Track 3

3.コール

......おい。お~い。起きて。先輩。起きろ。やあ。まったく、まさか寝ちまうとは思いませんでした。先輩、めちゃくちゃ寝ぼけてたよ。覚えてる?急にさ、隣にダランって寝転んだかと思ったら、私のこと抱きしめちゃって。何したと思います?......フフフ、言いません。言ってやるものか。ちなみに私も、グースカグースカしてる先輩に、色々しました。言いません。言ってやるものか。あのひとときは、全て私が墓まで持っていきます。残念でした。フフフ。今度私が寝ちゃったときは、先輩の好きにしていいから。ね?あ、すっかり長居しちゃってすみません。すごく楽しかった。満たされた。先輩も楽しかった?満たされた?......うん♪よかったよ。そろそろ帰らないと。ぬっ......!?んん?あ、ご、ごめん先輩。......やっぱり、お父さんからだ。なんだろう、......先輩。うん、ちょっと待ってて。 もしもし。どうしたの、お父さん。......私?今、先輩のおうち。いや、大丈夫だよ。うん。何かあったの。......うん......うん......、......えッ......?え、待って、それって、......、分かった。......返事は、その、......少しだけ、待っててほしいんだけど、いいかな。......うん、ありがとう。......ふぅうーー......。......ちょっと、ね。先輩。......前に話したの覚えてるかな。私、母がいないって。私が生まれてすぐ、逃げてしまった。......ひとじゃない、妖です。うん。それで、......母から父に......手紙が届いたらしい。......名前......?ええと......確か、......ヒゴロモ、だったかな。草とか花とかの妖だ、って、そういう話を昔......聞いたことがある気がする。母から手紙。内容は、......父と娘に、もう一度会いたい、って。ハハハ......随分と身勝手な話ですよね。今まで子育てを父に押しつけて、自分は尻尾撒いて逃げた癖にさ。父も......悩んでたみたい。そりゃそうだよね。でも、もし会う気があるなら......会いに行こう、って言われた。......はぁ......。私、どうすりゃいいかな。いや、先輩にそんな話、するべきじゃないのは分かってるんだけど。......ありがとう、先輩。私、母が嫌いで嫌いで仕方なかったよ。父は暴力をふるってきたりもしたけど、でも、それでも、私を育ててくれたし、最近は穏やかになってきたし、一番憎むべきは、母だと思ってた。でもね。先輩のお母さまと会って、話して、ああ、母親って、......やさしいんだな、温かいんだな、って、思ったりして。羨ましい、って......思った。自分の境遇を、初めて「不幸かもしれない」って思った。幸も不幸もなかった、平坦な道を歩いてきたつもりだったけど。先輩と出会って、ひとというものを知って、その区別がつくようになって。全てが幸せだ、って、こころから思ってた。......これが現実なんだね。それと向き合わなきゃいけない日がきたんだね。......うん。これから、父と話し合うよ。もし、会うことになれば......私も......。......先輩......?え、そんな、ダメです、ダメ、先輩、私の母は、ヒゴロモは、妖なんだぞ。ひとと妖が関わって、プラスになることは何もない。分かってる?以前、先輩を妖で取り囲んでしまった時があったでしょ。もう二度とあんなことしたくないって、本気で思ってるんです。先輩にもしものことがあったら、私......。......う、......確かにね、心強いよ?お前は私にとって、愛する者で、人生の支えで、先輩だから。お前にはお前の人生がある。私を助けて、損をするかもしれないよ。それでも......本当に......ついて来てくれるの?......分かった。あの、先輩。......、......ありがとう、ございます。本当、ありがとう。頼り切りすぎて、こんなのダメかもって思うけど、お前が一緒なら、私、すぐに答えが出せます。......母に、会います。でも、ね、ついて来てくれるのは嬉しいんだけど、途中まで、でもいいかな。一緒に行ってくれるだけで、私、頑張れるから。その先は、ひとりで行かせて。......うん。......ああ、私、先輩がいてくれてよかった。先輩の恋人でよかった。返事、今するね。うん。......もしもし、お父さん。あのね