■トラック⑥『どうして貴方は、こんな私に、まだ優しくするんですか?』
あ…若旦那様
私、急いでおりますので失礼します。
あのっ…何か、話してくれてるみたいですが…聞こえません
それに、女将さんに言いつけられて、届けるものが…
本当にとても急ぎなので…行きますね
若旦那様…?
どうして、こちらに?
今夜は…大事なお客様が来るから、お座敷に、いるのでは…無かったですか?
ほら、裏方になど、いないで…早く、お戻りくださいませ。
若旦那様は、こんな場所にいる方では、ありません
ここ…煤だらけ、ですよ
…わ、私も、別の仕事があります
すぐに、行かないと、怒られてしまいますから…では、これで…
ん、お疲れ様です、では… っ!?
あ…あの、手を、離してくださいませんか?
私、ええと…まだ仕事中ですので…ここに、いるわけには、いかないの…ですが。
んぅ…んん…離して、くれない…
はあぁ…わかりました
逃げたりしませんので…お願いします
…それで、一体何の御用ですか?
お願いされても、私では多分…お役に立ちません。
どうぞ…他の、もっとできる者に、頼んでくださ…
ん、これを読めと?
ふぅ…いいえ、避けているわけでは…ありません。
ただ、本当に…その、仕事をしている、だけです
最近…お部屋に行かないのも、忙しいからです
…今日はもう、終わっているはずと…何故、若旦那様がそれを、知っているんですか?
働きすぎだなどと…そのような気遣い、必要…無いです
私たちは、雇い主と使用人…
それ以上の、特別な扱いは、しないでください
若旦那様であるあなたが、それでは…他の使用人に、し、示し?が付かないです。
特別だから…とは、何ですか?
…若旦那様、何か勘違いを、されているのではないですか?
確かに、私は若旦那様と体の関係を…何度か持ちました
でも、それだけです
何か、特別な扱いを要求したりなど…しません
私も、そのような割り切りくらい、ちゃんとできます。
そもそも…別に私はそういう…
例えば、恋人のような関係に、なりたいわけじゃ…ありません。
そ、それに…私などとしても、つまらなかった、でしょう?
上手にご奉仕ができるわけでもない、ただの、小娘です
どうしてもと言うなら…お仕事、としてまた…いえ…
せ、専門の女の人に、頼んでください。
私みたいに、愛想が無いわけでも…面倒でも、無いですし
綺麗でお上手で、会話だって、ちゃんと出来て…
その方が、楽しいと…思います、からっ…
あ、あの…今度は何を、書いているん、ですか?
もういいですよね?
私、そろそろ仕事に、戻らないと…
え…?
隠してることなんて…な、ないっ…無いです
本当に、あ…ありませ…やめてください、じっと…見ないで…
うぅ、ぐすっ…どうしてですか?
どうして、そんなに優しくして…くれるの、です?
これだけ嫌なこと言ったのに、嫌な態度取ったのに…
全然、怒ってる顔…してないじゃないですか
むしろ…逆
心配そうな顔してる。
その顔はだめです…本当にだめなんです
だって、だって…
我慢が…うぅ、はぁはぁ…えぐ、んんぅ…できなくなる
本当に、ぐす、あぅ…うぅ、困るんです。
今さら、もう、どうにもならないのに
嫌な子だって…あんなに優しくしてやったのに、
あまりにも恩知らずだって…思いましたよね?
愛想が無い… つまらない奴だって…
頷いてくださいっ
身勝手な女だ、もういらないと…
興味を無くしてもらえたら、楽だったのに…
…どうして…どうして貴方は、こんな私に、まだ優しくしようと、するんですか… っ
私なんかに…私、なんかに…うぅ、ひぅう…
やめてください。
これならいっそ、無関心も通り越して、嫌われた方がよかった…うぅ
本当に…もう、許してくださ…ぐす、ぐすっ…し、失礼します…!