3.最優の捌け口
......私。ヤビツだよ。うるさい喋るな黙って聴け。いや、......なんかさ、......お前、私の事、好きなんだろ。な?な?じゃあ言う事聞け。そしたら......まあ、前向きに考えてやるよ。......うわッ、何だその明るい声。......そ、そんなに......好きなの?......ぁ、そぅ......。あッ。ええと、ひとつ良い事思いついたんだ。お前、私のサンドバッグになってよ。......いや、物理的じゃなくて、精神的サンドバッグ。お前ならさ、私が普段どんだけストレス溜め込んでるか、分かるだろ?お前は良いよな。ぼっちだから、大して窮屈さも感じないだろうし。私はね、生ごみみたいな汚物に囲まれて生きてるわけ。じりじりじわじわ、足元から汚染されていく気分。たまらないだろ?つまり捌け口がないと、そのうち禿げます。ストレスでつるっぱげです。ほら、禿げていいの?そんな私をお前はまだ好きでいられるの?んー?......えっ、......ぅ、あ。ふーん......いやダメだよ私は禿げたくないし!とにかくさッ、今日からさ、サンドバッグになれよ、いいな!......よし!さっそくだけど、図書室!も~~あの図書委員ほんっとクソ!なんであんな女が図書委員やってんの?管理ずさんすぎんだよ!......っさいな。お前に言っても仕方ないけど、これで私はスカッとするの。だから......、......お、おお、そうだよな。お前もそう思うよな。あいつほんとクソだよね。ブスのくせに可愛い子ぶってるし。ジャンケンになるくらいなら、他の委員先に選べっての。は?私はそういうのやりたくないもん......。図書室のあのスペースで、じっと静かに本を読みたいんだよ。ああそういえば、まだお前にその事、文句言ってなかったっけ。私のフェイバリット・スペース奪いやがってさ。何様のつもりだよ?......今回は大目に見てやる。次回から許可制だからな。ちゃぁんと私に断り入れてよね。ま、絶対に許可下ろさないけど。......フフッ。バァーカ。バァカバァカ。......え?ぁ、......別に、おかしいから笑っただけ。あんまりお前が惨めで滑稽で、どうしようもなく笑うしかなかったの。おい、......図に乗るなよ?えっなに?まさかもう恋人気取りなの?はんッ......これだから童貞は困っちゃうなぁ。勘違いカワイソ~。あのね。お前と。私は。今は主従関係みたいなもの。分かる?分かるよね。そりゃあ、互いが互いの弱味......というか、秘密を握り合っちゃいるけど、私はあれだぞ、やろうと思えば、お前のイヤ~な噂をクラスにばらまけるんだ。スクールカーストそこそこのヤビツさんですよ?ほら、ひとの口に戸は立てられぬ、って、誰でも知ってる言葉あるよね?誰でも知ってるってのは、それだけ皆に使われてるって事。つーまーり。ちょこっと耳打ちすれば、一気に噂......広まっちゃうよ?怖いだろ?ただのぼっちだったお前が、一瞬でいじめられっ子になるんだぞ。......、......少しは怖がれよ。何でそんな平然としてられるのさ。――なッ......う、嘘じゃないし。やればできるし。本当にやってやろうか?......うぐ、何だよお前、やけに強気じゃんか......。どうして、私がそれを絶対しないって......言い切れるんだよ......。んぅ......?......、......!あっそ!馬鹿か?知ったような口きくなッ。私の本性を曝け出したくらいで調子乗りやがって。お前あれだな、段々生意気になっていってるな?まあ元々だけどさ、なにそっちから距離縮めてきてんだ?おい、こら。そんな事してもウザいだけだし。私の好感度下がるだけだぞ?な?......ぬぅ。うるさいなぁもう。はいはい分かりました。お前には言うだけ無駄ってのが、何となく分かってきました。はいはい。ったくさ、お前と話してると......、......ん?いや、......ストレスは別に......感じない、けど。......まあその、あれ。私が言い出したサンドバッグだからな、多少スカッとするし、うん。......ありがと。
......あッ!?ちょッ......いちいちそんなんで喜ぶなよッ。お前、日常生活でお礼も言われないような立場なの?うっわ......。何か、本当に可哀想だね......。少し同情しちゃうわ......。あーあーもう嬉しいのは分かった。水を得た魚うおかよ。ありがとありがと。耳障りだから切るわ。じゃあな。......明日また、かけるから。もちろん、サンドバッグとしてね?