【海宮の癒し:四方四季(しほうしき)の庭】
この海宮の中心から、
東(とう)、西(ざい)、南(なん)、北(ぼく)、それぞれに趣(おもむき)の異なる庭があるのが見えると思います。
よくご覧になりますと、
その趣は絶対にありえないのですが……どうやら、お気づきでございますね。
春夏秋冬、それぞれの旬を彩る花木(はなき)が同じ空間に存在するという現実。
造花でない限り、こんな事はありえません。
ありえない事なのでございますが……正真正銘、全ての花木はみずみずしく元気に生きております。
このありえない趣を実現しますのが、海宮の「四方四季」の庭。
時に縛られる事なく、四つの季節を同時に愛(め)で楽しむことが可能な、海宮自慢の庭でございます。
東は、春の庭。
咲き乱れるは、梅、椿、桜、すずらん。
(春的BGM)
南は、夏の庭。
咲きこぼれるは、紫陽花、朝顔、ひまわり。
(夏的BGM)
西は、秋の庭。
咲き揃うは、彼岸花、菊、秋桜(こすもす)、金木犀。
(秋的BGM)
北は、冬の庭。
咲き誇るは、シクラメン、水仙。
(冬的BGM)
四季の千紫万紅(せんしばんこう)が一同に介した、見事なまでの花鳥風月。
圧巻の一言でございます。
人と接するには春のように暖かい心で。
仕事をするには夏のように燃える心で。
物思うときは秋のように澄んだ心で。
己を責めるときは冬のように厳しい心で。
貴方様の国では、四季と心をこうして結びつけておりますが、大変すばらしい言葉だと思います。
四季の花木を存分に味わい、 心を穏やかにした所で、次。
次は海宮で一番高い所にあるお部屋へ案内致します。
(歩く)
四方四季の庭の回廊を進み、
突き当りにある階段を…登った所にございます…。
(階段:SE)
この部屋こそ、四季の源。時と空間の起源。
わかりやすく言いますと、時の流れが特に緩(ゆる)やかな部屋…でしょうか。
海宮の「約束された永遠」の秘密であり、私が普段住んでいる部屋でもございます。
海宮の一番高い所にある事で、四方四季のような庭を存在させ、私達にも変わらぬ美をもたらします。
先に四方四季の庭をご覧になっていなければ、到底信じていただけないお話でしょうか。
大仰にお話ししましたが、特に心配することは何一つございません。
ささ、どうぞ、お入り下さいませ。
(扉:開SE)
こちらにお招きしてから歩きづめでございましたね…。
まずは、一服致しましょうか。
すぐに用意致しますので、貝の椅子にお座りになってお待ち下さいませ。
(湯のみを置く)
お待たせしました。
こちらは、
海宮で舞い踊る昆布を秘伝のたれでじっくり煮込み、
一枚一枚丁寧に乾燥させ塩をなじませたものを、こうして、お湯で戻していただく…。
海宮自慢の昆布茶でございます。
昆布はミネラルも豊富ですし、お体にも大変よいのでございますが、
何より、美味しい。
これに尽きます♪
どうぞ、お召し上がり下さいませ。
(お茶飲み:3分:ふぅふぅいわせながら)
体の中に入った…熱い昆布茶が、じんわり。
じんわりと、貴方様の体の中から温めていきます。
喉からお腹にかけて、じんわり…。
心地のよい熱が、体の中から広がっていきます。
じんわり、じわ…じわ…。
体の中心から、腰…、ふともも…、ふくらはぎ…、足の指。
喉からお腹にかけて、じんわり…。
気持のよい熱が、体の中から広がっていきます。
じんわり、じわ…じわ…。
体の中心から、胸…、脇…、二の腕…、手の指。
じんわり、じわ…じわ。
じんわり、じわ…じわ。
体を横にして、心地よさに身を任せて下さい。
じんわり、じわじわ。
じんわり、じわじわ。
体を横にして、気持ちよさに身を任せて下さい。
お気づきになりましたか?
最後の一滴まで、お茶の温度が変わらずにいた事を…。
それこそ、時の流れが緩やかという証拠…。
その…緩やかな時が、貴方様を変えていきます。
(BGM:始)
(ゆっくり)
昨日までの、貴方様の体を、変えていきます。
緩やかに広がる暖かさに、体が…じんわり。
緩やかに続く心地よさに、ほぐれていきます。
昨日までの現実を忘れるように、とろけていきます。
昨日までの現実から、さようなら。
時から、体が解放されて、仕切り直されていきます。
今風に言い変えますと…リセットですね…。
からくり機械のようにリセットで調子が戻ります。
緩やかな時が、貴方様を変えます。
昨日までの、貴方様の心も、変えていきます。
緩やかに広がる暖かさに、心が…じんわり。
緩やかに続く気持ちよさに、ほぐれていきます。
昨日までの緊張を忘れるように、とろけていきます。
昨日までの緊張から、さようなら。
時から、心が解放されて、リセットされていきます。
からくり機械のようにリセットで調子が戻ります。
緩やかな時の中、
ただ、心地いい。
ただただ、心地いい。
心の疲れは火が消えるように鎮まっていきます。
緩やかな時の中、
ただ、気持ちいい。
ただただ、気持ちいい。
心の疲れは煙のように消えてなくなっていきます。
あるのは心地よさだけ。
それが、たまらない。
時を忘れてしまいます。