トラック06 『天狐の告白 ~前編~』
■トラック06
先生「はーい、先週は中間テストお疲れ様ー。お待ちかねのテスト返却ですよー」
先生「最近は生徒の個人情報がどうとかで成績は公表しないのが常ですが、私のクラスでは遠慮なく晒し上げていきますよー」
先生「安心して下さい。成績が前より良くなった人と……、あ・と・は、急降下した人しか晒しませんから♪」
先生「じゃあさっそく出席番号18番、キャプテン!」
天狐「えっ!? も、もしかして、さらに下がっちゃったのキャプテン!」
先生「ふふっ、失礼ですよ天狐さん。キャプテンの成績ですが、前回より急上昇! 今回はクラスで3位の成績でした。おめでとう」
天狐「わお、すごい! キャプテン、いつになく勉強頑張ってたもんね。えへへ、おめでとー」
先生「隣の席だからってキャプテンと仲良く話してるところ申し訳ないけれど、天狐さん。あなたの成績も公表です」
天狐「はいっ、今回の私の成績……キャプテンより上でしたか? 下でしたか?」
先生「下でした」
天狐「あはは……、やっぱりそうでしたかー」
先生「ええ、キャプテンよりとーっても下でした。前回クラス2位だったのに、今回16位でしたよ。クラス一の下がり幅です……。次回は頑張ってくださいね」
天狐「はい、頑張ります! …………んふふー。中間テストも終わったし、またキャプテンといっぱい喋れるぞー」
先生「て、天狐さん……。人と打ち解けられるようになったのは先生としても嬉しいけど、こ、この成績の下がり方は頭が痛いわ……」
先生「他の人は成績に大きな変動はなかったですが、常に上を目指して勉強を頑張ってください。それでは皆さん、寄り道をせずに帰ってください。以上」
……。
ねぇ、キャプテン! 中間テストの約束、勝者は敗者に命令できるってルール、もちろん覚えてるよね?
今から空き教室に行こうよ。
あ! みなまで言わなくても良いよキャプテン!
男の子は誰しもそういう欲望を持ってるって言うし、私も覚悟を決めて特訓してきたから!
……なんでぽかんとしてるの?
だってキャプテンが勉強頑張ったのは、私に命令したかったからだよね? なら早く空き教室にれっつごーだよ!
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場面転換。放課後の空き教室――。
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ここの空き教室なら誰も来ないでしょー。
さて、キャプテン! 命令権について決める時、私に妖狐の術を使わせても良いかって聞いてきたよね?
男子が妖狐の術で試してみたい事と言ったら、変化(へんげ)の術でクラスの可愛い子に化けてもらって、ちょっとえっちなことしちゃったりとかだよね!
は、恥ずかしいけどキャプテンのお願いなら私聞くよ!
誰に変化したら良い? やっぱり黒髪ロングで正統派美少女の佐藤さん? それとも……。
……えっ。
俺がお願いしたい妖狐の術は変化の術じゃない……?
いやいや、変化の術だよね?
だって私が嫌だなって思うお願いって言ってなかったっけ……?
ふむふむ。今度の文化祭で劇をやる時に狐火を使ってくれないかって……?
狐火って何もないところで火がぽっと光る、あの狐火のこと?
確かに使えるけど、劇の時に狐火を使うの? あー、劇の演出に狐火の灯かりを使いたいんだ。
でもなんで中間テストの命令権を使ってまで、それを私にお願いしたいの?
「最近天狐はクラスに馴染めてきたし、今度の文化祭の劇にも積極的に参加してほしいから」……?
あはは。確かに狐火の灯かりを使って劇を演出することになったら、間違いなく演出の要になるねー。
「とはいえ天狐は大勢との交流って嫌がるだろうし、中間テストの命令権を使ってでも人付き合いさせてやるー!」って魂胆なわけだ。荒療治だねー。
……別にキャプテンさえいてくれれば、他の人とお話できなくても良いんだけどなー。……割と本心だよ?
えぇー? 「次の学年で俺とクラス別々になったらどうするんだ」……?
うぐ……、とーっても痛いところを突いてくるねキャプテン……。
でも君は私のことを思って、「狐火を使ってくれー!」ってお願いをしてくれてるんだよね……。
わかった! 君がそこまで言ってくれてるのにやりませんなんて言えないよ!
でも私が演出係に立候補する時、君も演出係に立候補してね……?
当然そのつもり……? やったやったー!
……えっ? 演出係なら台本のセリフとか覚えなくていいから楽そう?
や……、やっぱり不真面目エースのキャプテンだ!
……ふふっ、あはははっ♪ まぁでも私も人のこと言えないかな。
だって君のこと、「私に変化の術で可愛い子へ化けてもらって、ちょっとえっちなことを企んでるー」なんて勘違いしてたんだもん。
……ねぇ、私、苦手だった変化の術を練習してきたんだよ?
せっかく練習してきたんだし、君がクラスで一番可愛いと思ってる子に化けて抱きついてあげよっか……?
特別大サービスで抱きつかれながら言われたいセリフも囁いてあげるよー。
安心して! この事は誰にも言わないよ! この空き教室なら誰も来ないし!
ほらほらー♪ 我慢せずに言っちゃいなよー。誰のことをクラスで一番可愛いって思ってるのかな?
そしてギューってされながら、どんな言葉を囁かれたいのかなー?
おや、私を指さしてどうしたの? 変化してほしい子の名前を言ってくれないと化けられないよー?
……。
……え? もしかしてわたし……のこと、クラスで一番可愛いって思ってる……の?
あは、あははは……。君、いま顔真っ赤でおかしいよー?
いくら照れ隠れとはいえ、そんなわかりやすい嘘はいけないなー。
だって私、妖狐だよ? 君がいなかったら多分ずっとクラスに馴染めないままだったダメな女子……だよ?
天狐はダメなんかじゃない……? ダメなのは授業中こっそりグミを食べてる時くらい……?
こ、こんな時に隠れ食いのこと言わないでー!
うぅ……、わかった。私のことを一番可愛いって思ってくれてるんだね。君のこと、信じるよ。
……。
じゃあ変化の術は使わずに、君に抱きつく……でいいんだね? ……あ、抱きつかれながら言われたいセリフのこと忘れてた。
えっと、なにかリクエストがあれば、ど、どうぞ……。
えぇー?? 「好き」って言いながら抱きついてみろって?
うわぁ、今キャプテン、すーっごく悪い顔してるよ? 悪戯っ子の顔だよー。
残念ですが、その要求は却下でーす!
クラスの子に変化して言うなら別に良いんだけど、私の姿のまま「好き」なんて言葉、無理やり言わされたくないよー。
あはははっ。指示されての好きは言わないけど、抱きつくのはやってみようよ。こっちに来て?
それじゃあ、はぐだはぐー♪ はいー、ぎゅーっ。
えへへ、あったかいねー……。それに君ってけっこう身体大きいんだねー……。
……。
ねぇキャプテン……。
……。
………………大好き。
……。
君に指示されての「好き」じゃなくて、私の本心からの言葉だよ……?
もう2ヶ月くらい前になるのかな……? 君が傘を貸してくれてから、学校に通うのが少しずつ楽しくなったの。
私にとって君は、最初に出来た大切な友達。たぶんこれから出来るかもしれない友達の中でも一番の友達になると思うんだ。
そんな風に思えちゃうってことは、つまり大好きって事じゃない?
……君は私のこと、どう思ってるのかな?
……えへへ、俺も好き?
そっかー、大好きじゃないんだ? あはは、からかってごめんー。
でも君の「好き」と私の「好き」って、本当に違うかもしれないって思うんだ。
君の「好き」は友達として好きって意味だと思うんだけど、私の「好き」はそういう意味と……、あと……男の子としても好き……かもしれないというか……。
だってこうやって友達の君に抱きついてるだけなのに、実はドキドキしてるんだよ?
君と友達になれてから、学校で仲良くお話できるだけで良いと思ってたのに、最近はもっと仲良くなりたいなーって欲が出ちゃってるの……。
……。
うぅうぅー、全部言わないと伝わらないか……。
友達同士では絶対にしないこと……してみたいなって思ってるの……。
えっ!? 例えば!? ……例えば、……その……キス……とか……。
……。
キャプテン……。嫌だって言ってくれないと、本当にそういうこと……しちゃうよ?
……。
わかった……。
嫌って言うまで……そういうこと続けちゃうからね。ほ、本当にしちゃうからね!