱは浮かんでるけどね) …? えぇ、まぁ、端っこに少し落ち葉が浮かんでいますが、 それはそれで風情があるというものですよ。 ふふ、これからこの場所を独り占めできるなんて、うらやましいです。 あ、一人とは限りませんか。 他のかたと一緒に、このあたりを管理されるのですか? (男:いや、一人で) あぁ、お一人で。ふふ、やっぱり独り占めなんですね。 (男:君も、いつでも来ていいよ) え、私も自由に来ていいんですかっ? 嬉しいですけど、んー、考えておきます。 ふぅ…。 …景色が遠くまで綺麗ですねぇ…。 近くの山は、緑が青々と茂ってますけど、 遠くに行くほど、白っぽく、薄い色に見えるようになるんですね…。 空も澄み渡っていて…。 こういう景色、上手く言えませんけど、いいなぁって思います。 街で暮らしていると、こういう景色を見る機会、あまりないですから、 なおさらそう思うんでしょうね。 ふぅ…。 人のいない、こんな山奥で、普通だったらちょっと心細くなりそうですけど、 ここは暖かくて、不思議と安心感がありますねぇ。ふふっ。 …。 あの…今更ですけど、今日のことは誰にも秘密にしてくださいね。 男の人と混浴したなんて親に知られたら、どれだけ叱られるか…。 (男:親は厳しいの?) …ええ、お父様もお母様も、かなり厳しいんです。 私の家は、なんというか…地元では少し有名なんです。 家…というか、屋敷自体も大きいのですが、そういうことではなくて、 先祖代々、ずっと地域に貢献してきた、由緒ある家なんです。 まぁ、私もしっかりとはわかってないのですけど…。 それで、そういう家だから、うちにいるときは、立ち振る舞いや言葉づかいを 厳しく指導されたりするんです。 ”品行方正でいなければいけない”って。 あ、すみません、勝手にしゃべってしまって。 こんなこと、聞きたくないですよね。 (男:聞いてみたい) そ、そうですか? ではもう少し続けますが…。 その…お父様もお母様も、私のためを思って厳しくしてくれてるのはわかってるんです。 でも、クラスメートと話していても、 みんな、家ではもっと自由に過ごしているようですし…。 そういう普通の家に生まれていたら、どんな生活だったんだろうって、 ときどき考えます。 私、放課後に、普通に友達と遊んだりもできないんですよ? 信じられます? 私、学校の行き帰りは、車で送り迎えなんです。 過保護というものですよ。 あ、あの、自慢してるわけではないですからね。 ただ、こういうことを誰かに相談したことがなかったので、 ちょっと熱くなってしまいました。すみません…。 (男:全然いいよ) ふふ、ありがとうございます。 …はぁ、なんだか私、変な感じです。 すみません、出会ったばかりなのに、こんなにしゃべってしまって。 私、普段はもっと静かなんですよ? おとなしい子だ、ってよく言われるんです。 自分でもそうだと思ってたんですが…。 貴方の前では、なぜだか気が緩んでしまいます。ふふっ…。 いえ、この温泉が心地よすぎるんです。きっとそのせいです。