Track 8

3-5-第5章のシナリオ【ツンデレエンド】

第5章・ユズハの気持ち【ツンデレエンド】 --------------------------------------------------------- 〔あなた〕が目覚める(めざめる)と〔あなた〕はユズハのベッドの上に寝かされていました。 〔あなた〕は慌てて起き上がりましたがユズハはどこにもいませんでした。 〔あなた〕は小さい子供の時に頻繁にユズハの家に遊びに行ったことがありました。ですが、ここ数年、ユズハに誘われても何かしらの理由をつけてユズハの誘いを断ってきましたので、〔あなた〕がユズハの部屋に入るのは久しぶりでした。 〔あなた〕はそのことを思い出し、改めてユズハの部屋を見回すと本棚には、ユズハが小さい時に大切にしていた、数々のぬいぐるみが今でも同じ場所に置かれていました。ユズハがお気に入りだったアニメの変身ヒロインの人形にはドライフラワーにした四葉のクローバーで編んだ首飾りがかけられていました。 部屋に置いてある品物や部屋全体のレイアウトや装飾を見ると、〔あなた〕にはユズハの部屋は彼女が小さかった子供の頃とあまり変わりがないように思えました。 〔あなた〕がユズハの部屋を眺めて(ながめて)いると部屋の外で誰かが誰かに話をしている声が聞こえました。〔あなた〕が耳をすませてみるとユズハとミサキが会話をしているようでした。 〔あなた〕は二人の会話が気になり、ドアの方に近づこうとすると、会話が途切れて足音が聞こえました。そして、突然、部屋のドアが開き、ユズハが帰って来ました。 ユズハはシャワーを浴びたらしく、シャンプーやトリートメントの良い香りを漂わせていました。彼女は大人っぽい感じの黒のフリルブラウスと真っ赤なレザーのミニスカートから、少女趣味が漂うアイボリーのワンピースに着替えていました。ユズハのワンピース姿を見た〔あなた〕は彼女が小さい時にすごく気に入っていた大きなフリルが付いた白いワンピースのことを思い出しました。 ユズハは〔あなた〕を見て呆れたフリをして言いました。 「やっと目を覚ましたようね。お前が私の部屋に入ったのは久しぶりだと言うのに、よくもまあ、私のベッドを使って何時間も熟睡できると思うわ。そんな隙だらけだから、お前は簡単に女に騙されるのよ。」 「ところで、さっきミサキに会ったけど、あの娘(こ)、何だかお前に謝りたいことがあるみたいよ。行ってあげたらどうなの。」 〔あなた〕はミサキのことが気になり服装を整えて、ユズハに挨拶をして部屋から出て行こうとしましたが、ユズハに呼び止められました。 「待ちなさい。今すぐこの部屋から出て行っていいとは言っていないわ。前からお前には話しておきたいことがあったのよ。」 ユズハは真剣な表情をして〔あなた〕に言いました。 「私も、それとお前やミサキも小さい子供ではないし、私達三人の関係もすっかり変わってしまったわ。お前にもわかるわよね。」 「私もミサキももうあの頃のような気持ちを取り戻すことはできない。だけど、お前は子供の時と全く変わらない…」 〔あなた〕はユズハが何を言おうとしているのかをわかりませんでした。〔あなた〕がユズハの言葉の意味を考えていると、ユズハは下を向き辛そうな様子で搾り出すように言葉を発しました。 「私は…お前とミサキを…利用しているわ。」 「私はミサキを雇わないこともできたけどそうしなかった…お前とミサキのためを思って二人をこの屋敷で働かせることにしたのだけれど…もしかしたら私は初めからミサキを利用するために雇ったのかもしれない…自分でも本当の気持ちがわからなくなっているわ…」 「それと…私だけではないのかもしれない。もしかすると、ミサキもお前を利用しているのかもしれない。お前も知っているように、あの娘(こ)はお母様の病気を直すためにお金がほしかったの。今は詳しく話すことはできないのだけれど、結果的にミサキは私にお前の『初めて』を売ったことになるのよ。」 「誰でも他人を利用したり利用されたりしているの。だって、そうしないと生きていけないんですもの。」 ユズハはまた真剣な眼差し(まなざし)で〔あなた〕を見て言いました。 「だから、お前ももっと利口になりなさい。そうしないとまた今日みたいなことになってしまうわよ。」 〔あなた〕はユズハを見ながら少し考えてから言いました。 「せっかくのお言葉ですが、僕はユズハ様にもミサキにも利用されたと思ったことはこれまでに一度もありませんでした。」 〔あなた〕の言葉を聞いたユズハは一瞬ハッとさせられたような表情をした後、顔を赤くして下を向き、はかみながら言いました。 「ば、バッカじゃないの。もしかして格好いいことを言ったつもりなのかしら。それともただのやせ我慢かしら。」 「それよりもお前は私の専属にはなることを本気で考えなさい。私の専属になれば、お前は私の学校でのサポート役としての名分(めいぶん)を得て私の通っている紅陽台学園(こうようだいがくえん)に進学できるわ。それに私の専属の方が園丁よりずっと高いお給料がもらえるのよ。」 「お前は同級生とは一年遅れの入学になるけどお前の学力ならすぐに飛び級して私と同学年になれるはずよ。」 〔あなた〕はユズハの提案にどのように回答すべきか考えているとユズハが不満そうに言いました。 「なによ、そんなに私の専属になるのが嫌なの。もう二度とあんなことはしないから安心してちょうだい。それにそんなに私のことが嫌いなら学校から帰ったら庭弄りでもしていればいいわ。」 ユズハはそう言い終えると、少し寂しそうな表情をして俯き(うつむき)ました。 暫く(しばらく)沈黙していた〔あなた〕は言葉を選びながら言いました。 「ユズハ様がそのように考えてくださっていたことには大変感謝しています。ただ…」 ユズハが〔あなた〕の言葉を遮って(さえぎって)言いました。 「わかっているわよ。ミサキのことでしょ。」 「確かにミサキも私の専属にして学園に通わせるのは難しいと思うわ。お前も私のお父様を知っているでしょ。あの人はお金を持っているとか学歴とか、表面的なことで人間を判断するタイプの人間よ。」 「だから、ミサキの学力ではあの娘(こ)も私のサポート役として学園に通わせるのはお父様が納得なさらないわ。でも何かうまい手があるはずよ。それを私とお前で考えるのよ。」 〔あなた〕はユズハの真摯(しんし)な態度を目の当たり(まのあたり)にして彼女が真剣に〔あなた〕やミサキの将来を案じていることがわかりました。〔あなた〕はユズハに対してお礼を言いました。 「色々とお気遣いいただきましてありがとうございます。僕もユズハ様のお言葉に従います。」 ユズハはホッとした表情をして言いました。 「もう、最初から素直にそう言えばいいのよ。本当にお前には手を焼かされるわ。お前に何かさせるには結局ミサキの名前を出すことになるのよね。」 「今日だけで私がお前に何回ミサキの名前を言わされるはめになったかわかっているの?」 〔あなた〕は苦笑い(にがわらい)しながら言いました。 「そ、そうですね。どうもすみません、ユズハ様。へへへ。」 ユズハは顔を赤らめてもじもじしながら言いました。 「この写真、覚えてる?ミサキのお母様が撮影したのよ。」 ユズハが差し出した写真には小さい頃の〔あなた〕がユズハの頭の上に四葉のクローバーで作ったティアラを乗せている瞬間が写っていました。〔あなた〕はその写真を見た時〔あなた〕の頭の中に小さい時の記憶が走馬灯のように駆け巡りました。 〔あなた〕が幼かった時に四葉のクローバーは幸福をもたらすと聞いたことがあり、ユズハの誕生日にそれをプレゼントしようと思い2、3ヶ月かけて10枚くらいの四葉のクローバーを見つけました。 そして、〔あなた〕はそのクローバーをミサキに渡してティアラを作ってもらいました。 この写真はユズハの誕生日にミサキの母親が公園で撮影した〔あなた〕とユズハのツーショット写真でした。 小さい頃のユズハはミサキの母親にとても馴染んでいました。ミサキの母親もユズハの家庭環境を知っており彼女に対してとても親切に接していました。そのような経緯からユズハは病床のミサキの母親を今でも気にかけていました。 〔あなた〕が小さかった頃、ユズハの気持ちを知っていたミサキの母親はこのツーショット写真を〔あなた〕やミサキにはわたさずにユズハにだけ与えていました。 ユズハは〔あなた〕がこの写真を見て小さかった日の思い出に浸っていることを察して彼女は少し照れながら〔あなた〕に頼みごとをしました。 「ねぇ、私とお前のツーショット写真はこれ一枚だけなの。この一枚にはいっぱいの思い出が詰まっていて私にとってすごく大切なものだけれども…」 「私は今のお前とのツーショット写真もほしいわ…」 いつの間にか〔あなた〕のシャツの袖の先っちょを掴んでいたユズハは少し火照った(ほてった)様子でウルウルした目をしながら〔あなた〕を見上げていました。真っ直ぐに〔あなた〕を見つめるユズハと目が合った〔あなた〕は少し恥ずかしくなって反射的に視線を逸らせて(そらせて)しまいました。 〔あなた〕から見ると数時間前のユズハと今のユズハは別人でした。でも、今のユズハの方が〔あなた〕が小さい頃から知っているユズハでした。〔あなた〕が小さい時ユズハはすぐに何でも〔あなた〕にオネダリしていました。ユズハにとっては甘えることが最大の愛情表現だったのです。彼女は〔あなた〕にとって彼女自身が一番大切な存在であることを〔あなた〕に常に証明してほしかったのです。 〔あなた〕は暫く考えました。ユズハが求めているのは〔あなた〕とツーショット写真を撮影することだけではありませんでした。 ユズハは最初ミサキに遠慮して、また、自分では〔あなた〕の心を掴めないと思って、〔あなた〕とは体だけの関係にしようと思っていました。ですが、ユズハは〔あなた〕からミサキと肉体関係がないことを聞いてしまったので彼女は欲張りになり、〔あなた〕の体だけでは満足できなくなりました。 〔あなた〕はユズハの心情を察して慎重に受け答えをしないと、ユズハかミサキのどちらか、あるいは両者ともに傷つけてしまうかもしれませんでした。 少しの間、目を閉じて考えた〔あなた〕はユズハに言いました。 「もちろん僕もユズハ様とのツーショット写真がほしいです。」 「ただ、今後、ユズハ様の身に何か問題が発生したり、困ったりしたことがあったら、僕に相談していただけないでしょうか。僕に話しにくいことでしたらミサキにご相談くださいませんか。」 〔あなた〕の言ったことは現段階で〔あなた〕がユズハに保障出来る最大限の誠意でした。 〔あなた〕の回答を聞いたユズハは頬を膨らませて不機嫌そうな表情をして言いました。 「ねぇ、お前、私の左手を見て。」 〔あなた〕がユズハの言うとおりに彼女の左手を見ると彼女は左手に彼女愛用のスマートフォンを持っていました。そして、〔あなた〕がユズハのスマホを見た瞬間、彼女は右手でVサインを作り〔あなた〕に体を密着させてから写メを撮影しました。 それから、ユズハは〔あなた〕を突き飛ばすようにして〔あなた〕から離れてゆき言いました。 「お前、いつから私に説教できる立場になったのかしら。やはりお前のような分別を弁えない(わきまえない)使用人に甘い顔を見せてはだめね。」 ユズハはスマホを操作してさっき撮影した写メを待受けにしました。そして、彼女は笑顔で〔あなた〕に待受けを見せながら言いました。 「これを見なさい。私とお前とのツーショット写真よ。今日はこの写真で我慢してあげるから感謝しなさい、ふふふ。」 「それにしても、こんなに私に体を密着させちゃって、お前は本当にいやらしい子ね。この写真をお父様に見せたらどうなるかしら。屋敷を追い出されるだけで済めば良いのだけれど、ふふふ。」 〔あなた〕は久しぶりにユズハの明るい笑顔を見たような気がして安心しました。 そして、〔あなた〕は以前のように〔あなた〕とユズハとミサキが一緒に仲良く楽しい時間を過ごすことができるようになれるかもしれないと思いました。 --------------------------------------------------------- <「第5章・ユズハの気持ち【ツンデレエンド】」おしまい>