トラック02 『いざ小テスト勝負』
■トラック02
うーん……。
普通の時間に登校して傘は返してくれればいいってキャプテンは言ってくれたけど、結局朝早くに学校へ来ちゃったな……。
でも私に傘を貸したせいで、「妖狐と仲良くしてるぞー!」って他のクラスメイトからキャプテンが冷やかされたりしたら嫌だしね。
よいしょ、傘立てにキャプテンの傘を返して……と。これでよし!
……まだ皆が登校してくるまで1時間くらいあるなぁ。とりあえず教室に入って時間をつぶそうかな。
教室に一番乗りだぜ、開店がらがらー!……なんちゃって。
あれ? 一番乗りかと思ったらキャプテンがいる。
キャプテンおはよー。今日は早いね。
え、わたし? 私は、その、ちょっと早起きしすぎちゃって!
昨日の傘は傘立てに返しておいたよ。ありがとね!
それで君は、なんでこんなに早く登校してるの?
うん、今日英語の小テストがあるのは知ってるけど、それがどうしたの?
その小テスト対策で今日は一早く登校してきた……? わお、不真面目エースのキャプテンとは思えない!
ふむふむ。「英語の先生は俺たちのクラスの担任でもある。そして担任の机の中には当日の小テストが隠されている。なので先に問題を見て予習しておくんだ!」
……って、完全に不正行為だよ!?
いつもそんなことしてたの!? やっぱり不真面目エースのキャプテンだ!
まったく……。こんな朝早くに登校してきて勤勉なのか不真面目なのか分からないよー。
まだ皆が登校してくるまで時間があるし、小テストに出てきそうなポイントを教えてあげるから、今から勉強しよ? ね?
「俺はそんなに頭が良くないから意味がない」……?
たぶん頭が良くないんじゃなくて、単純に勉強時間が足りてないだけだと思うよ。
ほら、この前の授業で出てきたkill time(キルタイム)とか問題で出されそうじゃない? どんな意味だったか覚えてる?
え? 時計をぶっ壊す? 違うよ! 暇をつぶすとか時間をつぶすって意味だよ!
それじゃあこの熟語は覚えてる……?
うーん、覚えてないかあ。それじゃあ私が授業でとったノート貸してあげる。
大事なポイントは蛍光ペンでなぞってあるから、そこを重点的に覚えれば小テストにもある程度対応できると思うよ。
……あ、キャプテン。担任の先生が教室に入ってきたよ! 先生、おはようございますー。
<-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------->
出席番号18番の"あなた"を、不真面目エースのキャプテンと命名した担任の先生が初登場です。
今後もたまに天狐との会話に参加します。
<-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------->
先生「あら、空前 天狐(そらまえ てんこ)さんおはよう。あと出席番号18番のキャプテンは珍しく勉強かしら?」
天狐「は、はい。先生の英語の授業、今日小テストですよね? だから早めに登校して小テスト対策しているんですよ」
先生「へぇ~、キャプテンが小テスト対策ねえ。てっきり小テストを盗み見に来たのかと思ったけど、天狐さんもいるならそれは無いか」
天狐「あ、あははは……、そんなわけないじゃないですかー。ほら、キャプテン。そろそろ時間が少ないから頑張って暗記しようね!」
先生「なんだかキャプテンが苦虫を噛み潰したような顔をしてるけど……、まぁいいわ。キャプテン、天狐さんが隣の席だからってカンニングしたらダメよー」
先生「ふふっ、よろしい。それでは勉強を続けて。私は自分の机で、別クラスの小テスト作りをしてるから」
……。
ふぅー、ちょっと心臓に悪かったねキャプテン?
それじゃあ危機は去ったし、暗記頑張ってね。私も英語の教科書をもう一回見直しておくよー。
……。
ん、今度はキャプテンの友達が何人か教室に入ってきた。……あっ、キャプテンに私のノートを貸したままだ!
ど、どうしよう! 私のノートを借りているってバレちゃうよ……。
あぁ……、友達がキャプテンの机を取り囲んじゃったから、今からは割って入れない……。
とりあえず窓の方を見て、話を聞いてないふりしよう……。
……。
……。
「天狐のノート、綺麗に要点がまとめられてて分かりやすい。今回の小テストは貰ったも同然」……?
ひょっとしてキャプテン、友達に私のノートが綺麗だって力説してる……?
うぅ……、嬉しいけど私のノートってことは伏せた方がいいんじゃ……。
……。
……。
……雑談が終わったみたい。キャプテンの友達は……自分の席で小テストの勉強始めてる。
あっ、キャプテンどうしたの? そっか、ノート返してくれるんだね。
ノートが綺麗で覚えやすかった? それは良かった良かったー。
え……? 「せっかく天狐のノートが綺麗だーって自慢してたのに、俺のこと無視しなかった?」 そ、そんなことしてないよ!
その……、無視したわけじゃなくて、友達と一緒にいるのに、妖狐の私が関わると悪いかなーと思って……。
えっ、あれっ? なんでキャプテン笑ってるの? き、気にしすぎ……?
「今度話しかけようとした時、またスルーしたらジュース奢りの刑だ!」 ……ってええ!? 私がジュースを奢るの!?
というか今度も話しかけて……くれるの……?
た、確かに隣の席だけど……、本当に私とお話ししてくれるの……?
ううん、君とお話するのが嫌ってことじゃないの! むしろ逆!
傘を貸してくれたのも、話し掛けてくれたのも凄く嬉しかったよ!
じゃあ君とは友達……で良いんだよね?
わかった。じゃあ改めてよろしくね、キャプテン♪
ん? 「友達になってさっそくだけど、天狐と小テストで勝負がしたい」……?
えっ、敗者は勝者にジュースを奢る? それは友達というより悪友と言うんじゃ……。
なになに……。「世の中ちょっと悪いことするのが楽しいんじゃないか」……かぁ。
不真面目エースのキャプテンらしい言葉だけど、それってどうなんだろ? ……え?
「日本史の授業中に教師の目を盗んで、天狐がこそーっとグミを食べてるの見たことあるぞ」……?
わーっ! それ、君に見られてたの!?
うぅ……、認めます、認めますよ。ちょこっとだけ校則を破ったりするのって、楽しい時あります。ええ、ありますとも。
じゃあ小テストの勝負、受けて立つよ!
私が勝ったらおしるこが欲しいなー。うーん、マニアック? そうかな?
自動販売機でおしるこが売ってる時の幸福感ったらないんだよぉ……。
こ、古風じゃないもん! 美味しいから飲みたいだけだよ!
神通力で透視とか、千里眼でカンニングは禁止……?
ふふーん、当然だよー。正々堂々勝負だよー。
それじゃあ授業が終わったら、答案の見せ合いっこだからね!
<-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------->
場面転換。英語の小テスト後――。
<-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------->
ねぇ、キャプテン! 英語の小テスト、何点だった?
えへへ、私はねー98点だよー! 君は君はー!?
……75点? 「せっかくいつもより良い点を取れたのに、天狐は満点近いなんて卑怯だ」……?
ああっ、そんな膝から崩れ落ちるようにショックを受けなくても……!
あれ? キャプテン、どこ行くの?
え、自動販売機……? 男に二言はない、おしるこを奢る……?
わ、わぁぁ、やったぁ! おっしるこおっしるこ嬉しいなー♪
ではでは、ありがたく君に奢ってもらおうかなー。
えっとね、緑茶の隣にある方のおしるこが欲しいなー。
あー! 違うよ! そっちのおしるこじゃなくて、こっちのおしるこ!
もー、わざと違うボタン押すフリしたでしょー!
……はいっ♪ ではありがたくおしるこを受け取らせて頂きます♪
あ、そうだ。ちょっと待ってて。自分の財布財布……っと。
私も自動販売機に小銭を投入して、おしるこぽちーっと。
……あの、キャプテン? なんでそんなに呆れた目で私のことを見てくるの……?
え、二本もおしるこ飲むヤツ初めて見た……?
ち、違うよ! このおしるこは君の分っ。
昨日の傘のお礼に、そのおしるこは君にプレゼント!
むぅ、炭酸飲料の方が良かった……?
もうー、おしるこをバカにしたらダメだよ! 美味しいから飲んでみてよ!
……。
ふふーん、どう?
古風だなんて言ってたけど美味しいでしょ? この甘みが病みつきになるよねぇ……。
「今回は負けたけど、俺が勝つまで小テストで勝負を挑み続ける」?
あっ、次もやるんだ。英語に限らず小テストがある度に勝負!?
じゃあジュースを奢るのは無しにしよっか。
え!? 当然、敗者が勝者にジュースを奢るルールに変更は無い?
私は構わないけど、君は大丈夫なの?
そ、そっか……。
でもこれで不真面目エースのキャプテンが勉強に目覚めるというのも面白いかもしれないね。
それじゃあ、そろそろ教室に戻ろっか。ふふっ、おしるこ奢ってくれてありがと♪