05_むっ? 飴を耳元で舐めろとな? か、構わぬが……何故?(20:38)
「……」
「……んっ……んんっ……ふぁっ……ふわぁ~……」
「……んーっ……んーっ……んっ!? い、いかんいかん……いかんのじゃ……女子の隣で横なり子守歌を唄うという幸福感についウトウトと……」
「……はっ!! わ、妾は寝入ってしまったが……寝かし付けは……」
「……」
「ぐ、ぐぬぬ……しかと起きておるのじゃな……何ということじゃ……」
「しかも……寝顔を見るつもりが……うっかり寝顔を見られてしまうなど……一生の不覚である」
「妾の寝顔など……なかなか見られるものではないので有難く胸に留めておくと良いのじゃ」
「もし寝顔を写真とやらに撮っておるのであれば……有難く待ち受け画像にでもするとよい。妾、寝顔にも多少の自信があったりなかったりするでの、ふははっ」
「……」
「……しかし、妾、とんと困り果ててしもうたのである。先刻の子守歌は……妾自身が寝入ってしまうほどに入眠効果の高い寝かし付けであったのじゃが……」
「……うーむ……しかし、子守歌で寝付かないとなると……流石の妾でも、どうして寝かし付けてくれようぞとなってしまうのだが……」
「……思いきり身体を動かして汗をかいてしまえば……くたくたとなって自然と寝付けるかもしれぬが……」
「……さ、さすがにそれは……ま、まずかろう……妾にも心の準備があるのじゃ……」
「……」
「……まてよ? 心の準備が出来ていないのに流れで……というのも……それはそれで乙なのではなかろうか……」
「……最初は多少の抵抗があったのに……気付いたころには快楽に身を委ね、というようなことも……」
「……」
「…………」
「むっ? なんじゃなんじゃ、ごそごそと動き出して……ね、寝付けずに起きだしてしまおうと……言うわけではなさそうじゃが……」
「……」
「……むむっ? それは……なぜ枕元にそんなものがあるのじゃ……。なぜ、枕元に棒付きの飴など……」
「いかんぞ? 夜半となれば小腹も空いてくるというのはとてもわかりみが深いが……人間は虫歯になってしまうのであろう。それに肥えてしまうのじゃ」
「まあ、妾はすれんだあな女子からふくよかな女子まで、女子であれば須らく可愛らしいので問題無しなのじゃが……人間は気にするのであろう」
「しかし……妾、女子が飴やあいすきゃんでぃを舐めている姿、とても良きであるので……舐めるのであれば舐めると良い……」
「……」
「……むっ? どうしたのじゃ? 遠慮せずに妾の目の前で飴をぺろぺろぺろりと……」
「……」
「……むむむっ、これは予想外なのじゃが……その飴、妾にくれるというのか……?」
「……」
「……ふむ、寝かし付けに疲れているであろうと労いの意味を込めてというのであれば……その飴、受け取らねばなるまい」
「うむうむ、仕方ないので受け取るのじゃ。ほれほれ、妾、こうみえて結構甘いものとか好きだったりするからのー」
「……にょほほーっ♪ 飴じゃ、飴じゃー♪ 飴なんていつぶりだったかのぅ♪ しかも雨風を浴びて傷んだ飴ではない飴なんて……激レアなのじゃ♪」
「……」
「……こ、こほん。久しぶりの飴である。浮かれるのも仕方あるまい。レアなものを見られたと、有難がるが良いぞ」
「むふふっ……この色、この香り……これは妾の大好きな葡萄味であろう。どれどれ、封を切ったらすぐに舐めぬと鮮度が落ちてしまうので……」
「……」
「……な、なんじゃ、ただ舐めるだけではいかぬのか……? 寝かし付けを頑張っておる妾へのご褒美ではなかったのか……?」
「妾が飴を舐めている姿であれば思う存分眺めておって構わんのだが……」
「……」
「……ふ、ふむ? お主の耳元で飴を舐めろと申すのか。それは全くもって構わぬのじゃが……」
「……ふむふむ……ふむ……ふーむ……? 成程……なる……ほど……?」
「えーえす……えむあーる……というものじゃな、こういうのは。世の中には妾の知らぬ世界がまだまだ存在するのじゃなぁ……」
「では……どれ、背に腹は代えられぬし……もしかするとお主が寝入るかもしれぬので……」
「早速、飴……頂くとするのじゃ」
「ふむ、これは……美味い飴であるな。こう……新鮮である上に女子の近くで舐める飴は絶品なのじゃ」
「むっ、反対側の耳元でも舐めたほうが良かろうか」
「然しながら……やはり良くわからぬ趣向じゃのぅ」
「美味いのー……やはりこの時代の飴は最高なのじゃ……」
「やはり葡萄味は最高なのじゃ」
「……おお、忘れるところであった……あやうしあやうし」
「……そうさな……妾、この行為の良さは一切分からぬので……そのうち同じように妾の耳元で飴を舐めて貰おうかのー」
「しかし……葡萄味は旨いのじゃが……他の味も気になってしまうのじゃ……」
「……こう、次があれば……別な味も用意してくれてよいのじゃぞ……?」
「……イチゴ味やらメロン味やら……聞いたことはあるが口にしたことはないからのぅ」
「妾、新しいものも好むのでちょこれいと味とかも吝かではないのじゃぞ?」
「……き、気が向いたらで構わぬのじゃが、なっ」
「……むっ……もうなくなってしまうのか……残念じゃ……」
「……ううっ……飴がついになくなってしまったのじゃ……」
「やはり……楽しきときが過ぎるのはあっという間、ということなのじゃろうか……」
「……ふぅ、無くなってしまったものは仕方あるまい。妾もいつもより多めに嘗め回してしまったのが災いしたのじゃろう……」
「……しかし、美味い飴であった。妾、すっかり元気になったのである」
「……」
「……そして思い出したが……そういえば妾、お主を寝かし付けている途中であったのだった……」
「お主からの要望で耳元で飴を舐めたが……うむ、やはり眠っておらんかったようじゃな」
「……ま、まあ、飴を舐めている途中であーでもないこーでもないと妾が口走っていたのが煩くて眠れなかったのやもしれぬが……」
「うーむ、となると……どのようにして寝かし付ければ良いのか見当も付かなくなってくるのじゃ」
「妾、人を寝かし付けたこともなければ、寝かし付けられた記憶もないので……流石にどのようにすればよいのか悩んでしまうところじゃ」
「うーむ……寝かし付け……うーむ……」
「狐数え……寝かし付け小噺……子守歌……えーえすえむあーる……その他は……」
「……」
「ううむ……うーむ…………うーーーーむ…………」
「寝かし付け……寝かし付け……うーむ……ううむ……」