5.エピローグ
リサ「お兄さん。忘れ物はありませんか?」
リト「リトたちはお届けできませんので、お気をつけください」
リサ「最初、リサたちと出会ったときのことを、覚えていますか?」
リト「あの森が、世界の揺らぎが起こる場所です」
リサ「村を出て、まっすぐ歩いて……そこに向かってください」
リト「そうすれば、問題なく、お兄さんの世界に戻ることができると思います」
リサ「それから……〝すまーとふぉん〟の表示で分かるように、この世界とお兄さんの世界では、時間の流れが異なっています」
リト「こちらの世界では一週間が過ぎましたが……お兄さんの世界では、おそらく一時間も経っていないのではないかと思います」
リサ「混乱されないように、お気を付けください」
リト「……改めまして、ありがとうございました。お兄さん」
リサ「短い間でしたが……とても。とても、有意義な時間でした」
リト「楽しかった……。……幸せだった、と思っています」
リサ「よかったら。お兄さんも、リサたちが妊娠できるように……願ってくださると、嬉しいです」
リト「…………」
リサ「…………」
リト「では。リトたちは、ここまでで」
リサ「これ以上は、〝揺らぎ〟に巻き込まれてしまいますので」
リト「……はい?」
リサ「……ありがとうございます。思っていても伝わるのに……わざわざ、口に出していただけるなんて」
リト「そのお言葉。種族も文化も、世界すら違うリトたちに、かけていただく言葉として……何より、素敵なものなのだと思います」
リサ「心より嬉しく思います。ですが……」
リト「……リトたちは。ここに、残ります」
リサ「でも……ご理解いただきたいのは」
リト「決して、お兄さんのことが、嫌いだからではありません」
リサ「叶うことならば……ずっと一緒にいたいとも思います」
リト「ですが……リトたちは、リトたちで」
リサ「お兄さんは、お兄さんです」
リト「本来なら……決して、交わってはいけないものです」
リサ「ですから……。お互いの世界で、生きていきましょう」
リト「ああ。でも……」
リサ「お兄さん……」
リト「……ちゅっ」
リサ「……ちゅっ」
リサ「お兄さんがくれた。〝好き〟という気持ちを……」
リト「リトたちは、忘れることはないと思います」
リサ「ですから……」
リト「……お兄さんも」
リサ「どうか、リサたちのことを」
リト「心にとどめておいて、ください……」
リサ「さようなら」
リト「お元気で……」
***
リサ「こんにちは。お兄さん」
リト「こんにちは。お兄さん」
リサ「何かお困りでしょうか?」
リト「ひょっとして……道に、迷われたのでは……ない……」
リサ「ま、まさか……。あなたは……」
リト「お……おにい、さん……?」
リサ「ど、どうして……。確かに、元の世界に戻ったはず……では……?」
リト「そんなことが……起こるわけ……」
リサ「戻ってから……この世界のことを、探していた……のですか?」
リト「でも……だからといって、もう一度来られるわけが……」
リサ「……まさか。この世界と……縁が、結ばれた……ということ、なのでしょうか……」
リト「確かに……。リトたちは……祈っていました」
リサ「お兄さんのことを、あれから、ずっと考えていました」
リト「好きという気持ちについて……思っていました」
リサ「結局……あれから二人とも、妊娠はできなかったのですが……」
リト「また、迷い人が、この村にやってきても……」
リサ「その人と、子作りする気にはなれなくて……担当を、断り続けて……」
リト「その代わりに、お兄さんのことを、考え続けていました……」
リサ「だから……」
リト「…………」
リト「お兄さん。おかえりなさい」
リサ「また会えて……とても、嬉しいです」
リト「あぁ。今なら……本当に。心から、この言葉の意味が分かります」
リサ「はっきりと、お伝えすることができます……」
リト「お兄さん。リトと……」
リサ「リサは。お兄さんのことが……」
リト「大好きです」
リサ「大好きです」